『ドント・ルック・アップ』が映し出す笑えない皮肉
目に見えて地球の危機に瀕しても、人は不安から目を逸らしてゴシップや富を優先する。
『VICE』や『マネー・ショート』でお馴染みの皮肉たっぷりでブラックジョーク万歳の作品を制作するアダム・マッケイ監督最新作、『ドント・ルック・アップ』。
トランプ家による国家の分断や一族による権力の支配、コロナ禍における世界規模の混乱、地球温暖化をフェイクだと決めつける陰謀論者たちなど、ここ数年間のアメリカで起きているトラブルをふんだんに盛り込んだ大皮肉作品。
地球滅亡目前でも保守系ニュース(FOX?)は嬉しそうに陰謀論を報道をし、老いた大富豪たちは自分達を優先して脱出し、逃げた先は地獄。
『絶望先生』で金正日がテポドンで地球を脱出するオチを思い出しました。
劇中では不安に駆られる人々はシェルターを掘るためにショベルを買い漁ります。転売が横行し、結果としてショベルの値段は暴騰。2020年に日本で起きた大規模なマスク不足を彷彿とさせます。
豪華すぎる圧倒的な俳優陣
レオナルド・ディカプリオはもちろんのこと、ジェニファー・ローレンスの演技がとにかく圧巻。さまざまな表情を見せ、怒りや悲しみの感情を巧みに操る様はまさに大女優です。
メリル・ストリープやジョナ・ヒル、ケイト・ブランシェット、そしてマーク・ライランスといった普段は善人を演じている人たちがとにかくクソ野郎だったのも印象的。
ティモシー・シャラメはあいかわらずイケメン。
アリアナ・グランデは棒読みだけど可愛いから問題ない。
「Don't Look Up」が意味するもの
面白い作品ではあるが、ところどころ大袈裟な部分があったことは否めない。さらに言えば、現実世界がこのようになりつつあることで笑っている場合ではないという事実を突きつけられる。
『Don’t Look Up』という劇中の大統領のスローガンでもあるタイトルは「上を向くな」「元気を出すな」「情報を調べるな」などの意味があり、それを実行した結果が作品の結末。タイトルもトリプルミーニングくらいあって皮肉がきいてますね。
資本主義が暴走をし、富める者たちはさらに金を追い求め、格差は広がり、左派も右派も中傷やデマ合戦でお互いを罵りあい、分断が溝を深める。情報化社会が促進されるほど力を持つ者たちによる扇動が顕著になっていき、目の前の現実から目を逸らす人たちが次々と生み出される。プロパガンダに踊らされた人たちは搾取されていることに気がつかないまま、自分達が強者側にいるという幻想を抱き続ける。
映画のように、最後は見捨てられるのに。
『ドント・ルック・アップ』のようなフィクションコメディは、一昔前なら「そんなバカなことあるわけねーだろ」と笑い飛ばせた。けれども現実世界は本作以上に狂っており、視聴者に絶望を味わせつつ大切なことを思い出させてくれます。
自分達が本当に考えて調べて気にして行動しなければならないことはなんなのか?
少なくとも、ゴシップよりも優先すべきことがこの世にはごまんとあることを改めて思い出さないとなりません。
一度政治やメディアから距離を置き、映画ラストのように大切な家族との時間を楽しむことが必要なのかもしれませんね。