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入院、そして孤独のオーケストラ

 妻の乳製品を全面的に排除してからしばらく時間が過ぎた。期待した改善は、正直なところ見られない。そんな矢先、病院のアレルギー専門チームのボスらしき医師が舞い降りてきた。そして、まさかの「入院の提案」。軽症とされていたのに、この提案はちょっとショッキング。まるで突如現れたスタジアムの照明が、深夜のバッティングセンターにピッチャーとバッターを照らし出すような感じ。

 話を詳しく聞いてみると、どうやら治りかけたところに新たな負荷がかかり、出血が再開しているのではないかとのこと。妻と相談した結果、僕たちも一刻も早い回復の必要を痛感。すぐにでも何とかしなければ、と思い、入院を選択。妻が付き添い、そして僕はしばらくの間、1人きりになる。コロナ禍だから面会もできない。

 つまり、これは僕にとっては「独り言を楽しむ大チャンス」とも言える。ジョージ・オーウェルが「1984年」で独り言を「思考犯罪」としたが、僕にとっては「思考のリフレッシュ」の場だ。独り言をすることで、頭の中のメモリーを整理できる。それに、誰も文句を言わない。ノルマもない。

 でもまあ、最も重要なのは、息子が1日でも早くよくなること。そう願いつつ、僕はしばらくの間、夜ごとに自分自身とディープな対話を楽しむことになる。多分、トム・ウェイツの「Lonely」が背景音楽に流れている。いや、それよりもビートルズの「Help!」が適しているかもしれない。

 とはいえ、最も重要なのは、息子が一日でも早くよくなること。それを願いつつ、僕は自宅で独り言を楽しみながら、新しい一日一日を精一杯過ごす。そして、この孤独な期間を乗り越えて、家族全員で新しいスタートを切るその日を待つ。それが僕流の孤独の過ごし方だ。妻と息子が戻ってくるその日まで。

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