退院の日、心のオーケストラ
とうとう、息子の退院の日が来た。車で病院に向かう途中、指揮者がオーケストラに向かって振り下ろすバトンのように、心拍数がアップしているのが感じられる。この瞬間のために、何度も練習した「病院に到着したら何をするか」のシナリオを頭の中でリプレイしている。
待合室で待っていると、手続きを先に済ませてきてほしいとの指示。この焦らされ感が、まるで延長戦に突入した野球試合のようだ。しかし、ここでクレームを付けたところで何も始まらない。スタンダード・ナンバーのように、丁寧に手続きを終えて再び病棟へ。
そして、久々に息子と対面。随分とふっくらとして、全体的に大きくなった印象だ。ずっと病院から出られなかったので、肌がとても真っ白に感じた。そして、少しだけ伸びた髪の毛、少し禿げた後頭部、まだまだいびつな頭の形、その全てが愛おしかった。速やかに抱き上げ、退院の祝福をする。こんなに素晴らしい瞬間は、アンコールを要求したくなるほどだ。
家に帰ると、妻の母が出迎えてくれた。息子は、祖母、祖父からもたっぷりと愛情をもらい、一日で何年分もの愛情をストックしたようだ。
こんな日は、レコードプレーヤーに好きな盤をセットして、ワインを開けるに限る。家族全員で、失っていた時間を取り戻すようにゆっくりと過ごす。病院生活のストレスも、少しずつ緩和されていくだろう。そう、人生は時にジャズのように即興も必要だが、大切な瞬間にはしっかりとスコアに沿って演奏したいものだ。今日はそのような一日であり、その音楽がこれからも長く続くことを願っている。
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