コミュニティプラットフォーム:オシロから学ぶ、「共創の場」をつくるために必要なことは?
こちらはコミュニティの教室:第4期イベントレポートになります。
コミュニティの教室、ゲスト講師の最終回は「OSIRO」というコミュニティプラットフォームを提供している杉山さん。
アーティストとファンとの関係性から生まれる価値を大事にしており、そこの思想は大きく「OSIRO」のサービスに反映されています。
杉山 博一 (Sugiyama Hirokazu)
オシロ株式会社 代表取締役社長
1973年赤坂生まれ。1998年世界一周後、アーティストとデザイナーとして活動開始。30才を機にアーティスト活動に終止符を打つ。2006年日本初の金融サービスを共同で創業。その後、ニュージーランドと東京の二拠点居住を開始。外資系IT企業の代表に就任。「日本を芸術文化大国にする」というミッションを持ち、実現するべくサービス「OSIRO」を開発。2017年オシロ株式会社設立。作家やアーティストから、コンテンツ・メディア・ブランド企業まで、独自のコミュニティプラットフォームを提供している。
「OSIRO」をつくっていくうえで、人と人はどうしたら仲良くなるのか? という問いと常に向き合っています。
と、greenz.jpのインタビュー記事で答えていらっしゃる杉山さん。
「コミュニティツール」ということで勝手に機械的なイメージが浮かんでいましたが、今日のお話しや柔らかい笑顔、コミュニケーションなどから「コミュニティが人を幸せにする」に向き合い、実現していっている方なんだと改めて感じました。
多くのコミュニティ設計、運営に関わる杉山さんだからこその冷静で本質的なコミュニティ論を伺いました。今回も、学びをシェアできればと思います🏰🌱
1、オシロとは
(1)オシロが開発しているサービス
オシロについてざっくりと説明をすると、①コミュニティを運営するためのツールであるプラットフォーム「OSIRO」と、②コミュニティ活性化のノウハウ提供・サポートサービスを行っています。
「OSIRO」とは、月額制のファンコミュニティをつくることのできるサービスです。大きくわけてグループ、チャット、ブログ、イベントの機能があります。
現在、宇宙兄弟や文春野球学校、佐渡島庸平氏や四角大輔氏のコミュニティなどがこのプラットフォームを利用しています。
(↑OSIROを利用しているコミュニティ)
(2)オシロの始まり~日本を芸術文化大国に~
このサービスができた背景には杉山さんのライフヒストリーが大きく影響しています。
※講義では下記、アタック25風スライドで解説してくださいました。笑
ー杉山さん談ー
世界一周にいっていました。その後、絵描きとしてアーティスト活動と、食べていくためにフリーランスのデザイナーをしていました。そして30歳の時に才能がないなと思って終止符をうったんです。
日本初の金融サービスを共同で起業。その後、ニュージーランドと東京の二拠点居住を開始。
あるきっかけで、『日本を芸術文化大国にしなさい』、という天命をもらった気がしました。そこで始まったのがオシロです。
なぜそのような天命をもらったと感じたかというと、ニュージーランドから日本を見ていた時に、このままだと日本が生き残っていけるのであろうかと思ったからです。
経済大国に返り咲こうとしているけれど、周辺の経済が活発なアジア諸国を見ていて、無理じゃないかと感じました。
一方でヨーロッパ・北欧は芸術文化に舵をとって、アーティストが生きていける社会を作っていっている。日本も芸術文化に舵を切っていかないといけないということを感じていました。
しかし、芸術文化大国にするための宝であるアーティストが30歳を機に(自分と同じように)辞めていくんですよね。「食べていけないのにいつまでそんなことやっているの」と周りからも言われて。
日本ではトップの芸大や美大を出ても食べていけないんですよね。活動を続けていけば、作品を作り続けていくことが出来れば、食べていくことができる。だからアーティストが30歳になっても活動を続けていける仕組みをつくりたいと思ったんです。
そのために、毎月のお金とエールの二つが必要。バイトをすればお金はなんとか手に入るから、エールが重要だと思いました。それも、なんとなく「いいね」してくれるエールではなく、それまでの創作活動も見てくれる、文脈のわかる応援団が大事だと身をもって感じていました。
しかし、お金とエール(応援団)の両方をつくれる仕組みがこれまで、なかったため、「ないから作ろう」とサービスをつくりました。
(オシロのミッションは、『日本を芸術文化大国にする』)
2、オシロの考えるコミュニティの本質とは
多くのコミュニティ運営に関わってこられた杉山さんより「コミュニティ」にまつわるキーメッセージをいただきました。
その中で「コミュニティの本質は○○である」にまとめ、3点お伝えします。
(1)コミュニティファースト
前述のようにオシロでは、アーティスト支援のために、応援団(コミュニティ)が何より大事だと考えています。これがオシロの大事にしている“コミュニティファースト”という考えです。
以前までだと、コンテンツフォルダー(アーティスト)は作品を制作し完成したら、そのあとメディア・SNS等宣伝、PRを行ってきました。
これに対して、オシロの“コミュニティファースト”という視点に立つと、始めからコミュニティ(応援団)があり、参加型のコンテンツを一緒に作っていきます。
そうすると満足度が高く、熱量の高いファンが生まれ、その結果、彼らが自主的に口コミをするマイクロインフルエンサーとなっていくのです。
はじめは熱いファンだけで閉ざされた空間で進んでいくけれど、最終的に熱が広がる仕組みです。
ファンコミュニティが活性化した先にはファンの満足度が上がることでPR効果、既存事業の売り上げアップ、コミュニティECへと繋がっていきます。
このようにコミュニティが先にあり、コンテンツフォルダーとファンが一体となり共創していくことをベースにした考えを、“コミュニティファースト”という考えをオシロでは大事にしています。
“コミュニティファースト”は、これまでの登壇者の方も仰っていた「コミュニティ=共創の場である」の前提・定義のようにも感じました。
(2)「1:100の法則」
コミュニティ運営においては「1:100の法則」を意識することが大事である。
どういうことかというと、コミュニティ単体の規模や月額会費の売り上げだけでビジネスを判断するのではなく、コミュニティが育つことで、本丸のビジネスを伸ばせるという補完関係を意識することが大事ということです。
このイメージとしてはコミュニティが1に対して、本業が100くらいの捉え方。これが「1:100の法則」です。
例を挙げると、、、
あるコワーキングスペースを本業としている会社は、オンラインコミュニティづくりに力をいれました。
フリーランスやスタートアップの方のためのオンラインで相談できる場、共創の場をつくることでコミュニティに属してる人たちの業績が上がり、結果として本業コワーキングスペースの顧客と繋がったそうです。
これはコミュニティにおける「1:100の法則」をよく表した例。
コミュニティを、短期的なビジネス視点で捉えると結果が出ずやめてしまおうということになりますが、本業への影響力など長期的な視点で捉えていけば必ず大きな資産になる、と取り組むことが重要だということです。
「OSIRO自体も今システムを使っている方々と一緒に引き上げていき、作っていくシステムである。」
とも仰っていました。
OSIROを共創していくこと、さらに、サービス利用者に対しても、システムだけでなくコミュニティ運営ノウハウも共有し、目指す世界をともにつくってくという一貫した姿勢を感じました。
(3)1対n対nの関係性
オシロの定義するコミュニティとは「1対n対n」の関係性を含むものである。
「1対n」とは旗振り役・価値観である「1」の元に、共感したファンが集まるもの。情報が一方通行で、コンテンツや情報を受け取るだけの関係になります。
その一方で、共通の価値観、興味関心の近いファンとファンがつながるのが「n対n」の関係性です。
なぜ「1対n対n」の関係性を大事にしているかというと、1対nの関係だけではファンはさらけ出すことはないからです。
1対n対nでは、ファンがお互いの属性をさらけ出すことができるので、ファンの解像度が上がっていき、ファンとファンが仲良くなります。
そしてユーザーの属性を高解像度で把握することができることが、ファンのニーズや行動が明確になり、①コンテンツの質向上、②高解像のマーケティングが可能になります。その結果、価値共創の場をつくることができるのです。
第1回講義で長田さんは
「コミュニティとは、1対1の関係性の集合体」
と仰っていました。
杉山さんの仰る「1対n対n」も通じる部分があるでしょう。
そして今回、ファンの解像度が上がる意図なども伺い、コミュニティの状態を立体的にイメージできたように思います🏰🔥🏰
3、コミュニティが盛り上がるために必要なこと
オシロの考えるコミュニティとは、コミュニティ内で「1対n対n」の関係性が活性化し、「共創の場」となっていることであると思います。
ここではそのように、コミュニティが活性化するポイントを「4つのスパイラル」にわけてお伝えします。
コミュニティ成長スパイラルとは、
はいる→なじむ→はずむ→にじみでる
それぞれのタイミングでどんなポイント、関わり方が出来るのでしょうか。
(1) はいる
コミュニティの入口設計で気を付けるポイントは、
◎参加ハードルを上げる、テーマをニッチにする
→熱量の高い人たちに入ってもらうよう設計すること
例)出版社のコミュニティ「文春野球学校」では、「野球が大好き×表現したいひと」というテーマを出しています。
単に「野球が好き」だと間口が広く熱量が低い人たちも入ってきて、熱量が高い人が大勢の中で分散してしまいます。このように、参加ハードルを上げ、熱量の高い人を集めることが重要です。
(2) なじむ
コミュニティにおいてメンバーが“なじむ”ためには何が必要でしょうか?
◎安心安全のための、ガイドラインをつくる
例)ある読書コミュニティのたった一つのルールは、「マウントを取らない」ということです。
コミュニティがまるで家のように(精神的に)服を脱いでも、何を言っても安心だと思えるような場のガイドラインがあることが“なじむ”ために必要なポイントです。
◎ふるまい(きれいな言葉を使う)
→きれいな言葉を使っているところだと安心していれる、汚い言葉だと安心するコミュニティでないことが多いそうです。
オフラインでも、オンラインでもきれいな言葉をつかっているコミュニティのほうが安全でコミュニケーションが活発というデータがあり、そのような「ふるまい」を意識することも大事。
◎顔写真があること、興味関心がかぶっていること
→これらがあることで人間は安心し、仲良くなることができます。
例)昔は、近所のおばさんが「○○さんと△△さん気が合うと思うよ」とか人をつないでくれていました。
そういう、できるだけ気持ち悪くないぎりぎりのおせっかいを、OSIROでは仕組みに落とし、“なじむ”ことが出来るように工夫しています。
(3) はずむ
“なじむ”の次にくるのが“はずむ”。コミュニティが“はずむ”ためのポイントは
◎ビッグバンのゆらぎ、定期的なリズム
「コミュニティビッグバンのゆらぎ」とは、熱量が高い人たちが集まった状態をつくって、メンバーの熱量がさらに高まるプロジェクトを投げること。
そして「定期的なリズム」は、定期的に会うのも大事であること。
これらは、運営側がゆらぎ、リズムをつくっていくことが大事です。
例)車雑誌のコミュニティでは、メーカーが協賛しているレースに、編集部の方々が毎年出場していたんですが、どちらかというと仕事としてというニュアンスが強かったそうです。
ところが、コミュニティメンバーに興味ありますか?と投げかけたところ「出たい!出たい!」と希望者が殺到したそうです。
レースに出るにはA級ライセンスが必要で、レーシングスーツなど装備も揃えなければいけなかったのですが、みんなでライセンスを取りに行ったり、レーシングスーツなどの装備を比較検討したりと、次々にアクションが生まれていったそうです。
このように運営側も思いもよらない投げかけで熱量の高いメンバーによって、ビッグバン的な価値を生み出した例からも分かるように、コミュニティが“はずむ”ための投げかけをすることも重要です。
(4) にじみでる
盛り上がっているコミュニティの最終段階は、“にじみでる”です。
◎内発的な「貢献したい」「楽しい」を形にできる
その状態とは、メンバーが居場所、楽しい場所として感じることができていること。そして、内発的動機によって「貢献したい」「楽しかった」を伝えることができる仕組みを作っていることをサポートする。
例えば、運営側ではなくメンバーが紡いだ言葉が外部記事になっていくことなど。Wasei Salonではコミュニティメンバーになれば、コミュニティブログを投稿することができます。これも一つの“にじみでる”仕組み。
ここまでコミュニティが盛り上がるスパイラルを見てきました。
この4つの成長スパイラルは説得力があり、言語化されていることで
「今自分のコミュニティがどこにいるのか」「考えるべきポイントや施策は何か」
問いかけることができる重要な指標だと感じました。
4、質問タイム
いつも通り受講生の皆さんで感想、情報シェアタイム。
そして今回も白熱した質問タイム。質問の中で印象的だった杉山さんの言葉を2つご紹介します。
◎コミュニケーションの高質化(上質化)
コミュニケーション情報の効率化をするアプリは出ているけれど、OSIROは「コミュニケーションの高質化」をしていきたいと思っています。
スタバの人がカップに丁寧にメッセージくれるような。つんけんしたほうが早く会話が済むような気がするけど、「今日はいい天気だね」といったほうがお互いに気持ちがいい。
そういうコミュニケーションの高質化を作っています。
(OSIRO)吹き出し機能の例
◎共通言語、ネーミングにこだわる
受講生がコミュニティマネージャーを務める、オンラインコミュニティでの課題。リアルイベントの東京開催が多く、地方の方が残念がっている対策に対しての杉山さんのお答え。
ネーミングって大事ですよね。例えば、イベントのホストが本部と名乗っていく。「今回のイベントは佐賀から『本部』で行います。」とか。
四角大輔さんが主宰する、ライフデザインキャンプでは、メンバーのことを「キャンパー」と呼んだり、メンバーがイベントを企画しやすいようなネーミングにしたりしています。共通言語が増えるほうがわくわくするのもありますよね。
(オフラインで出た質問。オフラインでも沢山の質問が出ていました🏰)
「人と人が仲良くなるには?」「本質的なコミュニティを作っていくには?」などの問いと向き合っていらっしゃるからこその言葉たちで、コミュニティでも勿論、日常の関係性の中でも取り入れていきたいと感じました。
5、さいごに
本noteのタイトルを『「共創の場」をつくるために必要なこととは?』としました。
「共創」というとどういったイメージがあるでしょうか。
今回のお話しを聴いていて、そこにあるのは《競争》や《優劣》をつけるものではなく、《ひととつながっていく》ことのできる、暖かで、わくわく、ひとの根源的な活動を含む言葉へと変わりました。
また、今回で最後のゲスト講義。ということで、これまでの講義で繰り返し出たキーワードを挙げてみました。
・入口設計にこだわる
・共通言語を作る
・運営側もメンバーも垣根をなくし、共創する
・中心が熱くあることから広がっていく
・コミュニティとは1対1の関係性の集合体である
上記の「コミュニティ設計」における重要な学びを「オシロが考えるコミュニティの本質」「コミュニティの成長スパイラル」といった話で包括的にうかがえた回だったように思います。
さらに、コミュニティの教室の登壇者のみなさん共通項、コミュニティに向き合っていらっしゃる方の姿として、「丁寧であること」「愛があること」「謙虚で共に作っていかれていること」を再認識した回でもありました。
杉山さん、本当にありがとうございました!!!!!
(集合写真😄「オシロのお~◎!」です。)
コロナの影響もあり、オンライン参加多数になりましたが、講師回最後にふさわしい熱を帯びた時間となりました☀🏰☀🏰☀
~2020年4月追記~
コミュニティの教室、第5期の募集をしています!
今期は、全編オンラインで開催し、オンラインコミュニティの育み方にも着目していきます。
コミュニティ最前線にいるゲスト、そして仲間と共に、今求められるコミュニティについて、探求しませんか?