「SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜」と清水富美加
あなたは「SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜」という番組を知っているだろうか。
「知っていた」という方も「今知った」という方もいると思うので簡単に説明すると、2015年10月から3か月にわたってテレビ東京の深夜枠で放送された番組で、おぎやはぎとオードリーをメインに芸人や俳優、アイドルをキャストに迎えたコント番組である。
いや正確にはコント番組なのは最初だけで、独立していたコントがいつの間にか繋がり始め、気付いたころには壮大なサスペンスドラマになっているという展開をみせる番組である。
プロデューサー曰く「進撃の巨人」や「魔法少女まどか☆マギカ」のような始めと終わりで展開が全く異なるアニメに着想を得たというこの稀有な番組は2015年12月度ギャラクシー賞月間賞を受賞するなど話題となったが、ネット民の間では、同人作家2人がすさまじい勢いでネット用語を繰り出し、読めないスピードで用語解説テロップが流れるコント「腐った友情」が特に人気となった。
かくいう私もこのコントから番組を知り見始めた訳だが、本稿ではこのコントのメインキャストの1人、清水富美加に着目しつつ番組を振り返りたい。
女優・清水富美加
清水富美加は2008年レプロエンタテインメントからデビュー、女優、モデル、グラビア等で活躍し仮面ライダーフォーゼ、NHK連続テレビ小説「まれ」等に出演するも、2017年「幸福の科学」出家と法名「千眼美子」として系列事務所への移籍を発表するなど話題となった。
同時期に出版した『全部、言っちゃうね。~本名・清水富美加、今日、出家しまする。~』の中で、
「握手会で手がぬるぬるしてるおじさんに気持ち悪い握手のされ方をする」
「水着の仕事って言ったって、おかずですよね」
「2014年の途中までは(給料が)月5万円」
などオタクがショックを受ける…というかオタクも同情する話が書かれているらしい。
しかし、(一時)芸能界引退の理由としてはむしろ、役に入り込みすぎるタイプだったため2世信者としての倫理観との狭間で不調を来すようになってしまったことが大きいように読み取れるらしい(私はこの本を読んでいないのでレビューの受け売りである)。
SICKSのマユキチ先生
さて、SICKSである。
独立したコントが繋がってサスペンスドラマになる、という説明はしたが、具体的な構成を簡単に説明すると、「ガチ恋病」「レビュアー病」など現代社会に蔓延る「病気」に侵されたキャラクターによるコントがオムニバス形式で展開されていたが、話が進むにつれてそれぞれのコントで同じキャストが演じる別人だと思わせていたキャラクターが実は同一人物であり、ナノカレジアウイルスというウイルスのワクチンである「SICKS」の副作用で普段抑えていた感情・欲望があらわになった結果だったことが明かされる。
さらに、SICKSを巡る悪徳研究者と政府の陰謀に対し、正気に戻ったり戻らなかったりもともと正気じゃなかったりするキャラクターたちが立ち向かっていく。
つばめちゃんは処女だ!
同人作家のマユ(清水富美加)とリコ(中島早貴(℃-ute))はBLで世界を目指そうと「インクジェットプリンター×非純正カートリッジ」「振替申込用紙の3枚目×4枚目」といったカップリングの薄い本を描いていた。
しかし、時に思い通りにならない事象を全力で攻撃してしまう「フルボッコ病」が出てしまうのあった。
3話「腐った友情」より
リコ「ドラマ版Devil Looseleafの原作レイプっぷりについて語るしかなくね?てゆうか企画からして絶許。ミリアたんの完璧なヒロインっぷりを惨事の女が演じきれるわけがないと思うんですがそれについては」
マユ「しかもよりによってミリアたん役、中田杏とかいう恵まれたボディフェイスから棒読み連発するアヘアへ学芸会おばさんじゃん」
リコ「中田杏劣化すごくない?なのに事務所のごり押し待ったなしだしどう考えても枕でしょ枕一確でしょ」
6話「腐った友情」より
時村「アイドルなんて楽な職業だよね」
マユ「まぁ職業のうちに入らないけどね ヘラヘラ笑って『お仕事がーお仕事がー』って言ってっけど、あたしに言わせりゃあいつらまだ社会に出てないからね!24、25になって続けてるヤツなんてニートみたいなもんだからね」
「厳しさ知るのはそのぬるま湯抜けてからだよバカ!『大人っぽい曲も歌っていきたい』って大人になった頃に歌ってるおまえの曲なんて誰がきくんだよブス!
『演技にも挑戦していきたい』っておまえの無計画な挑戦に大人を巻き込んでんじゃねーよそんなに演技したいんだったらさっさとAVに堕ちろ、AVに!」
「卒業ってのは、おまえを甘やかしてきた汗臭いおっさんどもが全員手の平返すイベントだからな この先に希望とか満ち溢れてないから今のうちから覚悟しとけバカ 今のうちから貯金しとけバカ」
BD・DVD収録コント「リコの秘密日記」より
リコの秘密日記「このパワージュエリーはヒマラヤの奥地にある霊験あらたかな仏閣に住居を構える神の使いチャット・ワイマール氏が大気中に存在する見えない力・コズミックエナジーを氏自らがひとつひとつ込めて下さった特注品!ワイマール氏の奇跡の左手にはコズミックエナジーを具現化して滅びゆく罪深き種族である我々人類にも慈悲深い施しを与えて頂けるだけの力があるの」
マユ「なに言ってんだこの女マジで頭イカレてんじゃねーかよ!とんでもねぇ宗教に鬼ハマりしてんじゃねーかよ!」
これをどんな気持ちで演じていたのだろうか。
ついでにアイドルたる相方・中島早貴はどんな気持ちで聞いていたのだろうか。
さて、メイキングやインタビュー記事からは、ネット用語が大量に含まれたものすごい量の台詞をすさまじい勢いで繰り出すこのコントの苦労について語られており、特に3話の時期には清水富美加が他の仕事も立て込んでおり、台詞を相当暗記してきていたにも関わらずミスを連発してしまい100テイク以上取り直すという「地獄の3話」になったという。
メイキングで長台詞を考えた脚本家に対し「取り敢えず5万円くらいもらっていいですか」と言った彼女の言葉は冗談か否か。
さて、なんだかんだあってSICKSを巡る陰謀に巻き込まれたリコマユは、
飲むと記憶を失ってしまうことを知りつつもSICKSを飲む。
お互いの記憶を失った2人だったが、SICKSを飲む前から好きなものに正直に
生きてきたことから、ゼロからの出会いでも改めて親友になるのであった。
メイキングでは、1話の頃は2人とも撮影の合間にも一心不乱に台詞の練習をしていたが後半では合間に笑い合えるほど余裕と親密度が育まれたことが見て取れる。
キャラクター同様にキャスト2人の関係も深化していったのであれば嬉しい。
みんながみんな、何かの病気
番組に登場した「現代病」は現代を生きる我々にとって少なからず身に覚えがあるものだと思う。
ある人にとってはその処方箋の一つが宗教なのかもしれない。
また、劇中で終身名誉処女つばめちゃんが言う
「完全に治っちゃうよりSICKSの副作用ある(本性をさらけ出した)ほうが楽しそう」
という台詞のように、ネットなり趣味なりで本性をさらけ出すことも対策なのかもしれない。
私は清水富美加ファンでもなければ幸福の科学信者でもない。
しかし、この番組に魅せられた一人として、彼女のこれからが楽しく幸せなものであることを願わずにいられないのだ。
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