浦島太郎はなぜ老人にされたか/昔話「浦島太郎」
れんこんnote 085
浦島太郎はなぜ老人にされたか
現代版「浦島太郎」のあらすじ
むかし、むかし、あるところに浦島太郎という心やさしい漁師が住んでいた。
浦島太郎がいじめられている亀を助けると、亀が「お礼がしたい」というので亀の背中に乗って竜宮城へ行く。
竜宮城では乙姫に迎えられ、踊りや食事の歓待を受けて楽しむが、7日たって歓待に飽きて帰りたくなる。
帰るときに玉手箱を渡され、「絶対開けるな」と言われるのだが、帰ってみると、知らない人ばかり。
300年たっているとわかって悲嘆に暮れ、玉手箱を開けてしまう。
すると煙を浴びて老人になってしまう。
なぜ浦島太郎は老人にさせられたか
心やさしい漁師が、7日間の歓待を受けただけで、老人にされてしまうという何とも理不尽な話です。
意味がわからないので、『御伽草子』を調べ、室町時代の昔話「浦島太郎」も読んでみました。
『御伽草紙』にある昔話「浦島太郎」
『御伽草紙』にある浦島太郎の話では、助けた亀が若い女性となって現れ、女性の故郷である「常世の国」に行き、そこで結婚するという話になっています。
常世の国で何の不自由のない暮らしをしていたのですが、浦島はホームシックになってしまいます。
「一旦帰ると、もう戻ってこれない」と女性は悲しむけれども、浦島はどうしても故郷に帰ると言って帰ることになります。
浦島の世界と常世の世界では時間の過ぎ方が違うので、浦島の時間を封じていた玉手箱を女性は浦島に渡すという展開になっています。
こちらの話のほうが、納得できる話に思われますが、皆さんはいかがですか。
『御伽草紙』にある浦島太郎の話は、まるでアインシュタインの相対性理論を知っていたかのような話です。
昔の人の想像力はすごいですね。
現代版「浦島太郎」を読み解く
現代版「浦島太郎」はとても理不尽な話で納得できません。
そこで、現代版「浦島太郎」を多面的に読み解いて、理不尽の謎を探ってみました。
現代版「浦島太郎」を浦島太郎の側から読む
まず、昔話「浦島太郎」を浦島太郎の側から読んでみましょう。
浦島は漁師です。毎日休みなく魚を捕って暮らしていました。
それほど楽しいことはありませんでしたが、衣食住を自力で何とかして生きていました。
ところが、亀を少し助けただけで、竜宮城あるいは常世の国に行くことになり、毎日楽しく暮らすことになりました。
見たこともない踊りや食事ばかりでしたから、浦島太郎は夢中になりました。
でも、毎日漁師をして働いていた浦島ですから、受け身の楽しさに飽きてしまいます。
そこで、故郷に戻ることにしました。
故郷に戻ると、自分の家はありませんし、知っている人も誰もいません。
開けてはいけないと言われた玉手箱を開けると、歳を取り、人生の残り時間もなくなっている自分がいることに気づきます。
浦島太郎は自分の人生をどのように思ったでしょうか。
7日間だけでも飲めや歌えの楽しさを味わうことができたから幸せだったと思ったでしょうか。
それとも7日間の快楽で、人生が台無しになったと思ったでしょうか。
玉手箱を開けて老人になった時、浦島は自分の生きた形跡が何もない、自分の力で人生を生きたという実感がない、と思ったのではないでしょうか。
ずっと漁師をやっていたら、苦労も多かったでしょうし、不運にも見舞われたことでしょう。
しかし、一緒に泣いたり、悲しんだり、笑ったりした家族や仲間がいて、これが俺の人生だったと言える確かな実感を持つことができたように思います。
楽しいことがあるから幸せなのではないような気がしています。
一緒に苦労する家族や仲間がいるから幸せなのだと思います。
竜宮城へ行った浦島太郎の人生は寂しくむなしいものだったでしょう。
では、浦島太郎はどうすればよかったのでしょうか。
亀の背中に乗ってホイホイと竜宮城へ行かなければよかったのです。
つまり、甘い話には気をつけろということでしょうか。
現代版「浦島太郎」を乙姫の側から読む
では、この話を乙姫の側から読んでみましょう。
乙姫にとって、漁師である浦島は魚たちの敵です。
復讐する機会を虎視眈々とねらっていました。
浦島が亀を助けたことをチャンス到来と考えて、竜宮城へ誘いました。
カメを助けたので7日間だけは楽しい思いをさせましたが、浦島太郎の人生をむなしいものにさせました。
乙姫の復讐は、成功したのです。
現代版「浦島太郎」が教えること
現代版「浦島太郎」は、「甘い話には気をつけなさい」というお話のようです。
それにしても、幼い子どもたちに「桃太郎」を読んで聞かせる意味は何でしょうか。
「甘い話には気をつけなさい」と教えるには、まだ早い気がします。
理不尽な話を体に染みこませることで、疑問の種を植えていたように、私には思えます。
だって、私は子どもの頃からずっと「浦島太郎」の話が理不尽に思えて、不思議でなりませんでしたから。