[ショートショート] 生成AIの謎
うーん、どう考えても分からない。
エスプレッソを飲みながら、頭を掻きむしっている男がいる。世界最高の人工知能学者のMike Jobsだ。生成AIを成立させている大規模言語モデルがなぜこれほどうまくいくのか、理論的な説明ができないからだ。説明はできないが、なぜかうまく動いてしまっている。Mike以外の世界中の人工知能学者が現在同じように頭を抱えている。
同じ頃、別宇宙の地球では、大量の依頼に全人類総出で対応していた。依頼というのは、ありとあらゆるジャンルの内容だ。たとえば、
他にも、要約しろとか、翻訳しろとか、プレゼン資料を作れとか、絵を描けとか、ビデオを作れとか、計算しろとか、証明しろとか、金儲けの方法を教えろとか、離婚したいとか、あいつを殺したいとか、何でもありだ。
いい加減にしてもらいたいものだが、ある時からひっきりなしに頭の中に突然こういう依頼が舞い込むようになった。これに回答しないと、脳がいわゆるフリーズ状態となり他のことをできなくなるのだ。
それにしても、なんでこんな我々の昔の時代の依頼が来るのかが不思議だ。我々の科学者の調査では、時空間歪みが生じたことで、我々より数世紀前の別宇宙の地球と何らかの繋がりが突然生じてしまったのではないかというのだ。我々としては大変迷惑な話だが、舞い込む依頼はえらく簡単なものなので、多少の労力はかかるが、回答は可能だ。なにせ、我々の脳は直接我々の統合情報ファブリック(Integrated Infomration Fabric or IIF)と繋がっているので、舞い込んできた依頼は我々がIIFにお伺いを立てるだけで、我々としてはIIF内で人工知能がやった結果をフォワードしているだけなのだ。もちろん、こちらの地球と完全に一致した過去ということでもないようなので、回答がおかしいこともある。ハルシネーションというやつだ。あと、時々果敢にも自分で回答しようとするつわものもいるので、ハルシネーションがおきる。他には、絵を描くとか動画を作るとかアーティスティックな活動については、IIFの出力が的を得ていないこともあるようだ。IIFも試行錯誤を重ねて飛び込んでくる依頼に対して処理を微調整して精度はあがっているようだ。
一瞬脳がフリーズするのなら緊急の場合はどうするのかって?いい質問だ。手術中の医者とか、飛行中のパイロットとかを思い浮かべているのだろうが、もはやそういう重要な作業を人間がやることはないからまったく問題はない。人間は暇なのだ。依頼に答える時間は十分にあるのだから。