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【小説】タイトル未定〜微妙に異世界へ行く話(中編2)

▼前回


チョコだと思って買った小判がただのプラスチックだった。先程通りかかった駄菓子屋で買ったものだ。下町などで稀に見かけるような小さい店構えで、今やスーパーやコンビニで購入される事も多いであろう駄菓子等が、瓶に模したプラスチック容器に詰め込まれてずらりと並んでいた。

規律良く置かれた容器の一つ、わざとらしい位きらきら光る小判型のそれが目に止まり、手に取ってみれば見た目に反して非常に軽く、『百万両』と印字された裏面には象のキャラクターが笑っている。何も買わずに出るよりは、といくつか無作為に選んだ商品の内一つがこの小判だった。

銀紙を剥がそうと小判の縁を引っ掻きながらこれが食べ物でないと悟った瞬間、思うように餌が食べられない猿を連想してしまい苦笑する。

チョコと思っていたものが、チョコでもなくだたのフェイクだった。
まあいいや。偽の小判はポケットへと仕舞われる。

そんなことをしているうちに道が途切れてしまい、線路沿いに歩けなくなった。また線路に近い道に出られるよう、外れた道をねり進んでいたつもりが
そのまま分からない道を来てしまって、つまり迷子になった。

今の場所を検索したいが、こんな時ほどスマホの回線が異常に重い。そして方向音痴のくせにそれを待つ事も出来ずにふらふら歩き続けてしまう。知らない土地を歩いているはずとは言え、あまり不安な気持ちにはならない。自らを取り囲む景色も、駅を降りてきたよりも少しずつではあるが人の居住を更に感じられるようになる。

今の所、東京近郊の郊外辺りではよくある風景ばかりが広がっている。だだっ広い月極駐車場、個人向けの貸し農園、そして赤々と色づくツツジの垣根の奥に聳え立つ団地だ。

建物と生き物はデカい程良い、というのは個人的趣向だが、とにかく巨大な建物はなんだか見ていられる。小さい頃の友人は誰かしら団地やらマンション等に住んでいて、敷地内の階段を駆け回ったり入ってはいけない屋外の扉をよじ登ったりして怒られたりもした。

また夜になると蛍光灯の青白い光や切れかかった光の点滅が、ホラー映画のようにも感じて怖いのだけれど、どこか非現実的な世界に入り込んでいるような気分になり、家に帰った時の安堵感までもが記憶に残る。当時はもっと怖く感じていただろうか。どちらにせよそれらは私にとって良い思い出だ。

ただ大人になると、そんな事をわざわざ言う機会なんてない。

「私の家、団地だったからさー。」
いつかの同期だった同僚の何気ない会話を思い出す。そう言われて団地良いよね、好きなんだよなー。なんて会話はしないもので、ああ、そうなんだ。と返した覚えがある。そう返事して本当に良かった。としみじみ思い出すことが度々ある。

言っても良かったのかもしれない。だが彼女の会話の前後から特にそこまでして言う『我』なんて求められていない。今言う事では無いと察した。

そういった時、ああ大人だなー。と実感する反面、どれぐらいの事を、どれだけ先回りしなくてはいけないのだろうか、と辟易している自分も薄ら存在する。

ツいていない日は何故こんなに嫌なことばかり考えてしまうのだろう。それ以前に自分は思いのほか疲れているのかもしれない。沢山歩いてむくみ始めてきた足で、五階はありそうな団地の階段をふらつく足取りでゆっくり踏み始める。

一向にあの牛久大仏みたいな巨大な建物は見えてこない。


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▼続き


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