見出し画像

シンデレラ自身の人生を生きる/童話「シンデレラ」

れんこんnote 063


シンデレラ自身の人生を生きる

 女子大学で、童話「シンデレラ」の続きを描く課題を出したことがあります。

 童話の続きの出だしは、

「シンデレラと王子はめでたく結婚しました。しかし、シンデレラは、シンデレラシンドロームにかかっていましたし、王子は、ピーターパンシンドロームにかかっていました。」

と指定しました。

 「テーマ」は、「シンデレラシンドロームから脱出する」ことです。

 この課題に、私も挑戦してみました。
 よろしければ、お楽しみください。

童話「シンデレラ」の続き

 シンデレラと王子はめでたく結婚しました。
 しかし、シンデレラは、シンデレラシンドロームにかかっていましたし、王子は、ピーターパンシンドロームにかかっていました。

 結婚して間もなくは、さまざまな国の王や王女、王子たちがお祝いに駆け付けましたので、シンデレラは接客に大わらわでした。
 王子も機嫌よく、会話やダンスを楽しんでいました。


 結婚の祝宴がひと段落したところで、王子は領内の見回りに出かけました。
 シンデレラは、宮殿内で料理や清掃などの指揮をしながら、王子の帰還を待ちました。
 ところが、王子は見回りに行ったきり、なかなか帰ってきません。


 やがて、領内を束ねる執務が滞ってきました。

 シンデレラはとても責任感が強く、何でも頑張ってしまう女性でしたので、王子に代わって執務を取り仕切るようになりました。

 王子は、行った先で面白いことがあると、それに夢中になってしまいます。
 宮殿に帰ってきても、宮殿内での執務よりも見回りの方が楽しいので、すぐに出かけてしまいます。

 王子は、宮殿内の執務をシンデレラに任せきりになってしまいました。

 シンデレラは、結婚前と同じように、宮殿内の仕事すべてをやることになり、コマネズミのように働き続けました。


 継母や義姉が訪ねてきたときには、シンデレラは盛装して、召使たちに接待をさせました。
 しかし、気の許せる友人には、お化粧も簡単に済ませ、普段の自分の生活を見せていました。


 友人の一人であるティンカーベルが、シンデレラに尋ねます。

「シンデレラ、今、幸せ?」
「幸せよ」「継母や義姉と暮らしていた頃と比べたら、天国よ」

「そうかもね」「でも、働きづめは、あの頃と同じね」
「そうね」「でも、今は、王子がいるから」

「その王子が、帰ってこないじゃない」
「……」


 答えに窮したシンデレラに、ティンカーベルは言います。

「シンデレラに甘えたいときだけ、王子は帰ってくるのよ」
「王子は、ピーターパンだから」
「このままでは、あなたは疲れ果て、精神的にも不安定になってしまう」
「助けてあげたいけれど、私にはあなたを助けることができないの」

 ティンカーベルの言うことを、シンデレラは静かに聞いていました。

 シンデレラは気づいていました。
 自分がシンデレラシンドロームに罹っていること、そして、ウェンディ・ジレンマに陥っていることにも、気づいていました。

 さらに、王子と別れるつもりはないので、ティンカーベルタイプになれば良いということにも、気づいていました。

 でも、ティンカーベルのように、気ままにプイっと飛んでいってしまうことはできません。
 どうしたら良いでしょうか。シンデレラは悩みました。


 シンデレラは、森のフクロウに教えてもらっても解決にはならないことを知っていました。

 自分の人生ですから、自分が納得する答えを自分で見出すしかないのです。


 シンデレラは、夫である王子とよく会話をするように心がけました。
 楽しいことや嬉しいことばかりではなく、辛いことや苦しいことについても語り合いました。

 解決の糸口を見つけるためではなく、互いを理解し合うために、語り合いました。

 シンデレラは、自分がやりたいことは何だったかと自分に問い続けました。

 王子と結婚することが目的だったわけではありません。
 義母や義姉との暮らしから脱出することが目的だったわけではありません。

 目的は、王子と幸せに暮らすことでした。


 ですから、どうしたら王子と幸せに暮らせるかについて考えることにしました。
 そして、それを王子と共有することにしました。

 シンデレラと王子はまだ子どもを授かっていません。
 子どもを授かったら授かった人生を、授からなかったら授からなかった人生を幸せに暮らしていこうと、シンデレラは思っています。

 結婚生活はまだ始まったばかりです。
 自分のやりたいことも変化していくかもしれません。
 でも、王子と互いを理解し合いながら、人生の山谷を乗り越えていこうと、シンデレラは考えました。

 王子のピーターパンシンドロームは、いずれ治っていくとシンデレラは信じています。

 子どものような好奇心はそのままでしょうが、他者を思いやる気持ちや責任感、自己対話力などは、責任ある立場になるにつれ、王子は身に付けて行くだろうと、シンデレラは楽観視しています。



 果たして、シンデレラは、王子とともに幸せな人生を送ることができるでしょうか。



 人生は、ハッピーエンドで終わることはありません。
 人生に、完結はないからです。
 シンデレラの人生も、未完のまま終わるでしょう。
 そして、残された人たちの人生は続いていきます。

 では、これから、シンデレラはどんな人生を送っていくでしょうか。
 このお話で、シンデレラの未来を決めてしまうのはやめることにします。
 未来はまだ決まっていないのですから。

 人は皆、さまざまな偶然に遭遇します。
 その偶然をどう活かすかで人生は違ってきます。

 シンデレラは、偶然をチャンスと捉え、そこから未来を創っていこうと決心しました。

 ですから、シンデレラはたくさんの偶然をチャンスに変えて、王子とともに素敵な人生を築いていくことでしょう。




いいなと思ったら応援しよう!

れんこん/奥井
応援していただけたら、感謝いたします。いただいたチップは学びに使わさせていただきます。