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【小説】タイトル未定〜微妙に異世界へ行く話(中編3)

▼前回


冷たい石造りの階段を登っている。何かに引き寄せられるかのように
重い足を引き摺りながら上へ、上へとゆっくり登っている。

スニーカーの先のゴム素材の汚れを見つめながら、こんな靴をずっと履いていたのだろうかと嫌悪する。掠れた黒ずみが見つめるほどに広がっていき、コンクリートのシミやヒビと同化するのをただ眺める。

何故こんな階段を登り始めてしまったのだろうか。体は鉛のように重い。揺れる両腕が邪魔でしんどい。一階から十八階までヒール付きの靴で登った事もあったのに、今日は随分と調子が悪い。

さっき三階だったから次が四階……あれ、まだ三階か。もう嫌になってきた。しかし休憩してしまったら体が動かなくなってしまう気がする。考えずとも踏み出してしまう自分の足にすら失望している。

また同じこの階段を降りなければならないなんて面倒だな。いっそこの石の壁を乗り越えて仕舞えれば、あっという間に地上へ着けるだろうに。

そしたら明日から仕事行かなくて良いんだ。そりゃいいや。何しようかな。
何もできないか。………………。








「ガーディアンフォースアルティメットフレイヤー!!!」

見知らぬ団地で絶叫する言葉がびりびりとセメントを反響する。良い歳をした成人女性が一人、階段の踊り場で一人腰に手を当て、右足は前、左足は後ろに伸ばす姿勢で、更に天井を煽りながら咄嗟について出た言葉だった。

誰かが見ていたら非常に恥ずかしい光景だろう。しかし当の本人は額に薄らと汗をかき、己の心臓の存在を感じる程の、異常な脈の強さに驚いて目を見開いている。
自分で思ってもみない行動をしてしまい只々動揺しているが、側から見ればそれは動揺を表す姿勢ではない。

それでも、先程までの良からぬ考えに支配されていた感覚は、悪霊が去ったかのように消えている。
正気になる為の言葉なんて何でも良かった。

微かに逃げていく誰かの気配がした。子供だろうか。変なものを見せてしまってすまない。だがこれは仕方なくやった事なんだ。大人の女なんて実際はせいぜいこんなものだ。

最上階から見下ろす町の景色は、夕方に差し掛かろうとする日光が家々や道路を照らして黄金色に輝いていた。
散々歩いて来た道も、上から見下ろすとこんな感じだっただろうか。コンビニも見当たらなかったので、かなりの田舎だろうと始めに感じていた程には閑散ともしていない。また僅か五階からの眺めでは、降りてきた駅は流石に見えなくなっていた。

この最上階まで登った目的は例のものを見つけるためだ。

見つけた。あれだ。…………あれだよな?
建物は白く、この距離では鍾乳洞にある巨大な石筍のようにしか見えない。
人の形をしているようでもある何とも言えないそれは、平凡な町の景色に反して不自然に配置されている。

もうだいぶ近いところまで来ていたようだ。
例の建物と路線の位置を確認し、軽い足取りで階段を降りていく。まだ空が明るいにも関わらず、団地の蛍光灯がぱちっと明かりを灯した。


ーーーーーー
▼続き



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