カープダイアリー第8411話「短期決戦、赤い心で日本一に挑むⅧ、預言者岡田監督との戦いの終わりに」(2023年10月20日)
午後21時41分、カープ家族の1年目が終わった。阪神勝利の余韻が残る中で新井監督は何度も頭を下げた。甲子園のグラウンドに、阪神ベンチに、わずか2%の空間からおそらく20パーセントぐらいの声援を送り続けたカープファンに、ベンチ裏に引き上げる直前にもスタンドに向かってお辞儀した。
「みんな諦めずに戦ってくれた。タイガースは強かった」
チャンピオンチームに挑む心意気は間違いなく選手たちには伝わっていた。しかし3試合とも先制しながら逆転される重苦しい展開を強いられた。「高校球児」のように「むちゃくちゃ」なことをやる場面をとうとう一度も演出できなかった。
逆に試合後のインタビューで勝った岡田監督はこう言った。
「守り勝った、そういう3連戦…、紙一重のプレーと思うんですけどね、今年やってきた守りから入るっていうか、守備において最後に一番いいプレーができたと思います」
第1戦1-4、第2戦1-2、そして最後は2-4。
得点4は秋山の犠飛と小園の適時打に続き、この日は堂林の犠飛で四回に先制。すぐに逆転され五回に堂林の犠飛で追いついた。
失点10には岡田阪神とは対照的にミスが絡んだ。第1戦は1-1同点の五回、村上の初球打ちがファースト韮澤の股間を抜け、第2戦の二回にはライト末包の後逸で追いつかれた。
この日は投手のミス、ことごとく四球が絡み先発床田が四、六回に、二番手矢崎が七回に失点した。
ここでも岡田監督の話は分かりやすかった。
「広島のピッチャーがどんどんストライクをね、フォアボールを出さないというか…。最後の最後でやっぱり競ってると甘いボールが投げられないんでね、そういうフォアボール絡みというか、今年1年得点したそういうスタイルが最後の最後一番大事なところで出ましたね」
そう、「最後」に大事なところでどう振舞うか?どう結果を導くか?その能力に岡田阪神は長けている。
では、なぜそうなのか?
第3戦の地上波中継局は日テレ系の読売テレビ。試合後、岡田監督について聞かれた赤星憲広さんが“解説”した。
「預言者です。4、5手先を想定して、ビックリするぐらい当たるんです」
新井監督と岡田監督の“勝負”が高いステージへとシフトしたのは、おそらく8月15日のマツダスタジアムからだろう。
新井監督は1分けを挟む6連敗中で負ければ優勝マジック29が点灯。岡田監督は10連勝中だった。
初回、大瀬良がいきなり森下翔太に2ランを打たれて、その裏すぐに小園の2ランで追いついたが最終的には6対7で競り勝った。だが翌16日は「六番ファースト」坂倉が2安打1打点も3対5敗戦でマジック点灯となった。5回2/3を投げた大竹は8勝目、岩崎は25セーブ目、そして桐敷は1回1/3、無失点…
この日の岡田監督のインタビューからもうひとつ引用すると、ファイナルステージの投手MVPは「桐敷」。理由は「きょう一番大事なところで投げてくれた」から、だった。
9月6日からの甲子園3連戦も、今から思えば今回の前哨戦のようなものだった。床田-村上、森下-大竹、九里-伊藤将司で3連敗。いずれも先発に勝ち負けがつく完敗だったし、ブルペン陣から1点も奪えなかった。
マツダスタジアムでのCSファ―ストステージで、すでに打線の出力は落ちていた。延長十一回3-2サヨナラ勝ちと2-2から八回に2点奪っての4-2勝ち。打線は日替わり…
阪神打線は3日とも同じ顔ぶれがスタメンに名を連ねた。
この日、初回先頭菊池の痛烈な打球はショート木浪にダイビングキャッチされた。
八回には上本の三塁線を抜けた当たりがレフトノイジーのダイレクト返球によりシングルに止まった。さらに続く代打末包のライトへ抜けようなライナーも横っ飛びした中野に捕られ、二死一、二塁となって代打松山のいい当たりも突っ込んできたライト森下翔太のグラブに収まった。
阪神は38年ぶりの日本一を懸けてパ・リーグ王者と相まみえる。
カープはもう39年も日本一から縁遠い存在になっている。
新井監督の“続投”は規程路線であり、チームはまた1年後に岡田阪神とポストシーズンで日本シリーズ切符を戦う可能性がある。ただし「家族」のメンバーは一部入れ替わることになるのは間違いない。
1年目の終わりは2年目の始まりでもある。新井監督は1年前の就任会見で言った「強いチームっていうのは当然なんですけども、ファンの方々が見ていて、わくわくするチームにしたいなと思います」の意気込みを見事、現実に変えた。
そしてライバルの存在は、もっと自分たちを強くしてくれる。岡田監督の阪神がパの王者とどんな試合をするのか?統一チャンピオンとして来季10連敗のまま終了となった甲子園にフラッグがはためくことになれば、ますます岡田監督との戦いは濃密なものになる。