そばにいて
ピピピ ピピピ ピピピ
─ あ、少し下がった。37.8度。
昨日は38.5度だったから少しよくなったかな。
でもどうしよう。今日来る予定の郁へのLINE。昨晩から書いては消して書いては消して、結局出せずにいた。
まだ熱があるからか、流石にだるい。医者に行こうにもしんどい。買っておいた水もなくなってきたし。
ほんとは、こんなこと知らせちゃいけないんだ。受験生の郁にうつしたら大変だ。用事があるとか、なんとかいえばいいのに、言い訳さえも頭がまわらない。
しかたがない。郁にLINEする。
「わるいんだけど」
「今日夜でもいいから来るとき、ポカリと何か食べ物買ってきてくれる?」
「ちょっと風邪引いちゃってしんどい」
ピロン 『わかりました。すぐいきます』と速攻返事が来る。
─ ごめん、郁。来るなって断ればよかったけど・・・。
週末しか会えないから・・・やっぱり顔がみたい。
☆ ☆ ☆
郁(ガチャ)「先輩、大丈夫ですか?」
「あー、やっぱりきちゃったか。ごめん、悪い。授業いいのか?
だけどお前、そばに寄るな。」
「買ったもの、そこのテーブルにおいておいてくれ。」
郁「熱何度です?」
「いやーたいしたことないよ。」「あれ!」
郁「ふふふん、これならそばにきてもいいでしょ?」
─ 郁はマスクと、白衣と、ゴーグルと、へんな帽子までかぶってる。帽子意味あんのか?
「ごほごほ、そのかっこ、ウケる」
郁「ちょっとウケ狙い。くくく。でも俺の美貌が見えないから、ゴーグルと帽子はとっとこ」
「美貌って・・・」
郁「いま、りんごをするから待ってて。あと、ポカリも。たくさん水分とって」
「・・・ごめんな」
郁「ごめんっていいすぎ」「もっと早く言ってくれないと、かえって心配します」
─ 郁の顔をみたら、なんだかほっとしちゃって、眠くなってしまう。
郁「先輩、すりおろしりんごできましたけど、食べます?」
─ ひんやりしたりんごは美味しそうだな。
「うん、食べる」
郁「ちょっと音楽でもかけていいですか?」「気に入ってる曲があるんす」
─ お約束のあ~ん、をしたがる郁を追い払ってりんごを食べる。
シャキシャキとした冷たい歯ざわりが、熱っぽい体に心地よい。
それにしても・・・そんなに見つめられると、手がぎくしゃくしちゃうじゃないか・・・。
♪ ~ キミの目が 貫いた 僕の胸をまっすぐ
その日から 何もかも 変わり果てた気がした~
「この曲って?」
郁「菅田将暉が歌ってる『まちがいさがし』米津玄師がつくったんす。いい曲でしょ?」
♪ ~ キミの手が 触れていた 指を重ね合わせ
間違いか正解かだなんて どうでもよかった~
─ これ、俺たちの、いや俺の曲みたいだ・・・。
郁の目をみる。
このまっすぐな目は、たしかに俺の胸に刺さった・・・。
あ~なんかまた熱が上がったかも。
郁「♪ ~ 誰にも見せない 顔を見せて~ 」
─ マスクで見えないけど、ちょっといやらしく笑ってないか?
郁「先輩、早く治ってくださいよ」
郁「でないと、キスさせてくれないでしょ?」
「っっっっん」「もうねる!」「その曲、もいっかいかけて!」
─ くくく、と郁は目だけで笑った。
fin
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