「鉢」の行く末を描いてみました/昔話「鉢かづき」
れんこんnote 067
「鉢」はどうなったか
鉢かづき姫は、3人の子どもに恵まれ、観音様に感謝しながら幸せな生活を送ったということですが、「鉢」はどうなったのでしょうか。
昔話には、「鉢」の行く末は描かれていません。
あんなに姫を守って、活躍したのに、一言も記述がないというのは、「鉢」への思いやりがないのではないでしょうか。
そこで、「鉢」のその後を探ってみることにしました。
鉢かづき姫が生きていた頃
結婚した鉢かづき姫は、自分を守ってくれていた「鉢」をとても大事にしました。
鉢をきれいに洗い、床の間に飾り、毎日、手を合わせて感謝していました。
鉢かづき姫は、鉢を見ると頑張っていた頃を思い出し、元気や勇気が出てきました。
母親が被せてくれた鉢を心の支えにして、鉢かづき姫は生きて行きました。
3人の子どもたちが「さなぎ」の時期を迎えたときには、姫自身が鉢に代わって子どもたちを守りました。
子どもを守る母親がいるので、鉢の出番はありませんでした。
鉢かづき姫が生きている間は、鉢は床の間に飾られ、大事にされました。
鉢かづき姫の子どもの代
やがて、鉢かづき姫が亡くなり、子どもたちの代になりました。
子どもたちも鉢を大事にしていましたが、鉢が壊れることを心配し、丈夫な木箱に入れ、蔵にしまうことにしました。
鉢が蔵にしまわれてから、長い年月が経ちました。
鉢かづき姫の子孫の代
あるとき、鉢かづき姫の子孫が蔵を整理して、「鉢」を見つけました。
ときは、22世紀になっていました。
子孫には「鉢かづき姫」の話が語り継がれていましたし、「子どもの成長を守ることが難しくなったら、蔵の木箱を開けよ」という言い伝えも残っていました。
22世紀前半の状況
21世紀は、気候変動や世界的な紛争、格差や憎悪の増大、人工知能の進化に伴う労働観の激変などで、大きく揺れ動く時代でした。
22世紀も当初、21世紀末にピークを迎えた世界の人口が大きく減少し始め、価値観の転換が起こりました。
成長を前提とする「資本主義」は機能しなくなりました。
需要がどんどん減少していくので、「お金がお金を生む」ことがなくなったのです。
21世紀には、新たな価値を創造することで、新たな需要を生むことができ、資本主義は存続すると言われていたのですが、実際に世界の人口が減少し始めると、新たな価値が創出されても一時的な需要が喚起されるだけで、需要は減り続け、資本主義の存続が危ぶまれる状況になりました。
21世紀末には、「物質主義」から「脱物質主義」への価値転換が広まり、脱物質主義の多様な価値観があふれました。
しかし、個々人は多様な価値のうち数個からせいぜい十数個を消費するだけで、新たな価値を無限に消費するわけではありません。
22世紀になっても、エネルギーはどんどん生み出せるので、生産はできました。
ただ、消費ができないので、資本主義の恩恵を受けている人たちは困りました。
消費を増やす方法はありました。
それは、戦争です。
戦争で破壊すれば、再建しなければならないので、消費が増えます。
資本主義を存続させるために戦争を起こそう、と考える人たちがいました。
一方で、戦争を阻止するために資本主義に変わるものを見つけよう、と考える人たちがいました。
その人たちの間で、猛烈な戦いが始まりました。
それが、22世紀前半のことです。
22世紀前半の子どもたち
こうした22世紀前半には、子どもの成長を守ることが難しい時代を迎えていました。
21世紀に発達したグローバル経済で、全世界に多様かつ複雑な分業体制が構築され、人々は世界各地で生産されたものを消費して暮らしていました。
しかし、需要が減少したために、グローバル経済を支える資本主義が揺らいでいます。
そのため、物資が行き渡らなくなりました。
最低必要な衣食住を満足に与えてもらえない子どもが増えてしまったのです。
お金持ちも困っています。
お金をいくら持っていても、お金の価値がどんどん下がるので、物と交換できません。
住まいの修理も滞るようになり、お金持ちの子どもも衣食住を十分に与えてもらえなくなりました。
「鉢」の出番
こうした時代に、鉢かづき姫の子孫の一人である「鉢かづき京太郎」が「鉢」を見つけたのです。
京太郎が木箱を開けると、
「鉢には、子どもの成長を守るという能力があります。
子どもの成長を守ることが難しくなったときには、この鉢を被りなさい」
と書かれた木札が鉢にかかっていました。
京太郎は、家族や仲間の立ち合いの下、鉢を被ることにしました。
鉢を被った京太郎とその仲間たちが繰り広げる出来事については、後でゆっくりとお話しすることにしましょう。
今はまだ、京太郎とその仲間が鉢の教えを学び始めたばかりです。
今後、事態が展開し始めたら、ご報告することにしましょう。
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