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e航空機のArcher AviationがSPACを通じて上場へ
電動垂直離発着機(eVTOL)の製造スタートアップである、Archer Aviation(アーチャー・アビエーション)が、UBSの投資銀行部門を率いたこともある著名な投資銀行家のKen Moelis氏が設立したSPACである「 Atlas Crest Investment Corp. 」との合併を通じて公開企業となることを発表しました。
同時にユナイテッド航空をはじめとした複数の事業会社やファンドからも資金調達を実施し、2023年に予定されている本格的な商業生産に向けての準備を加速する予定です。
Archer Aviationの事業内容
同社は2019年にカリフォルニア州パロアルトで設立されたスタートアップです。
共同創業者のAdam Goldstein氏とBrett Adcock氏はシリアルアントレプレナーで、同社創業前はVetteryという直接採用プラットフォームを展開するスタートアップを二人で創業し、2018年にアデコグループに売却しています。
二人ともVettery創業前は金融関係のキャリアを歩んでいたようで、航空機分野とは関係ない業界から立ち上げた異色のスタートアップのようです。しかし、チーフエンジニアにはエアバスの元チーフエンジニア、デザイナーにはマツダのデザインのトップだった人物が就任しており、航空機製造やメカニカルデザインのノウハウは保有しているようです。
同社のプランでは都市部での移動を目的とした、100%電動の垂直離着陸<vertical takeoff and landing (VTOL)>機を開発、2023年に商業生産を開始し、2024年には米国連邦航空局(FAA)の承認を取得し、最初のデリバリーを行う予定だそうです。
同社のモックアップでは、写真のような6つのプロペラがついた機体で、数人が乗れ、60マイルの距離を時速150マイルで飛行するそうです。
同社によれば、電動航空機は既存の燃焼型のエンジンよりも30%程度メンテナンスコストが安く、燃料コストも下がるため、環境的な側面ももちろん経済的にも有利であり、モルガン・スタンレーは2040年までに電動航空機の市場は2040年までに1.5兆ドルにまで広がるとのことです。
ユナイテッド航空からの出資と合わせて、既に同社から1億ドルの受注も受けていると2月10日の投資家向けコンファレンスで発表されています。
また 、フランス PSA(プジョー・シトロエン)とイタリア米国連合のFCA(フィアット・クライスラー)が合併してできた世界4位の自動車メーカーのステランティス(Stellantis)が同社にも出資し、戦略的な提携を結んでいるそうです。
まだ研究開発段階のため、どれだけ実現性が高いのかは同社のウェブサイトを見てもわかりませんが、ユナイテッド航空というパートナーをつけ、SPAC上場を通じて資金も確保して開発をスタートするのに必要な環境を整えた、というところでしょうか。
Atlas Crest Investment Corp.とは
今回合併を発表した、Atlas Crest Investment Corpはニューヨーク証券取引所に上場しているSPACです。2020年10月に上場した比較的新しいSPACで、上場を通じて500百万ドルを調達しています。
SPACは上場時の株価は10ドルですが、本件のアナウンスがあった2月10日には18ドルに急上昇し、直近でも15ドル程度で落ち着いています。
同社を運営しているのはKen Moelis氏率いる独立系投資銀行であるMoelis & Companyです。Moelis & Companyもニューヨーク証券取引所に上場しており本件のアナウンスを受けて若干株価が上昇しています。
また、同社は2021年2月4日にSPACの第2号 Atlas Crest Investment Corp. IIを300百万ドルで上場させています。
SPACの合併条件
Atlas Crest Investment CorpとAcher Aviation の合併条件は以下の通りです。
バリュエーション:27億ドル
株主構成(予定):Archer経営陣67%、一般投資家13%、PIPE投資家16%、SPAC発起人3%
クロージング予定:2021年第2四半期
上場時ティッカー:ACHR
資本投入は合わせて11億ドルで、SPACで調達された5億ドルと、PIPE(上場企業の私募増資)による6億ドルで構成されています。PIPEへ参加する出資者はユナイテッド航空、ステランティスなどの事業会社の他、6社のファンドで構成されています。
バリュエーションの27億ドルの想定は、事業計画での2026年の売上見込みの1.2倍、EBITDAの4.2倍とのことです
Archerは買いか?
eVTOLで都市移動に利用できるようになる世界が、あと数年で実現できるのであれば夢があり、成功すればヘリコプター市場をディスラプトする可能性のある大きな変革ポテンシャルを秘めた会社だと感じています。
一方で、まだ研究開発段階で色々なハードルはあります。都市部でドローンを飛ばすのも制限されている中で、安全性が十分に担保できるのか?航空法がこのような機体にどこまで適応するのか。期待する航続距離を出せるバッテリー性能が技術的に出せるのか。そもそも、本当に2024年までにFAAの認証まで取れるのか、など色々な課題がありそうです。
しかしユナイテッド航空のような大手航空会社が背後についているということもあり、全く不可能ではないような気がします。
登る坂道は決して平坦ではありませんが、うまくいけばテスラのような企業になっていくかもしれません。
Frontier Financing(フロンティア・ファイナンシング)
本ノートは、SPACやダイレクトリスティングをはじめとした、新しい資金調達の手法に関するニュースや考察などをまとめて記事にしています。
海外では毎日のようにこのようなニュースが出ていますが、日本ではこれらの新しい手法はまだまだ情報は限定的で、未知の部分が少なくありません。
この記事を通じて最新情報や資金調達手法への理解が深まり、将来的には日本でもこれらの手法が広まり、より多様な資金調達の手法をスタートアップや企業が利用できる世界ができればと思っています。
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