カープダイアリー第8528話「斉藤優汰の剛速球、村上頌樹の快速球…」(2024年2月18日)

ミットの音が腹の底に響くような剛速球だった。バックネット裏に陣取る両球団スコアラーや他球団の関係者も大きく頷いたことだろう。

斉藤優汰の第1投は、明らかに一級品だった。

前日は田村俊介の初回ホームランに沸いたコザしんきんスタジアム。対外試合2試合目のこの日は午後からどんどん気温が上昇した。

いつもなら宜野座村野球場に押し掛ける虎ファンが三塁側を埋めた。スタンドには1万人超えの大観衆。新井監督は様々な“事情”を勘案して、高卒2年目のドラ1右腕を沖縄第1クール最終日の先発マウンドに上げた。

阪神・岡田監督もまた昨季MVPの村上を先発に据え、打線には主力を並べ、真夏を思わせる熱い一戦を演出をした。

阪神スタメン
レフト前川
セカンド中野
DH糸原
ファースト大山
サード佐藤輝明
ライト森下翔太
ショート小幡
キャッチャー坂本
センター小野寺
 
広島スタメン
DHジェイク・シャイナー
レフト田村俊介
ショート田中広輔
ファースト堂林
サード林
セカンド小園
ライト中村貴浩
キャッチャー石原貴規
センター久保修

だが、期待の右腕の晴れ舞台は2投目で暗転した。真っすぐを前川に弾き返されて、打球がその足元をセンター前へと抜けていった。相手も必死。高卒3年目で外野の一角を目指しているから、1打席1球とも無駄にしない。

続く中野にはボールカウント2-2からセンター左に落とされた。昨季164本最多安打のタイトルを叩き出したバットにも、まともに捉えられた。

三番・糸原にはフルカウントから強い三ゴロ。また真っすぐを打たれて13球で失点した。
大山にはスライダーが効いてセカンドフライでツーアウト。ところがそのあと佐藤輝明と森下翔太にはいずれも6球投じて連続四球にした。変化球が決まらないから石原貴規も難しいリードになった。

二死満塁で小幡。ファウルで粘られて7球目で左飛に打ち取った。初回だけで35球。18分間の独り相撲だった。

47番が初めて一軍キャンプに名を連ね、日南では何度も黒田球団アドバイザーの“個人レッスン”を受けた。高校時代には無縁だった投げ込みも行った。要するに現段階でできることは全部やった。

その結果がコレ、である。

二回もいっしょ。先頭の坂本誠に棒球になった真っ直ぐを左前打され、続く小野寺もジャストミートされた。一直ライナーゲッツーで、立ち直りの”ラッキーチャンス”。しかし前川にはフルカウントからまた四球。続く中野には、また真っすぐを右前打された。
 
思うようにならないから、平常心から程遠い姿をマウンド上で曝け出す。帽子が何度も脱げるほど力み上げたフィニッシュでは、絶対にボールはいいところには決まってくれない。相手打線は“眼力”にかけても「日本一」。明らかなボール球には手を出してこない。

三回にも佐藤輝明と小幡に引っ張られて右前打され、けっきょく3回67球で被安打6、与四球3の奪三振ゼロ。述べ10人の左打者と対戦して一度も空振りを取れなかった。

「いい真っすぐでも気持ちよく振られています。初回に悪いモノがすべて出た。修正力に期待します」

バックネット裏最上段からからJスポーツ解説を務める中田廉さんは、その投球内容を的確に伝えた。松田元オーナーの目を気にするような解説陣なら、こうはいかない。SNS時代のカープOBたちは表現力にも長けている。

だが「修正力」に必要な引き出しを持ち合わせていない斉藤優汰は最後まで1球1球がバラバラで、一軍ピッチングレベルからはほど遠い内容に終始した。

試合後、クール総括の共同会見に応じた新井監督は「ランナーを背負いながらも粘り強く投げた」と親心を見せたものの、決して多弁ではなかった。一転、“開幕投手ダミー”にも祭り上げた塹江について聞かれた時には饒舌になったのだが…

この日の阪神ベンチはほとんどノーサイン。これが公式戦なら斉藤優汰は早々とKOされていただろう。

なお、この試合で斉藤優汰以上の真っ直ぐを披露した右腕がいた。ほかでもない、村上だ。初回、大山のエラーで二死一塁となり打席の堂林に外角真っすぐを2度ファウルにされたあと選択したのはインローの真っ直ぐ。ものすごい音がネット裏に響き渡り、新選手会長はピクリとも動くことができなかった。

なお試合は4対0で阪神勝利、カープ打線は3安打に終わった。
 
※この記事内での選手名表記は独自のものになっています。

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