生まれ変わるなら原子かタワー
生まれ変わるなら水素原子がいいと思っていた。
水素原子は一価だから、つまり他の原子と結びつく手が一つしかないから、簡単に他の原子と分離する。だから、生涯様々な物資となって、色んな世界を見ることができるのでではないか。だから飽きなくて良い。なにより、原子には感情がないのが良い。
感情がないなら飽きるも何もないのではないかとは思うが、それでもやっぱり、水素原子がいい。
時に雨となり地球に降り注ぎ、サバンナのシマウマの飲み水となり文字通り彼らの血となり肉となる。シマウマがライオンに食われれば、今度はライオンの血となり肉となる。そうして私はサバンナを駆け巡る。またある時は都会の小さな部屋の隅に置かれた観葉植物から吐き出される二酸化炭素となり、巡り巡って下水を旅することになるかもしれないし、時には原子炉で燃やされエネルギーとなり、ロケットのエンジンに積まれることもあるかもしれない。
とにかく、水素原子は飽きないだろう。
しかしそんなことを考えついたのは、ちょっとあることが辛くてつらくて仕方なくて私には人間向いてないかもしれないと思っていた頃で、今はあんまり、水素原子への憧れはない。
そして、先日東京タワーを眺めていて思った。
東京タワーになるのも良いなと。
東京で生きる人々のドラマ、東京の街の動き、はまたま時代の変化を眺めるのは、さぞかし楽しいだろう。きっと飽きない。なんせ東京にはたくさんの人がいるのだから。
そして近くのタワーマンションは鏡のようになっていて、自身の(なかなかにオシャレで都会的な)姿を認めることだってできる。
うん、東京タワーもわるくない。