社会起業を成功させるために。
ここ数年、起業家支援者として活動する中で、様々な社会課題をビジネスで解決しようと試みるソーシャルアントレプレナー(社会起業家)が一気に増えてきたことを実感しています。
僕が活動している東北においても、様々な社会起業家が活躍しています。
例えば、異彩作家とともに、新しい文化をつくるアートエージェンシーの「ヘラルボニー」さん。
知的障害を持つアーティストが描く作品を財布や家具などのデザインに起用し、独特の異彩を生かした様々な商品展開でファンを増やし続け、成長を続けるソーシャルビジネスです。
もうひとつ紹介しましょう。
世界的な海洋汚染の要因となっているプラスチックゴミの割合の多くを占める漁具を”資源”と再定義し、廃漁具を回収し、アパレルをはじめとした様々な商品を開発し、ブランディングを確立させている、宮城県気仙沼市発のスタートアップ「AMU」さん。
これらのスタートアップ企業に共通しているのは、
・大きな社会課題解決をミッションにチャレンジしつつ
・着実に収益を出している。
ことです。
SDGsやサステナブル、カーボンニュートラルやエシカル消費といった、社会的課題を解決するための思想や取り組みは世界的に大きなブームになっており、特にZ世代以降の人々の価値観と相性の良い思想/取り組みであることも相まって、人々の関心はこれまでの資本主義経済の根本を覆す可能性すら秘めている社会課題解決というテーマに、今後よりシフトしていくことは間違いないと思います。
そんな中、社会起業家が増えていることも頷けますよね。
しかし、日々起業家や起業家志望者のメンタリングをしている中で、ほぼ共通している問題を僕はなんとかしたいと思っています。
"「めっちゃいいビジョンだね!でも、どうやって稼ぐの?」"
”「いいけどそれってボランティアだよね?」”
僕はずっと事業家をしてきましたが、「稼いだお金」=「社会に貢献した度合い」の大きな指標のひとつだと思っています。
これは起業家に限ったことではなく、働くすべての人に当てはまることだと思います。
ところが多くの社会起業家/社会起業家志望者は、最も重要な”収益獲得”のロジックが欠けたビジネスモデルしか描くことができていません。
それは無理もありません。なぜなら資本主義経済における社会課題解決というのはある種正反対の概念同士であり、それらを調和させて”三方良し”を実現させることは容易なことではないからです。
ならばソーシャルビジネスというものはそもそも資本主義経済の中で市民権を得ることは難しいのか?社会起業家が稼ぐことは難しいのか?
といえばそんなことはありません。
社会的に良いが収益獲得ロジックが欠けたビジネスモデルから抜け出せない理由はほとんどの場合以下の3パターン。
もしくはこれら全てが当てはまっているケースも少なくありません。
①顧客と課題の解像度が低い
②ソリューションの選択肢が狭い
③そのソリューションにお金を払う人が不在
ここに尽きるのではないかと思っています。
「不幸な人を幸せにしたい!」これは非常に解像度が低い粗い課題設定。
前述のヘラルボニーさんでいえば、「就業機会の少ない知的障害者が異彩を発揮して創造を促進し、そこに賛同した顧客に繋げる」という非常に高い解像度の課題とそこに対する着実なソリューション提供で経済を成り立たせています。
もし、「知的障害を持つ人の課題」を低い解像度で設定した人がビジネスに着手したら、おそらく「知的障害を持つ人を支援するNPOを作る!」とか、「知的障害を持つ人が働ける場を作る」に終始し、"顧客不在"のビジネスモデルで走り出してしまうかもしれません。
(一応、NPO反対派でもなんでもないことを加えておきます。)
AMUさんも例にしてみましょう。
もし、海洋汚染問題に着目し、海洋プラスチックゴミの課題解決に低い解像度で臨んだらどうなるか?
「海洋ゴミを回収するロボットを作る!」となるでしょうか?
もちろんそれも素晴らしいアイデアです。が。
(一応、ガジェット反対派でもなんでもないことを加えておきます。)
AMUさんもヘラルボニーさんも、
・高い解像度で顧客課題を捉え、
・"お金を支払う人が確実に存在するゾーン"で、
・着実なソリューションを提供
しています。
では、課題の解像度を高め、お金を支払う人が確実に存在するゾーンで、着実なソリューションを提供するビジネスモデルを描くためにどうすれば良いのか?
顧客と課題は具体的に、解決手段の選択肢は広く。
新規事業で陥る失敗要因の多くが、「シーズありきのビジネスモデル」から始まっていること。
シーズとは、自分/自社が持っている知的資産、技術といったすでに持っている資源のことを言います。
一方で、うまくいっている新規事業の場合、顧客と課題は具体的に定義しつつも、解決手段の選択肢を多く持ち、そこから適切な解決策を選択する、あるいは複数を融合させてビジネスとして成り立たせていきます。
そのために、「シーズありきの自前主義」から脱却して、必要なリソースを持つ関係者と連携したり、発想を転換させ、様々な角度から課題に対する解決策を提示しています。
ここで必要なのが、思考の収束と発散です。
解決したい社会課題が定まったら、どんな人のどんな課題を解決するのか?を絞っていきます。(収束)
一方で、アイデアを発散させ、課題に対する解決策を考えていくための、あらゆる手段の可能性を模索していきます。(発散)
・あの企業/人と連携して解決できるのではないか?
・あの業界のビジネスモデルを当てはめてみたらどうだろうか?
・あのテクノロジーとの相性がいいのでは?
といった具合です。
ここまで、「顧客と課題の解像度を上げる」「解決策を出す選択肢を多く持つ」ということについて書いてきました。
参考になれば幸いです。
ここからが本題。
ではどうやってその解決策にお金を支払ってくれる人を見つけるのか?
最後にこれについて書きたいと思います。
ファンを獲得する意味的価値を確立せよ。
おおよその場合、自分が考えているビジネスアイデアはすでに世の中にあったり、その他大勢が同じことを考えていたりします。
すでに自分が考えているビジネスを展開している会社があれば、良いところはとことんパクりましょう。
そしてそこからどう差別化するか?それは、
”自分のビジネスに意味的価値をもたらす”
ことです。
このことについては過去記事でも書いているので、よかったらご笑覧ください。
冒頭に紹介したヘラルボニーさんとAMUさん、それらに限らず多くの成功しているソーシャルビジネスの共通点は、ブランドの「意味的価値」を確立させ、そこに多くのファン(消費者)を持っているというところにあります。
へラルボニーやAMUの商品を持つことで、
・社会課題解決の一助になっている自分への肯定感
・ソーシャルビジネスの商品を持っているという心理的満足感
といった情緒的価値にファンがお金を払っているのです。
同機能、同品質の商品は世の中に数多あるにも関わらず、意味的価値に魅了されてファンになり、お金を払う。
そろそろまとめましょう。
社会起業家として稼げるビジネスモデルを実現させるために、
「顧客と課題の解像度を上げる」
「解決策を出す選択肢を多く持つ」
「商品に意味的価値を持たせ、お金を払ってくれるファンを見つける」
ご参考になれば幸いです。
お読みいただきありがとうございました。