不安障害のわたしと、10歳上の夫の話

今回は、「夫婦」に関して書こうと思う。
とまあ結婚してもうすぐ3年のまだまだ歴は浅い夫婦なのだが。

私の夫は私よりも10歳年上だ。
前職のカフェで出会い、当時2店舗統括店長だった彼は新卒で入った私にいろいろなことを教えてくれた。新卒は最初の数カ月、2週間ごとに全店舗回って現場仕事を知っていくのだが、どの店舗のどのスタッフよりも教えるのが丁寧だったことを覚えている。毎回どこから見てたんだというぐらい遠くから飛んできては「なぜこうすると思う?」という考えさせる一言とともに正解を教えてくれる。嫌な人は嫌だろうが、私はすごく真摯に向き合ってくれているなと感じていた。

そして彼は最高のサービスマンだった。メニューにないものでもお客さんが求めたら作れるものであればその場で作ってしまうし、フィンランドから来たお客さんがその日誕生日だと知ると、即興でお店にあるデザートをのせたミニプレートにチョコ文字で「Happy Birthday」とかいて渡した。わたしが残業していたときはカフェラテやホットはちみつレモンをそっと出してくれた。(ちなみにフィンランドのお客さんとは今も連絡を取り合っている)

決して容姿端麗ではないし、10個も離れているのでみんなになぜ?といわれることもあったが、ユーモアがあって、人を大事にするそんな彼が大好きだった。


話は変わるが、私が今年9月から休職してからというもの、夫にはつまらない思いばかりさせていたと思う。なぜかといえば、休職してすぐに声が出なくなり、意思疎通をとるには口元に耳を近づけてもらうか、スマホのメモ機能での筆談での会話しかできなかったし、喋ることに対してエネルギーがほとんどなかったからだ。
それにせっかくの休日も私がほとんど家から出られず、出れても人混みで苦しくなってしまうので公園ばかり。夫はそんな私を運動させようと毎週毎週近場のいろんな公園に連れて行ってくれた。

健康だった頃はお酒も飲めていたしふたりとも美味しいご飯が大好きだったので、よく飲みに出かけていた。感覚も合うし夫の話はとても面白いのでお出かけをするときは笑いの耐えない夫婦だった。

そんな日常は突如変わる。彼にはせっかくのお休みなのだから自分の行きたいところを優先して自由にしていいよといっていたが、私が「今日は外出れそうにない」というとき以外は一緒にいてくれることが多かった。外出したとて私はほぼ無言、たまに筆談の日々。日に日に罪悪感が募っていく。

散歩中、「今日ね、会社でさ、、!」と写真を見せながら楽しかったことを共有してくれる彼に目を合わせて口角を少し上げて首だけ相槌することしかできない。ぎゅっと私の手を握り直し、少し寂しそうに俯く彼の横顔をわたしは二度と忘れないだろう。


そんなある日、1ヶ月半経った頃だったかな。
その日はとても調子が良く、限りなく「元の私」でいられた日だった。
朝から声が出る、元気がある、冗談が言える!
夫もすごく嬉しそうだった。

その日は晴れていたので少し遠くの公園に行ってみようか!という提案を夫がしてくれた。家の近くの夫婦ともに大好きなベトナム料理のお店でカレーとバインミーを買って、40分程歩いたところにその公園はあった。
歩いている間もたくさんお喋りができる。いままで散歩中話したくてもエネルギーがなく諦めてしまっていた美しい景色、面白い建物、季節の変化。
「あのお花きれいに咲いているね」「あの建物の形面白いね」「風が涼しくなってきたね」って、共有できることがとっても嬉しかった。

公園につき、大きな木に囲まれたまあるいスペースにベンチが円に沿っておいてあったので、そこに座って少し遅めの昼食をとることにした。

カレーとバインミーを夫と半分こする。
スパイスが効いていて美味しい。少し肌寒くなった公園で身を寄せ合って美味しいものを堪能する。すぐ側では子どもたちが遊び、向かい側のベンチには老夫婦が座っている。その隣には若いカップルが、可愛いワンちゃんを連れて気持ちよさそうに空を見上げていた。

お昼を食べたあと、スパイスのおかげか肌寒かった風がだんだんと気持ちよくなった。ふと、ハンバードハンバードさんの《同じ話》を夫が歌い始める。つられて私も一緒に歌うが、なかなかハモリができなくて、引きずられるね、難しいねとクスクス笑ったり体を揺らしながら、「それから」の部分を何度も練習した。
歌を歌う気持ちになったなんて、いつぶりだったろう。休職してしばらくはずっと、音楽を聞くことさえ拒んでいたから、すごく清々しい気持ちになった。

帰り道、なんだか久しぶりの「自分」を取り戻した気がして、
何気なく夫に聞いてみた。

「わたしって、こんなにうるさかったっけ?」

夫は答えた。

「うるさいよ。うるさくて、ちょっと変で、元気で、、、、
、、、明るい子だよ。」

少し空いた間に、たっぷりの愛情と優しさを感じ、
涙が出そうになるのをぐっとおさえた。


来年の2月で、私達3年目に突入する。
この人となら、大丈夫。そんな気がした。

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