カープダイアリー第8235話「秋山翔吾から未来を背負う小さな掌でグラブやボールを持つ君たちへ」(2023年4月17日)
メディアは新井カープの首位浮上を「春の珍事」などと騒ぎたて、ファンも“驚き”を持ってのリアクション…。開幕4連敗から13試合消化時点、要するわずか9試合で盛り返した原動力になったのは、マツダスタジアムのファンの声援だ。
ロード1勝4敗、ホーム7勝1敗。しかも本拠地7連勝中。コロナ禍の過去3シーズンでは様々な制約が設けられ、リミッター解除のタイミングが新生新井カープのスタートと重なった。
「新井監督もチームも素晴らしいスタートを切りました。あとは遠征先でどう戦うかですね」(カープOB会長・大野豊さん)
ファンとともに築いた7連勝を振り返ると…
6日 3-0阪神(6回降雨コールド)勝ち投手遠藤完封勝ち
7日 4-2巨人 勝ち投手大瀬良、序盤接戦、中盤中押し、S栗林
8日 6―3巨人 勝ち投手床田、先行逃げ切り、S栗林
9日 4―1巨人 勝ち投手玉村、三回逆転勝ち、S栗林
14日 1-0ヤクルト(8回降雨コールド)勝ち投手大瀬良、Sターリー
15日 5x-4ヤクルト、勝ち投手戸根、サヨナラ勝ち
16日 7-5ヤクルト、勝ち投手ターリー、逆転勝ち、S栗林
…となっている。
全部、3点差以内。接戦、先行逃げ切り、逆転、サヨナラ…あらゆる展開に対応している。
連勝だからそれも当り前なのではあるが…
雨の中でも3万人を超えるファンが選手たちに声援を送り続け、しかも新井監督が選手たちと一緒になって“戦う”スタイルがSNS上で共感を呼び、大きな反響を生んでいる。
ところで自身のバースデー前日に続いて当日(16日)もマツダスタジアムのお立ち台に上がった秋山のトークが、その人となり、そのキャラクターを実によく表していた。チームメイトとファンの心に残るものとなったに違いない。
秋山は自分に厳しく、ゆえにプロの世界を取り巻く関係者にも厳しい。それがバースデートークにも滲み出ていた。マツダスタジアムでは中継局アナウンサーがヒーローインタビューを担当する。プレーボールからお立ち台まで、そのずべての過程で表現されるものを持ってプロ野球の興行であり、みんなでペナントレースに参戦するという考えも成り立つ。
16日のマツダスタジアム、お立ち台での秋山
-35歳、誕生日のお立ち台。
きのう、(サヨナラ2ランで)やりすぎてしまったので、きょういいつなぎで活躍して、無理やり立たせていただきました(スタンド大歓声)。
-35歳のスタート、最高では?
このあとが怖いです(スタンド笑い)。
-打っては3安打、きのうから5打席連続ヒット、ご自身の状態、チームの雰囲気は?
あのぅ、一瞬でも油断するとすぐに落ちていくんで、毎回その打席に集中してやっていきたいと思いますし、チームはこういう勝ち方になったので、力もほんとについてきていると思いますし、隙を見せずにやっていきたいと思います。
-チームは首位。
まだ始まったばかりです。あのぅ、ほんとにいい空気だからこそ閉めるところは閉めて、しっかりしたプレーをみんなでやっていきたいと思います。
-この3試合、雨の中集まった多くのファンへ。
あのぅ、ボク、ひとり親の支援(広島市母子寡婦福祉連合会および広島県ひとり親家庭等福祉連合会を通じて会員の親子を招待、この日が第1回であと3回を予定、大瀬良も同じタイミングでひとり親家庭を招待)をやるその初日だったんで、こういう日に活躍できたことを嬉しく思いますし、その話がいつくるかなーと思ってたんですけど、すごくトントントントンチームの話になったので、すごく残念なとこでもありますけど、これからもたくさんいい試合を見せられるように足元を見てしっかりがんばっていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
……
試合開始からゲームセットまで、グラウンドでプレーが続く時間帯だけでファンと選手の一日が終わる訳ではない。
スタジアムに入ってからスタジアムを出るまでが勝負であり、プロ野球の存在意義を問われる時間でもある。
それを強く意識できるか、どうか?
秋山がサヨラナ弾を放った翌日にも3安打1申告敬遠の2得点で勝利に貢献できたのは、招待した子どもたちに夢や生きるための活力を伝えようとしたからだろう。
試合前練習ではレフトの守備についた。そこには半地下の選手の姿を足元から見上げる形になるカフェがある。
ひとり親家庭13組にとって、たぶんそこは夢のような空間…
普段、決して見られない風景の中に、新井カープの先頭になってチームを牽引する「秋山選手」。背番号9は逆光の中、いっそう大きく目の中に飛び込んでくる。
メディアが本来伝えるべきはこうした一場面であり、それをスルーするアナウンサーはプロではない、ということか?
「アキはキャンプ以降、自分で考えて自分で調整してきました。質問してくれば答える程度」(朝山打撃コーチ)
他人に厳しい秋山は自分にはなお厳しい。そうでなければ高津ヤクルトに3タテを食らわせることなど、できはしない。
そう一瞬でも隙を見せれば今度はこちらが痛い目に遭わされる。温かい時間や空間と両軍ベンチによる熾烈な潰し合いが交差しながら、ペナントレース、まだ始まったばかり…