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心は針金

「心は針金のようだ。一度ねじ曲がってしまうと、再び真っ直ぐになるのは難しい。」
ボブはそう語る。


というのも、ボブはエレメンタリースクールに通っていた頃、Mathが苦手だった。

そして、ある日こんな宿題が出た。

AさんとBさんがいます。二人は30kmあるイケ池の同じ地点から同時に、Aさんは時速20kmで、Bさんは30kmで走り出しました。BさんがAさんに追いつくのは走り出してから何時間後でしょう?

エレ・エレメンタリースクールの宿題より

ボブには当然わからなかった。
しかしながら、担任は彼を回答係に指名した。これくらいわかるだろうと。

当然わからないボブ。どうしよう。
彼は実際に池の周りを走ってみることにした。

問題文にあるイケ池は、スクールの道路を挟んだ北側に実在する。問題に興味を持ってもらおうとした担任の粋な計らいだ。

さっそく幼馴染のアリスを誘って、池の周りを走り出した。ちなみにボブがAさんを、アリスがBさんを担当した。まったく天邪鬼なんだから。

〈次の日〉

いつもはしんどいMathの時間も、今日はなんだか気が軽いボブ。それどころか早く答えを発表したくて落ち着かない。

そして、ついに答えを発表する時が来た!
これでMathが苦手な自分とはバイバイだ!
ボブは自信満々に答えを言った。


しかし、答えは間違っていた。

ボブには当然わからなかった。昨日は二人とも等速で池の周りを走ったはずだからだ。少なくとも自分はそうだったはず。

ボブはアリスを疑った。

その後の休み時間、ボブは彼女に聞いた。
「ねぇアリス、君は本当に昨日、時速30kmで走っていたの?途中で変速してない?」
彼女はうなずく。

いやそんなはずはない。
「でも、僕は間違えた。恥をかいた。だったらどうしてこうなったんだよ!!!」
ボブは少々、声を大きくして言った。

「でも、でも私、ちゃんとやったもの!」
アリスが返す。涙目になっている。
ボブもつられて泣きそうになる。

すると、担任がダブル涙目を感知してやってきた。二人から事情を聞いた担任は言う。
「実はイケ池の周りは30kmではないの。約30kmなのよ。だから、ちゃんと走ってもそれは答えにならないの」


ボブはがっかりした。
そう説明されても、ボブはMathが苦手だからよくわからないのだが、アリスががっかりしていたので、つられてがっかりした。

担任は続ける
「でも、今回二人が等速で走ってくれたおかげでイケ池の周りの長さが正確にわかったね」

妙に感の良いアリスは気づく
「この問題の逆をやれば良いのね!」

ボブはよくわからなかったが、どうやら自分達が走ったことが無駄では無かったということを雰囲気で感じとった。

むしろ無駄なのは、Mathの問題を解くことだということも。

ボブはアリスと仲直りした。
そしてボブは、よりMathが苦手になった。


そんなボブ、今まさにMathと戦っている。

ボブはその後の人生で、Mathにも価値があることを雰囲気で感じとったのだが、それでもあの日感じた無意味さは心のどこかにあり、足を引っ張っている。戦っても無駄なのだと。


その日、ボブは帰り際に言った。
「100均で売ってる毛の生えた針金、捻るとハゲるよね」

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