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[創作ファンタジー] 高台寺かをりの芳しき香道 3 苦悩

前回までのストーリー

百代と花は仲良し大学生。京都に遊びに来て高台寺の夜の紅葉を堪能した後、道に迷ってお香の店に入り込み、そこで周りが静かになるという不思議な香を購入した。ホテルに戻ると隣の部屋でどんちゃん騒ぎが発生しさっそくその香を使ってみると見事に静かになったのだった。そして、その香の店を再訪し、店主の高台寺かをりから高台寺流香家のことを聞き、弟子見習いになることを許された。その日、東京では…


永田町の首相官邸の一室で、二人の男が深刻な形相で文書に目を通している。昨今のきな臭い国際情勢を反映して、ある国に支援されている諜報機関の活動が活発化しているという報告書を読んだところだった。多くの政治家、官僚、大学教授、国策企業の経営者・技術者がその諜報機関のスパイに凋落させられ、国家機密が漏れているという報告書だ。

深刻な顔付きの二人のうちの一人は、日本国首相の鴨山英樹(かもやまひでき)。そして、首相の向かいに座って鴨山の顔色を伺っているのは、第一首相秘書官の土御門清道(つちみかどきよみち)だ。土御門清道は、安倍晴明の末裔だと噂されている。中々の策士であり機転が効く男で、式神を操っているなどという噂も当然出てくる男だ。首相の鴨山の素性は良く分からない。沈着冷静でいて強いリーダーシップを発揮するタイプだ。それにより政府与党の総裁にまで登り詰めた。出身は京都だが、出自について多くを語ろうとはしない。おそらく、京都の古くからの家の出身だろうと噂されている。この二人は、京都大学出身で、大学の先輩後輩であり、鴨山が政治の世界に入ってからずっと行動を共にしている。

「きよさん、この大学の先生の件、やばいな。巨額の資金がパーかい」
「ですな」
「ジャスミンには気をつけろということか」
「ひでさん、これは表の報告書なので、そこにはあまり詳しく書いてないですが、ジャスミンの香の濃度で催眠術のような何かの効果を出しているようです」
「そうなのか。きよの組織で何か探れないのか?」
「探ってはいるのですが、中々仕組みにまでは到達できずでして。おそらく、何らかの香の臭いと命令がセットで脳にインプットされるのではないかと」

しばし、黙考していた鴨山が口を開いた。

「そういう話か。あまり巻き込みたくなかったが、京都のあの方に相談してみるか」
「やはりそうなりますね。さっそく、連絡を取ってみます」
「うん、頼む、そうしてくれ。そうだな、次の土曜日に京都の例の場所で会えないかと頼んでみてくれないか」
「かしこまりました」

土御門は、そういうと、その部屋の盗聴防止電話を使って、電話をかけた。

「私、首相秘書官の土御門と申します。首相の依頼で電話をさせていただいております」
相手が
「ちょっとお待ちください」
と言うと、どこかに移動しているようだ。
「お待たせしました。首相が...ですの?」
「はい。ある件で、かをり様に相談をしたいとのことで、明後日の土曜日にお時間をいただけないでしょうか?」
「えらい、急なはなしやね。まぁ、土曜日なら空いてますので、ええですわ。で、何時にどちらに?」
「では、19時にかをり様のラボでお会いできますでしょうか?」
「あら、うちのラボへ来てくだはりますの?ええですわよ。お待ちしております」
「ありがとうございます。では、明後日お伺いいたします」

「ひでさん、かをり様とのアポが取れました。土曜の19時にかをり様のラボに伺うことになりました」
「わかった。きよさん、ありがとう。お土産は、彼女が好きなイタリアのプリミティーボを2本頼む」
「了解しました」

そういうと、土御門清道はその部屋を出て行った。

つづく


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