カープダイアリー第8310話「きょうはどうしても勝ちたかった…デザインされたような81球、大規模災害の辛い記憶乗り越えて」(2023年7月6日)

首位阪神との地元3連戦は最初から最後まで見応え十分だった。

初戦は13安打を放って9対1快勝、第2戦は大竹に5安打完封されて白旗となったが、この日は4対0で完封返しに成功した。

「首位のチームに勝ち越したということは、また力がついてきたということ」新井監督の言葉にますます実感がこもる。

お立ち台には野村祐輔と小園が上がった。

一軍復帰即スタメンの機会を与えられた小園は1、2戦では不発。3度目の正直となったこの日は二回に2ランが飛び出した。「なかなかヒットが出なかったんで、開き直って思い切り自分のスイングをしようと思って…」

ただの柵越えではない。防御率リーグ1位村上へのボディーブローとなる貴重な第1号。五番に入った松山の左前打を最大限に生かす形で試合の主導権を握ると、三回にも龍馬の適時打でリードを3点に広げた。

序盤から援護を受けた野村祐輔は6回3安打無四球で今季初勝利をマークした。

「打たせるピッチングができて、バックに守ってもらってほんとに良かったと思います」

遅れて一軍登板を果たした一週間前にも坂倉とのバッテリーでDeNA打線相手に6回無失点だった。3安打無四球の数字もいっしょ。だが、内容的にはさらに凄みが増していた。

この日の阪神スタメンは…

島田△
中野△
前川△
大山
佐藤輝明△
ノイジー
坂本
木浪△
村上△
△は左打者

左打者の間に右打者が挟まれる形のオーダーをどう分断していくか?横の変化でどう抑えていくか?が注目された。

バッテリーで徹底していたのは左打者の外角へのツーシーム、内角へのカットボールの使い方と3巡目でのチェンジアップの使い方。右打者には逆にインローへのツーシーム、外へのカットボール。

全81球と少ない球数で勝負できたことも大きい。そのうち真っすぐは6球だけ。球速がないだけに、相手の目が慣れてくる前にけりをつけることもポイントだ。

対戦別に見ていくと「捕手1本」勝負となっている坂倉のリードが光る。石原慶幸コーチと二人三脚でレギュラーシーズン前半をついに乗り切っただけのことはある。

前日ライトポール直撃弾の島田や二番中野は外のツーシームで第1打席内野ゴロ。第二打席はともに貴重な?ストレートで凡打に取った。第3打席ではチェンジアップを混ぜて仕留めた。

三番の前川は二十歳になったばかりとは思えないバット軌道で対抗してきた。初回の第1打席では7球を要してインハイへのカットボールをショート後方に落とされた。第2打席は外角のツーシームで、第3打席はカーブを2球見せてともにゴロアウトにした。

佐藤輝明とは2度当たり、ともに2ボールにしたら相手が食いついてきた。第1打席は外のツーシームで一ゴロ、第2打席は外のツーシームを右前打された。

五回、第2打席の木浪には9球粘られた。持ち球を全部使って最後はチェンジアップで三ゴロを打たせた。

けっきょくゴロアウトが12個。外野にフライが飛んだのは2度だけでまさにデザインされたような投球に終始した。

お立ち台でお約束の“西日本豪雨災害”への思いを聞かれた野村祐輔は“広島魂”を強調した。

「僕は広島で育ててもらったと思っているのでこれからも長く広島でがんばりたいと思っています。野球ができることに感謝してがんばっていきます」

「きょうはどうしても勝ちたかったので勝てて良かったです!」

岡山生まれ広島育ちの右腕にとって5年前の7月6日は辛い記憶となっている。

その一日前5日から8日にかけて広島県中部は梅雨前線に伴う豪雨に見舞われた。安芸区、坂町、呉市、熊野町、東広島市などで大規模な土砂災害が発生。県内災害による死者は108人とされる。
 
加えて岡山県内でも61人が命を落とした。被害が集中したのはまさに実家のある倉敷市。域内を流れる複数の河川で堤防が決壊して真備町の浸水は5メートルに達した。ニュースに映し出される現地の様子はショッキングなもので、6日から8日までの東京遠征から戻ってきたチームにとっても衝撃は大きかった。7日の巨人戦では野村祐輔が勝ち投手になっていた。
 
9日・10日・11日にマツダスタジアムで予定されていた阪神戦は中止となり、ナインは募金活動を行った。

二軍調整が長期に及んだ19番がマツダスタジアムのマウンドに戻ってきたのが先週で2度目の先発がこの日…。このシナリオは誰の手で用意されたのか?
 
ところで阪神との不思議な縁はそれだけではない。
 
まだ国内で「線状降水帯」の存在があまり知られていなかった2015年夏。広島市内で未曽有の大規模土砂災害が発生した。
 
8月19日の夜から21日未明にかけて安佐南区、安佐北区で同時多発的に土砂が崩れた。特に安佐南区八木地区の被害は甚大で泥と木材と巨大岩石に埋め尽くされた町の表情はそれまでとは一変していた。このエリアだけで関連死も含めて66人が亡くなったとされる。
 
しかしこの時、マツダスタジアムでは22日からの阪神3連戦「赤い限定ユニ」企画をそのまま“強硬突破”で開催した。市議会などから「開催の中止」を打診されても、半旗と鳴り物なし応援だけの対応に終始したのである。
 
マツダスタジアムから八木地区まで車で30分程度。しかもスタジアム内部には緊急支援物資が備蓄されている。試合前に支援物資を積んだトラックが被災地に向け出発した。。プレーボールがかかるとスタンドのあちこちに空席の塊ができた。当時は連日満員御礼。「野球どころではない」市民が大勢いたのだ。
 
広島は国内有数の土砂災害頻発県であり、これからも幾度となく同じような危機に見舞われるだろう。だがカープは球団としての立場で被災地の子どもたちをスタジアムに招いたり、目に見える形で被災地を支援するような活動にはまったく無頓着…
 
2015年の大規模災害時に、海の向こうから現地復旧活動に単身参加した黒田博樹さんの姿勢とは真逆と言われても反論できまい。
 
黒田博樹さんと志を共にする新井監督は、阪神戦総括のあと7月6日について聞かれるとこう答えた。
 
「実際に被災に遭われた方の心の傷は時間が経ってもまったく変わらないと思うんですよね。私たちはグラウンドでいいプレーをして、みなさんに喜んでもらうことしかできないんですけど、きょうも少しでも楽しんでもらえたら、喜んでもらえたら嬉しいですね」

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