カープダイアリー第8269話「5月の広島で新たなコイの物語始まる」(2023年5月24日)
G7広島サミットが終わり、広島の街には平穏な風景が戻ってきた。米国バイデン大統領がヘリで離着陸した米軍基地のある岩国もそうだ。
JR岩国駅からタクシーでやってくるファンも含めて、大勢の“見物客”で賑わった由宇練習場。強い陽射し、青空の下でのプレーボールと同時に斉藤優汰のプロとしての挑戦が始まった。
ファンの間からは「堂々と投げていましたね!」という声が上がった。アウトを取るたびに拍手もあった。
だが結果はほろ苦デビュー戦。先頭の来田に真っすぐを3球続けて、中越えに運ばれた。いきなり151キロが出たが、「吉田2世」とのパワー対決ではプロの力を見せつけられた。
すかさず「がんばれー!」とファンの声…
しかし続く渡部にも右前打を許すと、二盗を許したあと杉本に適時中前打された。
「ストレートは思い切り投げている感じ、変化球はなかなか取れていませんでしたね」(女性ファン)
そのあとはT-岡田をセカンドライナー、山中、園部は変化球で空振り三振に仕留めた。
「とにかく自分のいいボールをストライクゾーンに投げることを意識して投げました」
「変化球でストライクを捕れない中、ストレートを打たれるケースが多かったので、1球種でもストライクが取れる変化球があると、これからの組み立てが楽になってくると思うので、まずは変化球で安心してストライクが取れるように、これからも継続してやっていきたいと思います」
試合後、テレビカメラに向かってこう話した。おそらくネット裏で見守っていた黒田アドバオザーの言葉を借りたのだろう。
マツダスタジアムでは試合後のお立ち台に九里、龍馬、中村貴浩が上がった。
7回1失点で3勝目を挙げ、前回DeNA戦3発被弾から盛り返した九里は「マツダスタジアムで今年の登板で勝てていなかったので絶対勝ってやると思ってマウンドに上がりました」と頼もしかった。
初回、中日先発・涌井のこの日6球目をライトポール際に運んだ龍馬は「負けることもありますけど、何とか食らいついて全員で毎日勝てるようにやってます」とナインの思いを代弁した。
そして中村貴浩。
5日前の甲子園プロデビューから数えて4度目のスタメンでプロ初タイムリー。しかも通算155勝の涌井との対戦で2ナッシグからボール、ファウルのあとの5球目シンカーを右手のバット操作で巧くレフト前に落とした。
龍馬や坂倉と変わらないバットコントロール。ただモノではないことは、みんな早くから気づいてはいたが、しかしこれほどの技量の持ち主だったとは…
「嬉しい気持ちでいっぱいです」の第1声のあとは打席とお立ち台について「こっちの方が緊張します」と飾らない言葉が続いた。
さらにどんな日々かという質問の答えは「刺激がいっぱいあって、楽しい野球です」だった。漂う大物感…
本拠地デビュー戦で福谷からプロ初安打を放ち、翌日には初打点。このふたつは背番号123のままで実現した。残る当面の目標はプロ1号。それも近々、出そうな気配だ。いったいどんな打者に成長していくか?
その肉体、その力量、そのバットには数多くのエピソードとともにある。
新井監督との出会い、二軍での驚異的な固め打ちと足踏み期間を経てのプロの球への適応、そして野間の離脱…
先送りされるはずだった新たなコイの物語は様々な要因が絡み合い、5月の広島で封切られたことになる。
※この記事内で選手などの呼称は独自のものとなっています。