カープダイアリー第8280話「初夏の訪れとともに黒田アドバイザー見守るマツダスタジアムもより熱く…勝ったのは藤井皓哉…」(2023年6月4日)
広島市内中心部は朝から初夏を告げる祭り「とうかさん」で賑わった。3日連続3万人超えのマツダスタジアムも日曜日が最もヒートアップした3時間37分になった。この日のテレビ中継は広島テレビ。放送ブースの黒田アドバイザーの言葉が回を追うごとに重みを増すのになった。
2対3、1点を追いかける九回の攻撃。先頭の代打中村貴浩はモイネロの前に空振り三振に倒れた。
続いて代打羽月。両軍ベンチが身を乗り出すようにして注視する対戦は1,2球ファウルで追い込まれたあとボール球を挟みながらファウルで粘る、粘る…1球ごとに沸くスタンド…10球目もファウル、11球目もファウル、そして12球目で四球という結果になった。
相手が左腕のモイネロとはいえ、羽月にはチームナンバーワンの足がある。試合の行方はこれで分からなくなった。
「新井監督がある程度勇気をもたらしているというか、声をかけて、いいんだぞと、それくらい…」
一塁に羽月、打席の菊池も追い込まれてファウルを続ける場面で黒田アドバイザーはそうコメントした。羽月の二盗トライも含めて、個々の選手の特徴を最大現に活かす新井流の戦いを賞賛しているようでもあった。
菊池が7球粘ったところでモイネロは一塁に牽制球。すでに球数24。25球目は遊ゴロになって6・4・3併殺打、新井監督のリクエストも実らずゲームセットとなった。
試合後、新井監督は「力の差は感じなかった。ちょっとした球際の場面で相手に優られてしまった」と振り返った。昨季のソフトバンク戦は敵地で0-7.1-11、0-8惨敗。交流戦トータルでも勝率3割そこそこの天敵に対して勝ち越しで終わるチャンスは十分にあった。
それは黒田アドバイザーのこの試合に対する総括からもうかがい知ることができる。
「僕的にはカープとしては負けてしまいましたが、非常にお互いいいゲームというか、何か気持ちが入った、特に九回は最後の1球まで分からないようなゲームをしてもらって、いいゲームだったんじゃないかと思います」
その特別な空気感は初回の攻防からずっと続いた。ソフトバンク先発が2020年オフ、カープを戦力外になった藤井皓哉だったからだ。
独立リーグ経由でNPB“帰還”を果たした昨季は中継ぎとして「投手MVP」(藤本監督)の評価を得て先発に転向した。開幕からローテを守り2019年6月以来となる古巣のマウンドに戻ってきた。
カープ打線はそんな藤井皓哉に敬意を表しつつ、初回から攻めた。二番矢野の中前打と二盗プラス送球エラーでつかんだ一死三塁で三番秋山の際どい当たりがぎりぎりセンター前に弾むタイムリーとなり1点をもぎとった。そう最初からギリギリのプレーの連続。交流戦でも積極走塁、がチームの掲げるテーマであり、相手が甲斐キャノンであってもその方針は変わらない。
試合は1対0のまま六回へ。アンダーソンが被安打ゼロのまま右脚がつって続投できなくなったため栗林の出番となった。
しかし不運な当たりが続いて無死一、三塁にされたあと、近藤、柳田、柳町のクリーンアップに3連打されて3点を失った。確かにここで栗林が本来の投球に徹していれば勝てた試合ではあった。
逆転された直後の攻撃ではまずは藤井皓哉を“攻めた”。秋山、龍馬、坂倉が四球を選んで二番手田浦を引っ張り出すと林の代打上本がショート後方に適時打を落とした。この打球もやはりギリギリ…
さらに代打松山の打球は強い一ゴロになった。ファースト中村晃からのバックホームに滑り込む龍馬、際どいフォースプレーは…アウト…
3人目の代打磯村のバットは折れて投ゴロ。七回の一死一、二塁でもライアンのバットが折れて遊ゴロ併殺打。相手ベンチの藤井皓哉を勝ち投手に、という思いの前に「あと1点」が遠いものになった。
古巣で勝利を手にした右腕は試合後のインタビューで「勝てて良かったです、はい」と話して両チームのファンから拍手を送られた。
カープベンチの面々がその姿から何を思ったか?黒田アドバイザーがコメントした通り、この世界で生きていくために大切なものが凝縮された藤井皓哉の5勝目となった。