上質なヨガ修練の構築方法/パンチャコーシャ解説Vol.2
パンチャコーシャ解説Vol.1/ヨガはリアルなRPG と題した第1回目の前回では、パンチャコーシャに関する概要と、それはヨギが本当の自分自身を探し出すための自己探究の際に不可欠となる宝の地図である。という私の説についての内容をお伝えし、その旅とは Yoga RPG(ヨガロールプレイングゲーム)のようなものであり、その目的、方向、行程、注意事項などについてもお知らせさせて頂いたのではあるが、
今回は五層を成している内面世界のダンジョンであるパンチャコーシャを、どのように攻略してゆくことが効率的なのか?
という観点をメインに話を展開していこうと考えているのである。
肉体人生は有限なり
ヨギが自己探究をおこなう際の範疇である、自身の身体内面世界/クシェートラ(フィールド)の範囲は実に広大である。
この物質宇宙とは無限では無く、有限で在り、
故に、その中の物質である時間も空間も有限となる。
そのことから、私たちの肉体人生とは有限なのである。
私たちの寿命は実のところ、そんなには長くは無いのである。
そのため、限りある肉体次元において、できるだけ効率的に自己探究を行いたいという見解は妥当なものとなる。
ヨガの範囲はアサナだけではない
さて、わたしのほろ苦い想いで話でもしておこう。
わたしは25歳の時にヨガに出会い、そこから現在の50過ぎまでヨガを行じて来ているのであるが、齢30過ぎにはインド人ヨギもビックリの、なんでもできるアサナマスターであった。
それもそのはず、社会の中で働きながらも、空いた時間と情熱は、すべてアサナに注ぎ込むその修練とはタパス(絶え間のない燃えるような修練)そのものであり、しかしながらその心中とはラジャス(激性、激質)で、常にメラメラしていたのである。
毎年のように渡印し、わたしの師のもとでヨガ修練を行なっていたのであるが、当時はよく叱咤されたものであり、その内容とは、わたしのヨガ修練に対する姿勢であった。
師:『ヨガのクシェートラ(フィールド)は、アサナだけではない。今のお前がそこを深く堀っても、もう意味はない。他を掘れ! サーカスのアサナマスターではなく、ヨガマスターになれ!』
と.. わたしはそのように師より、日々ひつこく言われ、半ば半ギレ状態で、投げるように師から渡されたヤマニヤマについて書かれた本を私は読むことにしたのである。
それはスワミーシヴァナンダ師によって著された、粗末な紙に、いびつな挿絵が挿し込まれた、インドの子供達に書かれた英語版の児童図書であった。
そこには..
“I know you like asana. But, the field of yoga is not only the area of asana.”
“If you want treasures you should dig other areas as well.”
『君がアサナ好きなことは知っている。しかし、ヨガのフィールドはアサナだけではない。
もし、宝が欲しいのであれば、他のエリアも掘ってみるが良い..』
と、いうように、師がわたしに伝えた苦言と、まったく同じコトバが綴られていたのである。
そのことは、Yoga RPG の中にある、アサナ向上を目的としたミニゲームに私がハマり過ぎ。ということであり、
これ以上、お宝が埋まっていない場所を掘る時間はない。ということに他ならず..
この様な過去を持つわたしが、聖なる光の勇者であるあなたの限られた時間の用い方として、わたしの過去の経験からの学びを活かした形で推奨できるものとしては..
それは、聖パタンジャリの規定した、ヨギの八段階の修練法であるアシュタンガを、パンチャコーシャとマッシュアップさせたものである。
実のところアシュタンガ、それはパンチャコーシャの全五層を浄化する、効率的でプラクティカルな、お掃除方法なのである。
以下より、パンチャコーシャ(五層)と自己探究のためのアシュタンガ(八支則)の関連性についての考察を行っていくものとする。
それはあなたにとって、自己探究のヨガゲームにおける効率的なコマの進め方を思慮する上においての、重要な視点を得られる好機となることであろう。
ではまずは前回、お伝えさせていただいたパンチャコーシャの概要を以下に示しておこう。
パンチャコーシャ(人類五層論)
第五階層 : アナマヤコーシャ
(Annamaya Kosha)肉体(物質)の鞘。
この鞘は最も外側にある表層部であり、物質的な身体を表している。身体が五感を介して物質的な活動を行うことで、個々の主体(真なる存在)が物質界と関わり合う能力を示している。
第四階層 : プラーナマヤコーシャ
(Pranamaya Kosha)プラナ(生命力 / エネルギー)の鞘。
この鞘は、生命力やプラナ(エネルギー)を表しており、身体における呼吸やプラナの流れを通じて、個々の主体が現象世界において生命力を得て活動する能力を示している。
第三階層 : マノマヤコーシャ
(Manomaya Kosha)チッタ(思考や感情)の鞘。
この鞘は、心や思考を表しており、それらの働きを通じて、個々の主体が現象世界を経験し、情報処理や内面の感情を宿し表す能力を示している。
第二階層 : ヴィジュニャーナマヤコーシャ
(Vijnanamaya Kosha)知識の鞘。
この鞘は、潜在意識の領域をも含んだ知識を表しており、知性や洞察力、直感、判断力、自己認識、知覚などを通じて自己探求を深め行くための知識を獲得し、最終的には高次の聖なる光の知覚や知識獲得を目指すのである。それは、より高い次元で自身を理解する能力であり、そのことは、最深層に至るための扉のキーであることを示唆している。
第一階層 : アーナンダマヤコーシャ
(Anandamaya Kosha)至福(主体)の鞘。
この鞘は最も内側にあり、一過性でしか無い物質的な喜びや快楽に私たちが惑わされることなく、永遠の純粋な幸福の獲得を目指すことを示唆している。そのことは、個々の存在である主体そのものこそが、本質的に至福の源であるという真理を示しており、それは自己探求の道においてのヨギのゴールである。
これらの5つの鞘は、私たち個々の人類の存在が持つ様々な層を表しており、それは、物質的な側面から高次の本質までを包括しているのである。
パンチャコーシャにおける相互作用のルール
古典ヨガやインド哲学においては、パンチャコーシャは規則性を有しており、これらの5つの鞘は相互交渉、相互作用、相互依存しているということ。
そして、最も特質的なルールとしては、『隣り合う各層は特に深い相互関係性を確立している』ということが挙げられる。
例えば、第二層であるプラナマヤコーシャのエリアに何かを行った場合は、当然ながらその第二層に直接影響を及ぼすものであるが、しかし、それ以外にも隣り合わせた、第一層と第三層に対しても影響を及ぼすということになる。
何を隠そう、古典ヨガのバイブルであるヨガスートラの中で、聖パタンシャリが規定したアシュタンガの各八つのヨガ修練とは、パンチャコーシャの各層の浄化法であり、いわば実質的な掃除方法である。
上記の表のように、パンチャコーシャのエネルギー(プラナ)の鞘(第二層)用の、アシュタンガにおけるヨガ修練であるプラナヤマ(呼吸法)を行った場合、それは、エネルギーの層の掃除(浄化)であり、当然ながらその第二層に直接影響を及ぼし、清掃し浄化するものであるが、そのことと同時にその行いは、隣り合わせとなる層にも多大な影響を及ぼすことから、肉体の鞘(第一層)と、チッタの鞘/思考と感情(第三層)にも影響を及ぼすこととなる。
またその際、もし、プラナヤマ(掃除、浄化)が成功した場合は、同時に心と思考(第三層)、肉体(第一層)の掃除が行われ『浄化』されるのだが、その反対に失敗した場合には、それらの三つの層を『汚す』ことになるのである。
アサナでパンチャコーシャの、どこかの層を汚してはいないか?
と、あなた自身で考えてみることも良いであろう。
さて、パタンシャリチルドレンである私たちヨギは、これらのことついて深く考え、自身のヨガ修練に活かすことこそが、内面世界のダンジョン攻略のために重要となるのである。
では、次章では、アシュタンガの8ステップの其々が、パンチャコーシャにおける5つの層において、一体、どの層に対応し、浄化 or 不浄化に関連、リンクしているのか?ということを考察してみようではないか。
アシュタンガの8つのヨガ修練とパンチャコーシャのリンク
さて、一般的な RPG ゲームを全面コンプリートするためには、課題を終わらせることが重要である。
アイテムをゲットする。
経験値を稼ぎレベル上げる。
面クリのために有益な情報を手にいれる。
中ボスを倒す。
といったそれら全ては、目的であるゲームクリアの為の手段である。
そのことは、Yoga RPG においても同じことであり、
アサナを取る。
アヒンサ(非暴力)を遂行する。
面クリのために有益な情報を手にいれる。
知識レベルを上げる。
中ボスを成仏させる。
瞑想する。
といったすべての項目とは、目的では無く、手段でしかない。
その目的とは主体を見つけ出しゲームを終わらせることである。
すなわち、一箇所に留まることとは、時間のロスであり、
それは、アサナの経験値だけを幾ら稼いだとしても、ゲームが終わることはない。ということを示唆している。
パンチャコーシャのクシェートラにおいて、効率の良い各層の浄化方法とは、一体どのようなものであろうか?
上記の表をご覧いただきたい。アサナを行った場合、浄化を行えるメインの階層は肉体の層である。
隣り合わせた階層に影響を及ぼす。というパンチャコーシャのルールに従うならば、アサナで掃除が行われた階層とは、メインで作用を及ぼす第五層の肉体鞘と、その隣の第四層のプラナ鞘の、合計二階層となる。
一方、ヤマのサッティア(真実語)を行った場合、メインで作用を及ぼす層である第二層の知識鞘と第三層の思考&感情鞘、そしてそれらの両隣りの層にも影響を及ぼすことから、第四層と第一層を含めた、合計四階層が浄化されるため、
アサナを行ったケースと比較して、サッティアを行った方が、効率的なプラクティスになるといえるのである。
また、このゲームの本質は主体探しゲームであり、その最終目標とは最下層である第一層の主体の鞘に入ることである。
しかし、その主体の居場所と、アサナで浄化できる肉体の層との位置関係は対極であることから、アサナだけを行っていたのでは、ゲームの進行は遅くなるのである。
効率的に内面世界のダンジョンを攻略していくためには、自身の状況に応じ、
足りていない箇所、足りている箇所。
不浄な箇所、浄化されている箇所。
未所有の必要不可欠な知識、所有しているが未使用の知識。
というような、考慮事項を見つけ出し、意図的で積極的に狙った階層に作用を及ぼすように、修練していくことが必要となるなのである。
そのことは、パンチャコーシャの五層に対して、アシュタンガの8つのヨガ修練を、バランス良く行っていくことこそが、効率的にゲームを進めることに繋がるということを示唆している。
ここで私が伝えた、『バランス良く行う』という言葉の意味とは、アシュタンガの8つの修練を順に行なっていくことでは無く、『浄化が出来ていない層に対して、効果を与えられる修練を的確に選出し、バランスよく組み合わせ効率化を計ること』であり、またそのことは『個人個人は、層の浄化具合が異なるため、そのことも加味してオーダーを組むのですよ』ということであり、それは本当の意味でのシーケンスを組むということなのである。
また、ここでの例では、アサナは肉体鞘のみの浄化を担っているのだが、
実のところ、複合的な効果を持たせてアサナを行うこともできるのである。
それは、アサナを行いながら、肉体層だけではなく、プラナ層、チッタ層、知性層、しいては主体層に働きかけることもできる。というように、同時にそれら全ての階層に対して影響を及ぼし、浄化していくような練習方法のことを指している。それらは..
アサナの枠内でのプラナヤマであったり、
アサナの枠内での瞑想である。
その方法の幾つかの例に関しては、以下の私のアサナロジーで紹介しているので、目を通してみることも良いであろう。
関連記事 : アサナロジー第2階層/プラナを纏わせたアサナ
関連記事 : アサナロジー第3階層/自己探究の道上のアサナ
そして、それは、アシュタンガの8つのヨガ修練に関する『練習の質』に関わる問題であり、行う修練そのものに複合的な意味を持たせた上質の修練を実践することも、考慮事項に入れなければならないことを意味しているのである。
熟練度を上げるために、量よりその質が問われ、
熟練度が上がるにつれ、量よりその質が問われるのである。
実際、現在においての私のヨガ修練をチャートで表したならば、アシュタンガの枠内のヨガ修練の各項目のほとんどは、パンチャコーシャの一層から五層まで、すべての階層を掃除できるように各修練は、長年の練習と絶え間無き経典の学習に基づき、様々なアングルから研究され改良されており、ブラッシュアップ済みである。以下にその私個人のチャートの一部分として3項目のヨガ修練を挙げておこう。
また、あなたご自身でチャート表を作成された際に、おそらく気が付かれるであろう重大事項とは、
ヤマニヤマの凄さである。
ヨガ修練として、非常に上質なものであり、パンチャコーシャの肉体層以外のあらゆる層を包括して掃除浄化してくれるものであり、それは、シャウチャ(清浄化)そのものである。
またそのことは、アサナにおいてヤマニヤマの修練をどの様にプリントするか?
という宿題をあなたに示唆しているのである。
そのことから、あなたがもし、効率的なヨガ練習を望むのであれば、前出の表のように、アシュタンガの8つの修練を、パンチャコーシャの5つの鞘に対応させたチャート表を、あなた用に私がこの文章の文末に作成しておいたので、そこに書き込み、あなた自身のヨガ練習の指南書を作成してみてることをオススメするのである。
聖パタンジャリが規定したアシュタンガ(八支則)
ヤマ(5つの禁戒)
ニヤマ(5つのおすすめ)
アサナ(ポスチャー)
プラナヤマ(プラナを扱う)
プラティヤハラ(感覚統制)
ダラナ (集中)
ディヤナ(瞑想)
サマディ(ワンネス)
チャート作成方法
チャート作成の際の行程に関しては以下を参照。
あなたにとってのアシュタンガの8つのヨガ修練の一つ一つが、パンチャコーシャの5つの層において、どの階層の浄化に関与しているのか?ということを分析するためのチャート表を、本文の文末より手にいれる。
各ヨガ修練ごとに◎や◯を表に書き込んでいく(メインで影響を与えている層には◎。その両隣の層には◯を記入)
分析されたチャートから、一つのヨガ修練で複数の階層を同時に浄化するためには、どのようにその修練の内容を改善しなくてはならないのか?ということについて様々なアングルから考察し、改良を試みるのである。改善後はチャートに更なる◯や◎を書き加え、その改善案の詳細をチャートの考慮事項欄に記入する。
出来上がったチャートはあなたのヨガ修練のガイドラインであり、そのチャートに従いヨガの各修練を、自身のヨガ練習に取り入れ実践をおこなっていく。
これらの考慮事項を書き出すことにより、分析、考察を通して、あなたのヨガ修練は秩序立てられ、効率的で効果的な、量より質のヨガプラクティスへと最適化されるのである。
知性のメソッド、ヴァチク・クリア
このように、現象や思考、心の想いを書き出すこととは、
形なきものに、形を与え、
目に見えないものを、見える様にする。
ということに他ならず。
その種明かしとは..
形なきものに言葉や記号を与え、形にし、
目に見えないものに言葉やシンボルを与え、可視化するという、
無秩序に秩序を与える。知的プロセスであり、
それは現象の結晶化メソッドである。
そのことは、思考や感情、現象などが、よく結晶化されている時のみ、思慮活動に取り込むことができるのであり。
もし、十分にそれらが結晶化されていない場合には、その思考を核として、ものごとを扱ったり、整理整頓し規律立てたり、配置したり、構築することは不可能である。
また、それらの結晶化の行程とは、瞑想活動や様々なヨガ修練に不可欠な行いであり、今私が書いているこの文章作成時にも、同じく必要不可欠なことなのである。
このような、言論統制方法を用いることにより、私たちの内面世界の現象である、思考や感情といった様々な無形の数々は、結晶化というプロセスを通して扱われ、その行く先々には、更なる高次の知識である✴︎ジュニャーニャや、✴︎ヴィーヴェカといった聖なる叡智をも結晶化し取り扱うことができるようになるのである。(✴︎注 : パンチャコーシャ解説Vol.1参照)
このことを、古典ヨガの枠組みにおいて、ヴァチク・クリア/ “Vachik kriya” と呼ぶ。
それは、『言論行為についての規律』であり、このような知的な修練方法でもあり、
そのソースとは、薄っぺらい知識の寄せ集めの自己啓発プログラムなどではなく、インド聖典ヴェーダの哲学部門を担う、ウパニシャッドの研究機関である六派哲学の一派・ヴァイシェーシカ学派を源とす。
古よりヨギはこのようにして感知できない分野や、感知できるが形のないものを扱ってきたのだ。
肉体を扱い、プラナを扱い、思考を扱い、感情を扱い、霊魂を扱い、叡智を扱い、己の魂をも扱う、
ヨギとは聖なる光の勇者なのである。
そしてそれらのことは、現代ヨガが取り扱いを忘れた古典ヨガの本質である。
『ヨガは実践50%、理論50%で行うべきである』
と、このように常日頃より、わたしは自分の弟子達や生徒にお伝えしているのであるが、私がこのヨガ考察ブログで言及してきている数々の事柄とは、
『ヨガの実践を相互補完するための理論である』
それらは、各自の自己探究を深めゆくための『聖なる光の叡智』であることから、
そのことは、サンキャであり、ジュニャーナであり、スワディヤーヤであり、サットサンガなのである。
Om
坂東イッキ
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