ひとり、燈、仁菜…あの三作品について語りたい
今回の記事では22〜24年にそれぞれ放送され大人気となったガールズバンド三作品
『ぼっち・ざ・ろっく!』
『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』
『ガールズバンドクライ』
に登場する三人の主人公を中心にこれらの作品を語っていこうと思います。
彼女たちについてはこれまで数限りない方々に研究・考察されていることでしょう。
ただ、それをわかった上で僕の考えをまとめておきたいと思います。
大好きな三作品のことをもっと解像度高く見ていきたいので。
僕の知識量はぼざろ=ガルクラ>>>MyGOくらいです。
それではどうぞ。
※主に語る三作品の呼称は略称である『ぼざろ』『MyGO』『ガルクラ』と書かせていただきます。
①三人の主人公について
三作品の主人公たち
『後藤ひとり』『高松燈』『井芹仁菜』
はそれぞれに明確な問題や欠点を抱えつつ物語の中で足掻き、少しずつ成長していく様子が描かれています。
前提としてあるのは三人は非常に共通点が多いということ。
そして最も共通しているのが『生きづらさを抱えていること』。
これは簡単に解決出来る問題ではなく、着目したいポイントです。
まず三人ともコミュニケーション能力に問題があることは明白です。
ひとりと燈は内気で声も小さくなかなか上手く言葉が出てこない、仁菜は二人に比べれば言葉は出てくるのですがあまりに不器用な性格が邪魔してきちんとコミュニケーションを取れていない場面が非常に多いです。
そして、現実から逃避して押し入れにこもりネットの世界に居場所を見出したり、『人間になりたい』という表現で普通の子でいられない自分に悩んだり、心が押し潰されそうな環境から逃げ出して都会に出て来たり。
それぞれがそれぞれの生きづらさを抱えています。
例えばある種『ぼざろ』の大先輩である『けいおん!』の平沢唯は明るく元気で天真爛漫、皆を引っ張る主人公です。
しかし三人は彼女とは全く異なりなんとかしがみついて学校や社会の中で生きているような主人公です。
これは後述する事柄にも繋がっていきます。
次に共通している点は『音楽的な才能の高さ』です。
物語の都合上そうじゃないと始まらないよね、と言っては身も蓋もないですが三人とも作中で明確に人の心を動かすような演奏や歌唱が出来ることが描写されています。
ひとりは弾いてみた動画を上げていたことや1日6時間の猛練習で上達し、その実力を星歌に察され、燈と仁菜は歌声に感じるものがあると主に祥子や立希、桃香に評されています。
ひとり役の青山さん、燈役の羊宮さん、仁菜役の理名さんの歌唱や演奏はその設定を更に確たるものにしていると感じますね。
それと同時に彼女たちには音楽が必要なのです。
結束バンドはデビューして最高のバンドを目指す(売れて高校中退…?)、MyGO!!!!!は一生バンドをやる、トゲナシトゲアリは私たちは間違ってないということを証明する。
三者三様にバンドをやっていく中での目標があります。
そして、先ほど書いた生きづらさによって心に溜まった負のエネルギーを発露させる場が音楽でありライブなのです。
ひとりと燈はアニメ版では全ての曲を、仁菜はアニメ上で描写された中では『空白とカタルシス』の作詞をしたという設定になっています。
この作詞という作業はいわば普段コミュニケーション能力の問題で解放出来ない自分の等身大の思いを表現出来る場所なのです。
そしてその歌詞も物語の経過や心境によって変化していっているのがこの三作の秀逸なところですね。
ひとりが結束バンド結成後最初に作詞した『ギターと孤独と蒼い惑星』はまさに負のエネルギーを叩きつけた強い言葉を使った曲でした。
しかし最終回で披露された『忘れてやらない』『星座になれたら』やずっと後に披露されたいろはすとのコラボ楽曲『僕と三原色』など、明らかに思考がプラスの方向に変化している歌詞が散見されます。
燈はちょっと懐かしい学習ノートに歌詞を書き留めていましたね。
「私の歌は心の叫びだ」というセリフは僕の考察を補強するものです。
そして先ほど述べた『人間になりたい』という表現で願った『普通』への憧れ、そうなれない葛藤を叩きつけた曲が多くを占めています。
ただ、やはり心境によって少しばかり傾向は異なります。
色んな意味で話題になった登場人物たちにとって因縁の曲である『春日影(はるひかげ)』と
第12話、MyGO!!!!!サイドでは最終話と言って良いでしょう、ここで披露された『碧天伴走(へきてんばんそう)』『迷星叫(まよいうた)』『迷路日々(メロディ)』の歌詞はかなり異なっています。
その場から離れないでという意味合いから、みんなで離れないで『進もう』という意味に変わっています。
迷子でも、進めというキャッチコピーに偽りのない楽曲に昇華しています。
主人公ではないですが『ガルクラ』の桃香も、バンド活動の再始動から最初に作詞した『声なき魚』はよく見てみると非常に暗く後ろ向きな歌詞でした。
トゲナシトゲアリの楽曲の多くはアルバム曲、BD、DVDボーナス曲含め負のエネルギーを叩きつけたものが多いので珍しいことではないのですが。
しかし最終回で披露された『運命の華』はこれまでの楽曲とは大きく異なったポジティブなワードが並び、また明らかに桃香と仁菜との関係性を示唆する言葉が使われています。になもも
このように三人のひとりぼっち、迷子、不登校の少女たちは自分の鬱屈を叩きつけ作品に昇華させる場所として音楽が重要なものになっているのです。
『ガルクラ』のルパがさらりと「私にもロックは必要」と呟いていたように他にもそういった思いでやっているキャラクターも存在します。
人と繋がったり、ぶつかったり、練習がしんどかったり。
それでもやっぱり音楽って、ライブって良いものです。
実際にライブに行って演奏や歌唱を聴くと、音楽で人の心を動かすっていうのは本当に素晴らしいと再確認します。
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②この三作品が人気になった理由
つらつらと主人公たちのことを考察してきましたが、そもそも何故こんなにもこの三作品は人気になったのでしょうか。
僕なりの考察を書いていきます。
まずは『ぼざろ』について。
この作品についてヒットした理由は長々と述べる必要はないでしょう。
アニメ化前も賞を受けていたり、漫画を読む人なら一度は名前を聞いたことがある程度には知名度があり、アニメファンからは少なからず注目を集める『きらら系作品』でもあるこの作品は放送前から人気になるであろうとある程度予測出来た作品でした。
もちろんそのヒットが爆発的なものになったのはSNSや動画サイトを使ったプロモーションの上手さ、アニメーションや楽曲、細部に至るまでのクオリティの高さがあったからこそです。
もちろんこれはどの作品にも言えることですが。
ただ、『MyGO』や『ガルクラ』はそういった追い風は『ぼざろ』よりは少なかったのは事実でしょう。
ここからは『MyGO』の話です。
主観が入りますが、今までの『バンドリ』シリーズはファンの方は熱心に見ておりその数もとても多かったですが、そうでない人(ファンというほどではない人)はあまりよくアニメの内容を知らないという傾向にあると感じていました。
『ガルパ』はやったことあるという人は多かったとは思います。
これは本当に主観なので間違えている可能性があります、すみません。
ただ、放送前に『ぼざろ』ほどの熱量を寄せられていたかというとそうではないというのは間違いないと思います。
そして、放送後人気になった理由を考察したいのですが…。
正直に言ってこの作品に関してははっきりとはわからないというのが結論です。
ここまで読ませておいておいおいと思われるかもしれませんがはっきりとわからないものに結論をつける方が恥ずかしいことです。
何故わからないのか、それはこの作品からエンタメ性を全くもって感じないからです。
逆に言えばストーリー展開にある種のストイックさを感じます。
かわいらしいアニメナイズされた見た目のキャラクターたち。
燈たちの容姿はそのまま日常系コメディをやっても何ら問題ないです。
本編とは真逆に柔らかなストーリーであるYouTubeでのショートアニメはそれっぽいですね、おとなしい主人公の燈、元気な愛音、お姉さん風味のそよ、しっかり者の立希、自由人の楽奈。
本編と性格は大きく違わないのに日常系コメディも出来てしまうのが不思議。
そんな子たちが、本編では相手にとってはとんでもない地雷踏むことを言ったり、本当に大事なことは言えなかったり、嫌になって無視したり。
キーワードでもある迷子、の名の通り少女たちがそれぞれの思いを持ち、時には逃げ、時にはぶつかり、悩み、疑問を抱きながらもおずおずと寄り合って前に進まんとする。
その鬱屈としたエネルギーを孕み、なかなか問題がすっきりと解決とはいかないストーリーはキャラクターのかわいらしさの分、より生々しく、リアルで精神的にしんどい人は見ていて苦しかったかと思います。
賛否両論が出て当然だと感じました。
それは何故か。
このストイックな作品に魅力を見出すには自分から行かないといけないからです、僕はそう感じました。
コンテンツの消費スピードの速い令和の時代、見るだけで楽しい作品が流行るのは明白です。つまりこれはなかなか思い切ったことだと思います。
それはどういうことなのか、ひとまず僕をサンプルにしましょう。
最初自分と最も近い性格をしているキャラクターは立希だと思いました。
やるべきことを突き詰めていくところやいわゆるまとめ役をやらされてる感じが親近感を覚えたためです。
それだったらと彼女にある程度比重を置いて見ようかと思っていたのですが、その立希が気にかけている溺愛している燈の考え方や悩みが非常に興味深く感じられました。
普通でいられないって苦しいよね、普通って何だろうねと自分も考えるきっかけになりましたし、中盤以降は彼女の変化や成長を一番の見どころとして見出すことが出来ました。
このように『MyGO』はただ見ているだけだと大部分が湿った苦しみに包まれた物語を浴び続けるだけになってしまうので本当に面白い部分を見つけるためには自分から歩み寄る工夫が必要なのではないかと考えます。
そのため「じゃあそんなに難しいのに何故ヒットしたのか?」が今ひとつわからないのです。
重ね重ねになりますが令和5年にこの作品が世に出たことはなかなか歴史的なことではないのかとさえ思っています。
そして『ガルクラ』は更なる向かい風の中で始まっています。
前二作品のようにアニメ化前からの知名度も過去シリーズもなく、才気に溢れてはいるもののデビューしたての若いガールズバンドのメンバーがメインキャストとして声優にも挑戦する3Dオリジナルアニメ。
正直なところ、よくこの条件でヒットさせたなと心から思います。
アニメをそれなりに見ている人ならばこの字面を見たら心配になったりこれはちょっといいかなとスルーすることとなるでしょう。
僕も地元川崎が舞台じゃなかったら注目してなかったと思うのでそれは本当にラッキーでした。
結果は皆さんご存知の通りです。
Xのトレンドを毎週賑わせ、その後のワンマンライブ他、活動を行なっています。
本題からは逸れますが凪都さん、美怜さんの復帰を一ファンとして心待ちにしています。
体当たりで臨んだ演技の挑戦、クオリティが高く心に訴えかけてくるような楽曲の数々、毎週飽きさせないストーリー、魅力的なキャラクターたち。
そして何より懸念されていた3Dアニメという点は動きや表情の変化なども自然で、圧倒的なクオリティで制作されており視聴者を驚かせました。
ライブシーンは3Dということを活かして前二作とはまた別のベクトルの迫力や派手さがあります。
ストーリーの中で『MyGO』同様キャラクター同士の衝突は描かれるのですが、こちらはノーガードの殴り合い(主に暴力ではなく言葉や行動でですが)の側面が強く、なんだかんだで問題をひとまずは解決しながら進んでいくのであちらほどの見ている際の苦しさはないのではないのかなと思っています。
過去に傷を持ち、世知辛い川崎で生きているトゲトゲメンバーより学校という社会で生きている『MyGO』キャラたちの方が環境としては恵まれてはいるというのは興味深いポイントです。
もちろん祥子など苦しい生活を送っている子も中にはいますし、それぞれにそれぞれの難しさがあるので一概には言えませんが。
そしてやはり仁菜の存在はこの話題を語るにおいて欠かせないでしょう。
意味を知らなかったとはいえいきなり第一話でかましてくれたダブル中指、そこからの猪突猛進な姿、超絶クオリティのライブ。
『川崎の狂犬』などとネット上で異名がつくほどの暴れぶりはこれまた賛否両論を呼びましたが作品をグイグイと引っ張った要素であるのは間違いないです。
わかりやすい激情と同時に心の内にある苦悩や過去を知ると、仁菜というキャラクターへの理解は更に深まっていきますね。
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③この三作品から受け取ったこと
僕はこの三作品から共通したメッセージを感じました。
それは『普通』という言葉の意味です。
普通に出来る、普通の子、普通な感じ。
ありきたりだけど、とりあえず正解。
個性を尊重だの多様性だのと語られる現代ですが、なんだかんだその普通でいられることは一種の才能です。
出る杭は打たれる、ということわざもあるほどですからね。
そんな世の中に生まれた三人のキャラクター。
彼女たちは皆いわゆる普通の範ちゅうには収まれていません。
物語開始時点では辛く苦しい日々を送っていて、自分がステージに立つ日が来ることを想像もしていなかったでしょう。
その才能を携えなんとか捻り出した勇気で『普通ではない』世界に飛び込んでいく。
その姿には心打たれるものがありました。
最後に先述しましたが音楽っていいな、ライブっていいな…という月並みなことです。
そりゃ当たり前だと言われそうですが、改めてそれを感じさせてくれた作品たちでした。
音楽アニメ、バンドアニメとして一切手を抜くことなく楽曲やライブシーンを作ってくださり、それを活かすストーリー展開を作ってくださり、何度心動かされたことか。
ひとりがなんとかしようと『あのバンド』のイントロを掻き鳴らしたり、喜多ちゃんが『星座になれたら』の演奏の中で逆にピンチのひとりをカバーしたり。
メンバーがバラバラになって一人書いた詩を歌い続ける燈、MyGO!!!!!メンバーがようやく一つになれたような『迷星叫』。
冷たい雨の雫すら演出の味方につける仁菜と桃香の『空の箱』。
もはや一本のMVとして成立している激アツな『空白とカタルシス』。
他にも泣きポイント山ほどあるのですが感動したシーンの例を出してみました。
僕ほんとにすぐ泣いちゃうんですよね。
こういった音楽で人を感動させられる素晴らしい作品に出会えて、もらったメッセージは大切にしたいと思います。
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④おわりに
毎年ガールズバンドアニメがヒットを飛ばすというのはなかなか稀有なことで、『ガルクラ』が終わった後凄いなぁ、と思い続けていました。
各作品はライブが行われていたり、グッズ展開もされていて、『MyGO』の実質2クール目となりそうな『Ave mujica』の放送も決まっています。
これまた重たい話になりそうですね、祥子にはどうにか幸せになって欲しいですが…。
『ぼざろ』はいずれ2期やりそうですがまだ特に情報はなく、『ガルクラ』は終わり方的に半々くらいでしょうか、両作ともに2期を期待したいですね。
しっかり稼働が続いているのはとても良いことで、末長く続くコンテンツになることを祈っております。
特に『ガルクラ』は地元川崎が舞台の大ヒットアニメを作ってくれてありがとうという気持ちでいっぱいです。
ライブチケット当たらーん!そろそろ行きたいです!
それではこの辺りで、ありがとうございました。