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晩冬、本が読めることを思い出す。

平素よりお世話になっております。高島です。

有毒生物や人体に悪影響を及ぼす農作物。
そのどれらも天敵から身を守るべく、身体を奇抜な色に変えたり、グロテスクな見た目に変容させて種を保存してきました。

人類はそんな生物たちと共存すべく、その発せられるカラーやシェイプが網膜に映った刹那、アラートを鳴らし危機を遠ざけた。
こんな背景があったからこそ、我々人類はここまで進化してこられたのです。

人は見た目で判断する、いやむしろ見た目で判断せねば生きてはこれなかった。

僕は梅を干したヤツが苦手だ。その名を呼ぶのも憚られる。
あの毒々しい液体、けわしい見た目、人間の食べる物とは到底思えない。

しかし人によってはこれが相当美味らしい。近年では和紙で個包装されたブランド梅の干したヤツもあるらしく、古来からの日本人文化への浸透レベルは留まることを知らない。

そうか、人によっては僕こそが梅を干したヤツなのかもしれない。
あの毒々しい両腕、けわしい目つき、人間の正しい姿とは到底思えない。

しかし僕もまた人を見た目で判断している。高島をのぞく時、高島もまたこちらをのぞいているのだ
隣は大人しそうな人だからやめておこう、と思いつつもつい電車内で開いてしまうサイコホラーの映画。はからずしも猟奇的なシーンが画面いっぱいに映った日にはもう気まずくて気まずくて仕方ない。

このように電車移動中、ツアー中の機材車、リハから本番までの空き時間など、隙あらばスマートフォン・タブレット端末を片手に映画の世界に浸っています。

錆び付いた自分の感性を解凍さすのが主たる目的で、荒療治的に激烈ホラー作品に手を出したのがおよそ一年前。
作戦が功を奏したか、過去に買い集めてきた書籍等にも目が向くようになりました。

大昔に買ったAmazon Kindle Paperwhiteまでもが物置から発見され、なかには大量の書籍のダウンロードデータ。これ幸い、と手荷物に追加しほっこりと現実世界から逃げ続けている次第です。

備忘録も含め、つらつらと書いていきます。

砂の女/安部公房

実父はかなりの読書家で、僕が青年期に暮らしてた自室は父の書庫も兼ねていた。司馬遼太郎、池波正太郎、乃南アサなど、小ぶりな本棚は時代劇がメインを張っており、次点は昭和が舞台のサスペンス。
その楷書体で書かれた表紙を見上げては「なんか日本語で書かれた本はイケてないなぁ」という子供心をブチ壊したのがこの一冊。

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。

https://www.amazon.co.jp/砂の女-新潮文庫-安部-公房/dp/410112115X

1962年に書かれた小説というフォーマットを隅々まで活用した現代文学作品。一字一字、選び抜かれた言葉の数々で蒸し暑い夏の砂丘の情景がありありと浮かびます。

八月のある日、男が一人、行方不明になった。休暇を利用して、汽車で半日ばかり海岸に出掛けたきり、消息をたってしまったのだ。捜索願も、新聞広告も、すべて無駄におわった。

https://read-beginning.com/read/砂の女

こんな冒頭で始まり、砂丘を舞台に展開されるグロテスクな人間模様。
「もう、これ映画やん!小説ってポータブル映画館なんや!」と気付かされた一冊。これを皮切りに安部公房にドハマり、数々読んできましたが読後の絶望感は今作がナンバーワン。

ナイフ/重松清

「タイトルが“ナイフ”、カッケェ…!」と軽い気持ちで読んで大後悔した作品。いじめをテーマにした短編集、五話収録されておりそのどれも重くて痛い。いわゆる「普通の人たち」が社会の現実で苦悩しながら生活する様が描かれています。

「悪いんだけど、死んでくれない?」ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。僕たちの世界は、かくも脆いものなのか!ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。坪田譲治文学賞受賞作。

https://www.amazon.co.jp/ナイフ-新潮文庫-重松-清/dp/4101349134

学校でも職場でも、どんな世界にも必ず暴力が存在していて、それを子供の目線、大人の目線でどっしり描かれています。対人関係のトラウマがある、またはそれを乗り越えられていない方にはなかなかおすすめできない内容。

ある話のなかで中年のお父さんがいわゆる“オヤジ狩り”に会うんですが、この枯れた普通のお父さんのポケットのなかにはナイフが入っている。
突然、いわれもない暴力に晒されながらも「俺はナイフを持ってる、やろうと思えばいつだって…」と葛藤するあたりは、もうやるせない。何度も読み進めるのが辛くなりますが、最後は心が強くなる良い小説でした。

アルジャーノンに花束を/ダニエル・キイス

過去に何度も映像化されており、そのどれも拝見してますがやっぱり書籍がナンバーワン。個人的“ポータブル映画館”作品。

32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?全世界が涙した不朽の名作。

https://www.amazon.co.jp/アルジャーノンに花束を〔新版〕-ハヤカワ文庫NV-ダニエル・キイス/dp/4150413339

砂の女同様に、小説というフォーマットをフル活用した作品。こんな冒頭から始まります。

ストラウスはかせわぼくが考えたことや思いだしたことやこれからぼくのまわりでおこたことわぜんぶかいておきなさいといった。なぜだかわからないけれどもそれわ大せつなことでそれでぼくが使えるかどうかわかるのだそうです。ぼくを使てくれればいいとおもうなぜかというとキニアン先生があのひとたちわぼくのあたまをよくしてくれるかもしれないといたからです。

https://read-beginning.com/read/アルジャーノンに花束を

怪文章かと思ったでしょう、僕も最初はそう思いました。読みにくくて読みにくくて仕方ない。しかしこの歯痒さこそが主人公の慈愛の心を表していて、だんだんと読みやすくなってくるにつれて訪れてくる不安感。
人間とはなんぞや、を眼前に叩きつけられるお話しです。

昨今のテック界隈ではAI・人工知能の話題で溢れ返っていますが、これまさに今作に置き換えて考えられますよね。
AmazonのランキングではSFジャンルで二位の獲得しており、もしこの作品がSFだというならこんな作品ばかりがいい。

宇宙のあいさつ/星新一

「気が付いたら家にあって、気が付いたら家からなくなってる」で有名なショートショートの神様、星新一。案の定、僕の自宅からも消えていており、あの話読みてー、どれだっけ、と探しても膨大な作品数ゆえになかなか見つからない。
諦めかけたその時、そもそも電子書籍で買ったやん、と思い出して無事にサルベージ。

植民地獲得のために地球から派遣されてきた宇宙船は、うってつけの惑星を占領することができた。温暖な気候、豊富な食料、従順な住民たち、200歳の平均寿命――、疲れた地球人のための保養地として申し分なかった。しかし、喜びも束の間、おそるべき事実が……。

https://www.amazon.co.jp/宇宙のあいさつ-新潮文庫-星-新一/dp/4101098107

タイトル通り宇宙を題材とした短編集作品。ショートショートとは短編種よりも短い作品のことを指します。
星新一らしい不思議な話、風刺の効いた話が合計35話収録されていますが、僕がずっと探してて読みたかったのは「宇宙の男たち」と「初雪」。

地球へ向かう宇宙船の船内、二人の男性が搭乗しています。
幼い頃から惑星間を渡り歩き、何十年と宇宙空間で暮らしてきた初老の男は自身が生まれ落ちた地球への帰還を長年の夢としていた。
地球はもう目の前。若い乗務員に「ワシもオマエぐらいの年頃は―」と軽口を叩き、談笑する船内に突如として強い衝撃が起こる。

鳴り続けるアラームは隕石の衝突によりエンジンが故障したことを意味していた。船外に出て大急ぎで調べてみるもこの規模はとても我々二人で対処できるレベルをゆうに超えていた。

動かないエンジン、星の周回軌道により少しずつ地球から離れていく。
宇宙船が引っ張られる先は星もない、惑星の姿もない、真っ暗で静かな、ただの闇。

たかだか我々二人のために多額の費用をかけて地球からの救助が来るのか?
否、長年宇宙で働いた経験からもそう悟った男。

冷凍睡眠に入っていればいつか別の惑星に辿り着くかもしれない。もしくは数年、いや数十年後にこの広い宇宙空間で誰かと鉢合わせるかもしれない。酒も飲みつくした、これしか方法がない、と船内の二人は結論付く。

「短い間だったがなんだかワシにはオマエが息子のように思えてきたわい」
「ふふふ、冗談はやめましょう。
孤児の僕は親というものを知らないですし、あなたも息子というのを知らないでしょう。」
ライトを消し、暗くなる船内。

「さようなら。」


数ページで一切の無駄なく、平穏や希望が目の前から消えていく。この喪失感は日々我々が感じている安心感が決して当たり前ではないのよな、と改めて感じさせてくれます。

馬を盗みに /エクス・リブリス

いつもの書店で見かけないコーナーが開設されており、見つけたハードカバー。
白水社という思想・哲学、社会問題を中心として扱うと堅めの出版社からリリースされたノルウェーの文学作品。

「ぼくら、馬を盗みに行くんだ」1948年、スウェーデンとの国境に近いノルウェーの小さな村で、父さんと過ごした15歳の夏…そこから50年余りを経た1999年の冬、人里離れた湖畔の家で一人暮らす「わたし」の脳裏に、消えた父との思い出が鮮明によみがえる。ノルウェーを代表する作家による、みずみずしくも苦い青春―老境の物語。40以上の言語に翻訳された世界的ベストセラー。

https://www.amazon.co.jp/馬を盗みに-エクス・リブリス-ペール-ペッテルソン/dp/4560090130

湖畔の小さな家で愛犬と暮らす一人の老人のもとに、ある人物が現れる。「馬を盗みに行こう」という合言葉と少年時代のある事件が蘇り、老人は本当のことを知ることになる、そんなお話し。
翻訳も素晴らしく、ノルウェーの美しい自然であったり、冷たさであったり、細やかな描写が描かれていますが最終的には生々しい人間の物語。不思議な読後感に浸れます。

ピックアップしていくと、ホラーも小説も一環して「絶望」が自分のテーマになっているようです。
当たり前の日常が崩壊していく様、そしてそれを救う手立てはなく、現実を受け入れていく人間の荘厳さ、美しさ。勉強になります。

ワケのわかんない怖い映像ばっか観てる場合じゃないですよ、ホント。

以上になります。
それでは引き続きよろしくお願いいたします。

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