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Mystery

私には友人のような双子がいた。

友人と言っても歳は20個ほど違っていた。
出逢いはそう、梅雨明けが発表され、初夏を迎えていた頃だったと思う。私がたまたま自宅の軒先に出て夕涼みをしていた時だ。急に声をかけられた。
「おばさん、こいつに顔似てるね。」
二人で下校している途中なのか、兄と思われる方が私に向かって話しかけてきたのだ。単純に失礼な奴だと思った。
「お兄ちゃん、やめなよ。」
弟らしき方が兄を制する。私は顔を上げた。
双子の顔もそっくりだった。そこで気づいた。彼らの顔は私にびっくりするほど似ていた。
「ボールペンどうしようか。」
「まさか、見つからないとはね。」
そんな会話を片耳に、世界には似ている顔の人が3人いるという話があったけど、この場にすでにそろってしまった。私はそんなことを考えていた。

次の日から彼らは頻繁に我が家に寄るようになった。ある事情から我が子を失った私は、彼らが懐いてくれてことが嬉しかった。彼らの姓はステリーといった。日本人離れした顔つきではなく、その名前はとても似合っていないような気はしたので、理由を彼らに聞いてみた。どうやら二人とも物心ついた時には施設に入っていたらしく、引きとってくれたアメリカ人の里親の苗字がステリーだったので彼ら自身も苗字としているらしい。ステリーを彼らはとても気に入っており、私も親しみを込めて兄をステリーお兄ちゃん、弟をステリー君と呼んだ(わかりにくい...)。基本的に私は彼らの会話を聞くだけであった。
「今日の(小林)ゆきちゃん元気なかったね。」
「(丸山)風太くんの足、速かったね。」
「(齋藤)典弘君はいつも本読んでるよね。」

雷の夜が二日続いた次の日だった。先週の暑さもマシになり、曇りが続いていてとても過ごしやすかったことを覚えている。二人が気になる会話をしていた。
「今日は、予想がつかなかったな。」
「うん、どういう法則なんだろうね。」
私は、その内容が気になったので聞いてみることにした。
どうやら、最近クラスの子の文房具がなくなることが頻発しているらしい。
先週は、鈴木太陽君の鉛筆、今週に入ってからは森田美玖の消しゴム、佐藤羽衣の消しゴムが今日盗まれていたらしい。話を聞くと、去年の冬頃は小林ゆきの鉛筆が盗まれていたという。
 彼らはどうも失くし物多すぎると考えたようだ。盗んでいる奴がいるとして、犯人を見つけ出したいようだった。しかし、動機もターゲットも不明であり、絞りあぐねており、特に今回の佐藤に関してはクラスの誰からも狙われるような覚えはなく、二人はあきらめムードであった。
「モノじゃなくて人を選んでる気はするんだけどな。モノは被っている。犯人は複数か、模倣犯かもね。」兄がいう。
「うーん、どうだろう。でも、狙う理由はないかも。」ステリー君が答えた。
「本当にただ、無くなっただけかもね。」
「そうかも。」
二人はそういって違う話を始めてしまった。
「テスト難しかったね。」
「英語なんてテストあるなんて聞いてないかったよ。」
「典弘君はすごかったね。満点だってよ、英語。藤井さんも国語満点って言ってた気がする。」
「英語はすごいな。平均点めっちゃ低かったのに。それ言えば、俺は算数満点だったよ。」兄が自慢するように言う。
「合計点は僕のが上だったけどね。」弟がニヤッと笑っていた。
「鈴木君は・・・、森田さんも・・・、佐藤さんは・・・、」
盗みもお金とかではないので目をつむれば、とても微笑ましい会話である。彼らはよくクラスメイトの話をしてくれる。仲のいい素敵なクラスの雰囲気が窺える。なんだか、本当に母になれたような気がする。文房具も本当になくしてしまっただけであれば、いいなと思いながらも私は犯人に気付き始めていた。

きっと天気だ。
前日の天気に合わせて犯人はターゲットとなる人物を選んだのだろう。モノは盗みやすいのを選んでいるだけだろう。去年の冬が小林ゆきであり、太陽君と二人だけであれば分かりやすい。
晴れ→鈴木太陽君
雪→小林ゆき
曇りもまだまだわかる。
曇り→森田美玖(み“くもり”た)
問題は佐藤羽衣である。前日は雷が鳴っていた。
雷は英語で”thunder” t,h,underと捉えるとtとhの下という意味になる。アルファベット順に並べるとtの次はu、hの次はiということでUI(うい)となる。このようなところだろうか。英語が得意な典弘君だろう。こんな言葉遊びを考えるのは。典弘ものりひろではなく、てんこうと懸けているのかもしれない。まあ、どうでもいい話ではあるが。それよりも、梅雨の時期にボールペンをなくしていたステリー兄弟のことが気にかかる。彼らもターゲットのうちにあるのなら、、、



ある母の独白

私の子供たちはあの男に孕まされた子たちでした。本当にゴミみたいな男でした。
でも、子どもたちは大好きだったから手放したくなかったのです。
物心もついていない子ども2人を育てながらの3人での生活は苦しくも楽しいものでした。本当にこの子達さえいればと毎日、毎時間思っていました。
しかし、そんな幸せな生活も長くは続きませんでした。
あの男からの養育費が払われなくなってしまったのです。
私には裁判で戦う力も時間もなく、泣き寝入りするしかありませんでした。
私一人ではすぐに限界が来てしまい、この子達は児童養護施設へ連れていくしかなかったのです。



時間は経ち次の春。
ある時、ステリー兄弟の髪の毛をDNA鑑定に出してみました。彼らからのお願いでした。あまりに顔が似すぎているからというかわいい理由だったのと、私にはいつかとは違い、金銭的な余裕ができていた。さて、DNA鑑定の結果は親子を指すものでした。

私、雨宮そら。子どもたちが10年ぶりに帰ってきました。

おかえり、私のステリー(MY stery)

Mystery

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