憧れの靴を試着に人生初のGUCCIへ
憧れの靴がある。
靴は自己評価、と読んで真っ先に思い浮かべた靴。他にはないデザインの、ハイブランドの靴である。
自問自答ファッションに出会うまで、値段を調べることもしなかったその靴を履いてみたくなった。
今の靴たち
平日に娘と散歩に行く際はNIKEエアマックスエクシーコルクを愛用している。これは買ってからほとんど休日のお出かけ用として履けていなかった靴である。
本を読んでしばらくした頃、この言葉を思い出して娘と散歩の際も履くようにしたら本当に歩きやすくて散歩が楽になったので平日もたくさん履いている。
世間一般のいい靴、の中にこれが入るのかは不明だがわたしにとってはいい靴なので最初は緊張した。でも数日経って今は育児の相棒。
もう一足スニーカー。adidasのスタンスミスのLUXである。夫がレザーのスニーカーを買っていて影響されて去年購入。
こちらはおでかけの際に運命のニットと合わせて使っている。憧れの運命のニット、モンローデニム、白のスタンスミスのコーディネート。とても可愛い。
ドクターマーチン。先の尖った形のもの。3ホール。色は茶色。少しマニッシュな雰囲気なのが好きポイント。長距離歩く時には向かない。現在試行錯誤中。
ドクターマーチン。先の広がったぽってりとした形のもの。3ホール。色は黒。こちらはだいぶ長い付き合いになる。マーチンは皮にコーティングがされており、そのコーティングが剥がれてヒビになりかけている。多分そう長くない老い先短い身。革命スカートによく合う。
今回憧れの靴を試着に行くのは、黒のぽってりしたマーチンの後継を見つけなければという思いがあったからである。まだ手入れをして履き続けられる。革製品は感謝の意味も込めてきちんと使い終えたい。でも、探し始めるなら早いほうがいいとは思っていた。
いざ入店
憧れの靴とは、GUCCIの厚底ローファーである。先がぽってりとしたシルエットで踵には蜂の刺繍がされており、中が花柄の美しいものだ。
ドキドキしながら入店し、その靴を見つけて眺めていると声をかけられた。
「幸福を運んでくるんですよ」
そう言ってから店員さんは夫と娘に目をやり「もうすでに十分お幸せでしょうけれど」と言った。
わたしたち夫婦は思わず苦笑した。ほんの数ヶ月前に大喧嘩をして、関係が無事修復されたのはつい数週間前のことだったからである。
試着
「試着しても?」
緊張で声が震えていたかもしれない。でも店員さんはきれいに笑って「もちろんです」と返してくれた。
はじめての経験だった。自分がシンデレラにでもなったかのような錯覚を覚えた。
最初に出された小さいサイズは入らなかった。次に出されたサイズは入ったが、少し大きかった。
最初に出した小さいサイズを指して店員さんは言った。
「もう一度こちらを」
先ほど履けなかったのに?と思いながらもう一度履こうとしてみると今回は履けた。
「ガラスコーティングがされているので、最初は少し硬いんです」
だから最初は少し履きにくいんですよ。そう言ってまた笑った。商品に傷のひとつもつけられない、と緊張してすぐに履けないと決めつけて諦めたのを見抜いていたらしい。
履いてみた感じはとてもぴったり。
歩いてみるとしっかり地に足をつけて歩いてる感覚がした。
こんなにしっかり歩いたことがあっただろうか。
退店後の一息
退店してから夫と緊張したと笑い合った。
喉が乾いたのでスタバに寄ることにした。
「どう思った?」
そう夫に聞いてみた。
「コーティングされてるから、多分いずれは今のマーチンみたいに割れてくると思う。20年履くことは無理だろうね」
この20年という年数は、以前に訪れた革靴の専門店で店員さんが自分は同じ靴を休ませたり、修理しながら20年履いていると言っていたからだろう。
「このマーチンあとどれくらい持つと思う?」
「1年は絶対大丈夫。5年は厳しい」
「ありがとう」
はじめての革靴
はじめてのマーチンであり、はじめての革靴。はじめて自分で手入れをしたのもこの靴だった。
いろんなところに連れて行ってくれた。
精神的に病んでしまった時はこの靴で病院に行ったし、快方に向かってからは楽しい買い物にも、旅行にも一緒に行った靴だ。
翌朝、ぼんやりと靴を眺めていた。
そして決めた。
この世にとどまるための靴
夫と腕を組みながら娘と散歩していた。
「わたしあの靴買うと思う」
あの靴が高いこと、きっと同じ値段を出せば他にいろんなことが出来るであろうこと、いろんな話をした後、わたしはそう言った。
君の買い物だから、決めるのは君だよ。彼はそう言ってくれた。
そして再びGUCCIの扉のくぐった。
買う前にもう一度履きたいと言うともちろんです、と以前対応してくれた店員さんは言った。
足を全体的に包み込んで、ぎゅっと固定してくれる感じがとても良い。まだ足には馴染んでいない。試しに歩いてみると夫にロボットみたいだと笑われた。
実際右手と右足が一緒に出てしまっていた。
それでも、この靴だな、と思った。
踵の蜂の刺繍も、靴の中の花柄も、シルエットも、ホースビットの飾りも全てがわたしの理想の靴だった。
なにより、この足を締め付ける感じが、この世にわたしをとどまらせてくれる。
履いてきた靴に足を戻すと、一気に呼吸が楽になった。けれどよくこの靴でこの世に留まり続けたものだとも思った。
度重なる不調で、わたしはこのマーチンを買った時より痩せてしまっていた。痩せた身体と足には、それまで履いていたマーチンは少し大きかった。
幸運を運んで
蜂は幸運を運んでくるらしい。
そして良い靴は良いところに連れて行ってくれるらしい。
無敵だと思う。
これから少しずつ、あのマーチンを買った時のように馴染ませていこうと思う。この馴染ませる過程が結構好きなのだ。また別の生き物として生まれていくようで。
これまで履いていたマーチンは今後は雨の日に履こうと思っている。少し大きいことに気付いたので中敷も購入した。そして今まで通り履き終えたらブラシをかけて片付ける。
夫からご祝儀といってわたし専用の靴のブラシと靴べらをプレゼントしてもらった。なんのご祝儀なのかと聞いたら、最近自分で決められてるからそのご祝儀なのだと言われた。
幸運を選べるかどうか、それは本人にかかっているのだと、そう昔友人に言われた。
自分にその幸運が不釣り合いだと思ったら、幸運にはなれない。幸運を逃してしまう。
あんたはそういうところがある、そう言って友達は顔を顰めていた。
明日、彼女に電話して靴の話をしようと思った。幸運を運んでくる蜂の靴を買った話をしようと。
いつもわたしを心配して電話してくる彼女は一体どんな顔をするだろう。
でもきっと、一緒にこの決断を喜んでくれるとそう思う。
踵に羽根のある靴
踵にほどこされた蜂の刺繍を見ていて、ふと子供の頃にカードキャプターさくらの踵に羽根のついた靴に憧れていたことを思い出した。
わたし版の踵に羽根のついた靴。
さいごに
靴を選ぶ時、なぜあれだけGUCCIの厚底ローファーがしっくりきたのかについてきちんと言語化しておこうと思ったのでこちらに残しておく。
自問自答の際、大切だなと思ったのはこの2点。
・つま先が上向きであること
・踵がきちんとホールドされること
娘のファーストシューズ選びにおいて重要視した点であり、前述の20年間同じ靴を愛用している靴屋の店員さんとも一致した良い靴の判断ポイントでもある。
ファーストシューズの際はもうひとつ選ぶ上で重要視したポイントがあるのだが、そちらは厚底ローファーでは不可能なポイントだったので今回は除外した。
このうちの踵のホールド、が1番感じられたのがGUCCIだった。
少しずれが気になったり、ずれはしないけれど少し心許なく感じたり、踵が痛いものや、しっかり踵をホールドしてくれるけれど足の締め付けが痛いものなど、試着するなかで色々な靴に出会ったが、GUCCIは締め付けられるけど痛くはなく、踵のホールドもしっかりしていた。
この世にこの靴がわたしを留まらせてくれると感じたのも、踵からがっしり捕まえてくれる感じがあったからだと思う。
靴選びの重要性をわたしに説いたのもまた、件の友人であった。
靴の試着旅が嫌になりそうになった時、お世話になったあきやさんの記事。
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