カープダイアリー第8247話「大型連休幕開け、東京ドーム中田翔タイムの衝撃、12戦4敗守護神に”続投”指令」(2023年4月29日)
大型連休初日の東京ドームは異様な熱気に包まれた。いつものように大きな深呼吸をする栗林の背中で「中田、中田…」の大コールが交錯した。もうすぐ試合開始から3時間と40分、九回ツーアウトを奪い終わりの時は近づいた。
難関をふたつ乗り越え、3つ目は勝負を先送りにした。
ひとつ目は七回に松本竜也からプロ1号を放った秋広。ファウルを5球打たれながらフォークで空振り三振…
二つ目は代打丸。ショートバウンドするフォークでこれも空振り三振。7日のマツダスタジアムでは10球粘られた末、真っすぐで空振り三振に仕留めたが4球で片付けた。
だが、同じく7日の対戦で左前打された岡本和には、あと1球まで追い込みながらフルカウントからのフォークを2つファウルにされ、カットボールがアウトローに外れた。
ツーアウト一塁(代走松原)、ここまで球数20、そのうち13球がフォーク。あとひとり。しかし中田翔へ投じた初球のフォークは打ちごろの高さへ入り、あっという間にカープファンが見上げるレフトスタンドに着弾した。
おそらく栗林がプロの世界に入って経験した中で最もショックの大きいエンディングだっただろう。開幕から12試合に投げて4敗7S1H。失敗する確率がちょうど1/3。10回投げたら3回以上チームの勝利を消すことになる。防御率5・56の守護神など、この世(セ)に存在し得ない。
それでも新井監督は「真っすぐにしてもフォークにしても一番良かった。それが結果に繋がらないのがクローザーの厳しいところ」と話し“続投”を明言した。
指揮官の言う「厳しいところ」とは、相手打者の最終回に懸ける並々ならぬ集中力、もっと言えば執念を指す。
お立ち台ではヒーローのひとり、秋広が「翔さんが打席に立つ前に自分に見とけよって言ったんで、正にそれで決めてくれたんでさすがだなと思いました」とエピを明かした。
そのあと中田翔はお立ち台でファンに感謝した。いろいろ経験すればやんちゃなど影を潜め、その言動も深みを増す。
「アキがすごくいいホームランを打ってくれたんで負けられないというふうに思いましたし、最後までみなさんが声援を送ってくれたのですごく背中を押してもらって打席に立てました」
不振を極めていた坂本に塩を送った次の日に、今度は最下位争いも演じていた巨人全体に活力を与えてどうする?
「いやいや、うーん、まあいく度か見ておりますが、いつも興奮ですね、ああいうことが真剣勝負の中であるということは…」
そう、原監督が言うとおり「真剣勝負」には勝者と敗者。光あるところには影がある。中田翔とは今季マツダスタジアムで2度対戦して一邪飛と左翼越えソロ。真っすぐもカーブもフォークも球筋を見られていた。
相手ベンチは敵地での3連敗を取り返そうと正に死に物狂い。この勝負、投げる前から負けていたのかも…
栗林の4敗を含めてこれで23試合11勝12敗となり、3位のまま借金生活逆戻り。11勝13敗の巨人とは0・5差。あすまた栗林に出番があれば、坂本、丸、岡本和、あるいは中田翔ときっと当たるだろう。
どんな逆境からも這い上がる「赤の魂」を胸に抱きしめるこの物語は、そういうエピソードの繰り返し。新井監督はそうやってこの世界で生きてきた。この日の東京ドームは4万人超え。大観衆が見守るマウンドに、打席に立つ限り逃げ場はない。
※この記事内で選手などの呼称は独自のものとなっています。
※「カープダイアリー」の前身は「赤の魂」というタイトルのコラムです。
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