ゲーム『イハナシの魔女』で一年分くらい泣いた話【ネタバレ注意】

雨ばかりでなんだかイヤですね、どうもです。

今回はそんな雨を吹き飛ばすような夏の青空が印象的なノベルゲーム『イハナシの魔女』という作品の話をしていこうと思います。
これから詳しく語っていきますが、王道のボーイミーツガールものとして本当に素晴らしい出来の作品でしたのでたくさんの方にプレイしていただきたいです。
Steem他Switch、PS、XBOXなどコンシューマ機でもプレイ可能です。

⚠️感想をしっかり書きたいのでネタバレ全開の記事になっております、既プレイの方向けなので細かい説明は省いています
重要なことですが未プレイの方はネタバレ防止のためプレイするまでこれ以降の記事をご覧にならないでください。公式のガイドラインに則り強めにアナウンスしておきます
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コンシューマ版公式サイト↓




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元々この作品は同人サークル・フラガリアさんがコミケで頒布されたもので、好評を博し移植されたそうです。

発売から少し経った5月、とても信用出来るTwitterのフォロワーさん(既に数作品布教されて視聴済み)から無言で公式サイトのURLを送られて、これは…!と思い即購入。
ノベルゲームは腰据えてやりたいなと思い土日と平日夜の元気な日にゲームを進めていきました。

このゲームは『プロローグ』『アカリ編』『保険販売員編』『リルゥ編』の4つの章に分かれています。
プロローグでおおまかな状況説明がなされて後ろ三章でそれぞれ赤摘明、比嘉紬、リルゥの三人のヒロインに焦点が当たるストーリーになっていますね。

それでは、各章の感想を述べていきます。

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プロローグ

物語始まってからまず光を待ち受けるのは絶望的な状況。
端的に言えば裏切られ捨てられ渡夜時島のサトウキビ畑に辿り着いた光。
後々語られる内容と照らし合わせるとリルゥと似た境遇だったのですね。
ハブを串刺しにして焼くの、どうしてもスネークを思い出してしまいます、あのまま食べられるのかな…?
変わったものを食べた経験が少ないのでわかりません。

物語全編を通じて語られる閉鎖的な島のマイナスの部分が冒頭からしっかり説明されていたのが印象的でした。
島民同士はほとんど知り合い、何か事件があればすぐ伝わる、よそ者はまず好奇と疑念の目で見る。
もちろん現実とはまた違うかもしれませんが本土に暮らす自分(僕)とは価値観が全く異なります。
それ自体は悪いことではありません、周りがそうで、その考え方が当たり前だと思って暮らしてきたのですから。
僕だって離島に生まれ、暮らしていたらそういう考えを持ち、それを疑わなかったでしょう。
この風土がイレギュラーである光たちを最後まで苦しめることになるわけですが、大里家がそれの最たるものなだけで一般人が束になって豹変したら更に恐ろしいとも感じました。
集団、同調圧力…恐ろしいものです。

楽しい話もしていくと本当に何もかも一から始めることになった光とリルゥがこれまた違う価値観を持った同居人として暮らしていく姿は過酷ながらも見ていて頑張れ、と思わず言いたくなるような一種の冒険のように思えました。
年頃の男女が挑む一夏の冒険、こんな状況心躍らないはずはないでしょう!
これからどうなるんだろうとアカリ編を始めると、いきなり島一番の美少女が誘導尋問してきました。

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アカリ編』

ここではっきり書いておきます。
この作品のボイス付きのメインキャラクター、本当にみんなが大好きでサブキャラもいい味出していると思います。
どのキャラも登場時はなんだこの人、と思っていてもどんどん好感度が上がっていくイメージですね。
その中で僕はほんのちょっぴり、カチューシャ一つ分だけ抜けてアカリが好きです。
理由は後述します。

島の重鎮・大里家の分家である赤摘家の娘としてのおつとめと夢に揺れるアカリ。
逃れられなかったはずの運命を光とリルゥというイレギュラーが変えていくストーリーは実質最初のヤマとなる章だというのに既に大きく盛り上がっていた印象です。
地元の大会から東京のオーディションまでたくさんの人に助けられ、たくさんの人を困らせてしまった、フェリーの中で、飛行機の中で、東京の電車の中で、それぞれの場面でアカリが一人何を思ったのか想像するだけで胸が痛んで仕方がなかったです。
特に妃里子は儀式のための剃髪まで受け入れて、かつアカリのために手を回していたという。
序盤に謎のラップバトルをしていたコテコテのお嬢様像はどこにもありません。
この時点で気高き女傑のような覚悟を感じました。
兼城さん(さん付けさせてください)も初登場しましたがこの頃はまだ隠れオタ不良くらいな感じでしたね。
同人誌に釣られる辺り同人ゲームっぽさがあります。

少し話が逸れますが、EXTRAでアカリが演技の参考にしたという声優さんの実名がガッツリ出ていて笑ってしまったし、確かにと納得してしまいました。

話を戻しますと、光もリルゥも妃里子も10代、高校生の年齢です。
そして夢を見てそれに進んでいくことを許されなかった人間です。
妃里子は自分がいずれ祝女となることを理解し受け入れていた。
光とリルゥは夢がどうこうというより日々を過ごすのが精一杯だった。
そんな人たちがアカリが抱いたアイドル声優になるという大きな、そして叶えるのは非常に難しい夢を応援するのはとてもアツいものがあります。

先ほども登場人物の印象が変わっていくことについて書いていますが、もちろんこの章で最も変わったのはタイトルにもなっているアカリでしょう。
プロローグではいきなり島一番の美少女アカリちゃん…なんてなんだそりゃ、電波系?とまで考えられそうなことを言っていましたが、彼女をしっかり掘り下げることで本当の魅力が見えてきます。
飄々とした態度で、時にはエッチな冗談を言ったり、光をからかってみたり。
でも本当は一人では不安だし、弱音だって吐きたくなる時もある等身大の女の子。
それでいて絶望的な状況に置かれても夢を諦めたくないと思い続ける芯の強さ。
光への淡い想いを抱きつつも涙しながらリルゥのことを考え身を引くその姿。
その後の章でも光とリルゥが困った時一番に相談に乗ってくれる相手になっています。
こういうキャラ好きになりがちなんですよね。
俗に言うなんたらヒロイン、ってやつです。
はっきりは言わんときます。

この章を語るにおいて最後の西銘家に来たアカリの笑顔…それとも?なCGを忘れてはいません。
そこにあった感情やいかに。
このゲームはいわゆるCGの数がものすごく多いわけではないので逆にそれぞれのシーンが引き立っているように感じました。

赤摘明さん、幸せになってくれ。

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保険販売員編

この章が4つの章通じて正直最も読んでて辛かったです。
もちろんこの章も他の章も楽しいシーンやシュールなシーンを含みつつ後半にシリアスな展開が見られるのですが、共感性羞恥というものでしょうか、そういったものと単純に大人に刺さるシーンが多かったように思います。

アカリ編の主題がアカリの夢だとするとこの章は紬が自分を乗り越えることがテーマではないかと感じました。

紬はとにかく不器用で、自信がありません。それをカバーするために自分の指針となるノートに則って行動しています。
(本人が元々持っている性格もあるでしょうが)何故そんなに変わっているのかといえばもちろん異世界から来た人だからなのですがこの時点で紬はそのことは忘れています。
実はこの時点で結構伏線があったんですよね。
リルゥを圧倒するほど力が異常に強いのが最も大きなヒントでしょうか、後は箸のくだりとか。
そして、自己啓発本から得た情報に則った紬が仕事をしている描写は見ていられませんでした。
本人は間違いなく上手く行くように真面目に努力しているんです。
でも結果はついてこず、むしろ失敗ばかりで周りからは冷ややかな目で見られる。
そして本人はまたノートを頼りにしつつ別な仕事をする、の繰り返し。
なんとも歯痒く辛い光景です。

サトウキビ工場から転職してホテルで働き始めた光の仕事の様子も、また別の生々しさがあり、ずきっとなりました。
なんだかんだ上司二人が厳しくも良い人でよかったのですが。

そして、紬の心の拠り所であり、『お祖母ちゃん』との最後の繋がりであり、生きていく上での枷であったノートをリルゥが引き裂くシーンは本当に辛く苦しいものでした。
そして、その後リルゥが紬を前に進ませるため魔法でお祖母ちゃんと話をさせてくれた。
涙なくしては見られないシーンです。
紬は過去からずっと空回っていました。
那覇に出てお祖母ちゃんからの大金を騙し取られ、決して一定以上は売れることのない芸能活動をして。
アカリはこれから夢を追いかけますが、紬は既に夢破れているという切ない対比が胸を打ちます。
そしてお祖母ちゃんのそばにいることが出来ずにお金も使わせてしまい死なせてしまった、おそらくそのことを何よりも後悔していたでしょう。
そんな紬にお祖母ちゃんがかけてくれるうちなー言葉の優しさが温かくて心に沁みました。
元気で生きていればいい。
誰かと自分を比べたり、体調を崩したり、落ち込むことがあったり。
そんなことがしょっちゅうある僕にとってはシンプルで温かなメッセージが胸にじんわりと広がっていく感覚がありました。

話は変わりますが光もお年頃です。
年上のお姉さんである紬と触れ合っていくうち、デレデレとした態度を取る描写が見られるようになっていきます。
そのことに対しリルゥが不機嫌になっていて、関係が進展しているのがわかりますね。
しかし、光の気持ちは一人の女性を真剣に想う好きではなかったのでしょう。
何故ならリルゥ編で語られる好きな人と触れ合おうとすると発作が出る描写がありませんし、言葉だけでそれ以上に踏み込むことはありませんでした。
みんなと楽しく過ごした祭りの夜、花火の下で光と紬が交わした会話はどこかほろ苦い青春の匂いがしました。

街に灯りが並んでいる様子を映した背景がありましたが、あれは本当に元ネタの島にあるそうですね。
離島は人生で一度も行ったことがないのでいつか上陸してみたいです。

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リルゥ編』

ついに最終章、ということでかなり身構えて読み進めていたのですが台風が来るからとみんなで合宿する話から始まってびっくり(妃里子お嬢様の堂々としたモザイクでさらにびっくり)。
珍しく露出度の高いお風呂CGや妙に細かいドボン大富豪、バーベキューなど皆で過ごす楽しい時間がかなりの尺を要して描写されていました。
読了後に知りましたがこの作品はかなり細かなエピソードを削ったとのことです。
それなのにしっかりと日常の描写をしていた辺りこの合宿がストーリーの中で非常に重要だということです。

そんな楽しい中でリルゥの過去が語られるシーン、物置のシーンはやはり外せないでしょう。
どちらもあの時間の間に起こった出来事なのでより印象深く感じました。

魔法、というと現実世界では物語の中で使われる不思議な能力というのが一般的なイメージです。
しかし、リルゥのいた世界では魔法を使う魔女は穢らわしい存在とされ、闇に身を投じて身につけるものという後ろ暗いものでした。
逆に言えば、その能力がアカリや紬の大ピンチを救ったというのはリルゥにとって救いだったのかもしれません。

そして、最初の奴隷商人に売り飛ばされるとまで言われていたところから少しずつ距離が縮まってきて、もう両想いといって差し支えなかった光とリルゥ。
しかし光の辛い過去がそれを邪魔します。
自分の居場所もなく暗い思い出だけが並んでいた人生でようやく出会えた愛する人と触れ合う瞬間視界を奪われて体調不良になる。
彼はどんな気持ちだったのでしょう。
プレイしている時想像しただけで涙が出てきました。

合宿から後はどんどん光とリルゥは追い詰められて物語は加速していきます。
最初の長い尺を取って描いた楽しい日常の描写が、重く苦しい展開とのギャップを生んで物語に深みを与えているように思いました。

これまでのエピソードで、リルゥは常に強く、しっかりとした佇まいをしていました。
光にも他の登場人物にも、様々なことを決断させはっきりさせようとしていました。
生きるか死ぬかギリギリのところで生きていたことがその躊躇いのなさの理由でしょう。
そして、その凛とした姿は呪いによってだんだんと崩れていってしまいます。
陽光の下に出ることが出来なくなり、身体の力が抜けることが多くなり、仕事や家事も出来なくなっていくその姿はあまりにも痛々しく読み進めるのが怖くなるほどでした。
やがて病院にかからなければならないほどに。
それに比例して、光の負担も増していきます。
仕事も家事も、介護とすら言えるリルゥの世話もこなして。
リルゥの体調不良の謎を解くために何徹もして、成果なしという絶望も味わいました。
空振りに終わったとはいえここの解読のために危険を犯して書物を盗んでくるアカリと妃里子は本当にかっこよかったですね。
あまりの苦しさに手の甲をペンで刺してしまうほどの絶望に駆られる光にもう頑張らなくていいというリルゥ。
死を受け入れていたことは、なんとなくわかっていました。
日本人の光とは違い、リルゥにとって死というものが身近だったからこその決断でしょう。
これもまた価値観の違いです。

地球には70億人以上の人間がいます。
その中で富める人もいれば貧する人もいる。明日の食事も知れないような生活を送っている人々は僕たちが思っているよりずっと多くいるはずです。
日本だったら小腹が空いたらコンビニに行ってお菓子を買えて、テレビやPC、スマホをつければ世の中の情報が得られ、屋根の下で眠る。
明日死ぬかもなんて一日の中で一度もよぎりもしない生活を送っている人が多いでしょう。
日常生活の中で人が死ぬというのが当たり前にある環境にいたリルゥの考え方とは真逆です。
病気になれば治らないで死んでしまうかもしれない、怪我をして手当てが出来なければ死んでしまうかもしれない、乳児死亡率は国の発展と比例すると言います。
我々が暮らす日本でさえも江戸時代辺り、下手すれば戦後まで日常と死は非常に近いところにありました。
恐れていないというわけではないでしょうが、リルゥは人が命を落とすことに慣れてしまっているのでしょう。

そして、最期を迎えるその日まで二人で楽しく暮らしていたものの、運命は待ってくれません。
大里家の圧力→島民が敵に回る→家に警察が来るという最悪の流れになってしまいます。
リルゥに取り憑いていたもののおかげ(なのだろうか)で一時の窮地は脱しましたが二人にもう逃げ場はなく。
日差しが半分差し込むようなボロい小屋に身を潜めるあのシーンは、苦しくて切なくて、互いを想う気持ちが見られる名シーンだと思います。
リルゥの魔力が尽きて好きだという言葉が通じなくなり、先生に連れられて大里家に搬送されるところは泣きすぎてしばらくオートにしてもらってコントローラから手を離していました。
プロローグで奴隷商人に売り飛ばされる、と言っていたことが半ば本当になってしまったのです。
倒れ込んだ光の絶望たるや筆舌に尽くしがたいものだったでしょう。

アカリ、妃里子、そして保険販売員編以降は悪友のような形でメンバーに加わってきた兼城さんが大里家に嘆願する場面は本当にアツかったですね。
兼城さんは一切抵抗することなく暴行され続け、それでも頭を下げ続ける。
アカリのモノローグ「家名が役に立つなら使ってやります」という覚悟の決まったフレーズもかっこいいですし、妃里子も同じくそのことを思っていたでしょう。

そして、物語はクライマックスへ。
もはや世界の危機とすら言える人ならざるものの暴走に光の機転が働きます。
リルゥの行っていた光のパンツを使った物の所有者の夢に入る儀式、リルゥのアクセサリー(所有物)、光の祖父から受け取った刃物、紬の戦士としての並外れた力。
全編を通してそうなのですがこの作品は伏線や何気なく出てきたアイテムなどが後々上手く拾われてストーリーに大きく関わっていきます。
そしてクライマックスということでここは本当に様々なものが回収されていきました。
その先にあるリルゥとの再会、世界を救う最後の儀式。
カタルシス、ってこういう展開を指す言葉なんだと思います。
リルゥと夢の壁を隔てたCGも、ちょっとゲームを止めてタオルとティッシュを取りに行ってました。

そして、一夏の冒険の果てに待っていた最後の最後のシーン。
良かったですね、本当に。
唯一の差分ありCG、いや、差分がなきゃダメなところです。
アレを見せられてED〜エピローグとあっという間で、もう放心状態でした。
爽やかな読後感に包まれながら僕はカチカチとボタンを押して設定資料集を読み漁っていったのでした。

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おわりに』

フラガリアさんの公式サイトに記載されていたことがあります。
僕はこの記事で何度か『価値観』というワードを太字にしていました。
公式サイトを見る前プレイ中に既に考えていたのですがキャラ間によって価値観の違いがすごいあるなぁと感じていたのですが、フラガリアさんもその部分は大事にされているようです。
新しい視点からものを見るには凝り固まった考えではいつまでも不可能ですからね。
僕はどちらかというと堅い方なので素晴らしいストーリーと共にそれを学ばせていただきました。

まだまだたくさん書きたいことがあるのですが本当に長くなってしまうのでここだけは書きたいというのをチョイスして記事にしました。
一人でも多くの方にこの『イハナシの魔女』という作品に触れてもらえたらいいですね。
夏にやりたくなるゲームがまた増えました。

読んでいただきありがとうございました。

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