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書籍レビュー『「毒と薬」のことが一冊でまるごとわかる』齋藤勝裕(2022)誰にとっても身近な毒と薬について幅広く学べる


誰にとっても身近な
毒と薬について幅広く学べる

たまたま書店で見かけて
思わず飛びついてしまった本です。

「毒」と「薬」について、
わかりやすくまとめられています。

本書の構成は、
以下のようになっています。

第1章 毒と薬はどう違うのか?
第2章 毒か薬か、それが問題だ!
第3章 毒は如何にして人を殺すのか?
第4章 植物・菌類のもつ毒性と薬性
第5章 動物のもつ毒性と薬性
第6章 化学物質のもつ毒性と薬性
第7章 麻薬・覚せい剤の毒性とは
     どのようなものか
第8章 天然物から生まれた医薬品
第9章 化学合成薬は人為的に
      作られた医薬品
第10章 ヒトを救う
    「未来の医薬品」の候補たち

どちらかというと、
毒の話の文量が多めでした。
(感覚的には7~8割が毒の話)

毒や薬の歴史から、
われわれの身近にあるものまで、
幅広く網羅されています。

毒と薬の違いとは

多くの方にとって
興味深いのは、
「毒」と「薬」の
違いではないでしょうか。

そのことについては、
第1章で詳しく触れられています。

簡単にいうと、
毒か薬かは、さじ加減で
決まるそうです。

本書にも書かれていますが、
ギリシアの格言に
「量が毒を成す」
という言葉があります。

たくさん摂取すれば、
なんでも毒になってしまうのです。

例えば、水は人間の命を保つうえで、
欠かせないものですが、
短時間に大量摂取すると、
命を落としてしまいます。

(血中のナトリウム濃度が低下し、
 最悪の場合、死にいたる)

ですが、水を「毒」とは
言いませんよね。

なので、この本では
このように定義されています。

毒物とは「少量」で人の命を縮めるもの

「経口致死量」というものがあって、
これは成人がその量を摂取した場合に、
死ぬ量のことを指すそうです。

人に対する経口致死量(1kgあたり)
15gより多量 無毒
5~15g 僅少
0.5~5g 比較的強力
50~500mg 非常に強力
5~50mg 猛毒
5mgより少量 超猛毒

本書 26ページ

法律的には、
致死量2g程度のものが「毒物」、
2~20g程度のものが「劇物」
という扱いになります。

薬に対しても、
同じような考え方があり、

どれだけの量を摂取して、
どれだけの人に対して
効果があったか、

あるいは副作用によって、
命を落としてしまったか、

というような統計が
とられるそうです。
(副作用のない医薬品はない)

「毒」と一口に言っても
いろいろある

毒にもいろいろと種類があって、
本書ではそれらの違いも
わかりやすく解説されていて、
興味深かったです。

例えば、青酸カリによる
「呼吸毒」は、
青酸カリが胃酸に反応した結果、

体内で生じた青酸ガスが
原因で人命を奪います。

動物の肺では、細胞呼吸が
繰り返されて、
体内に酸素が供給されていますが、

青酸ガスによって、
青酸イオンが発生し、
これが血中のヘモグロビンと
結合してしまうため、

ヘモグロビンが
酸素と結合できなくなって
しまうんですね。

毒殺のイメージとしては、
肺が麻痺して呼吸が
できなくなるような

想像をしてしまいがちですが、
そうではなかったのです。

フグの「神経毒」は、
神経細胞に作用します。

人間の体の中には、
無数の神経細胞があり、
これらがうまく
伝達することによって、

さまざまな運動ができるわけですが、

フグ毒のテトロドトキシンは、
この伝達を阻害するため、
神経伝達ができなくなり、
心臓も動かなくなってしまう、

という恐ろしい毒です。

毒キノコの毒も「神経毒」で、
やはり、神経細胞に作用して、
さまざまな異常をきたします。

この他にも毒には、
サリンの「神経毒」、
重金属の毒、
放射線といったものもあり、

それぞれについても、
非常にわかりやすく
解説されています。

そして、もっともおもしろいのは、
中にはこういった毒の中に、
逆に薬に応用されたものも、
多くあるという話ですね。

薬には必ず副作用がありますから、
使い方を間違えると、
毒にもなります。

こういった
「毒」と「薬」の話は、
誰にとっても身近な話でありながら、

意外と知らない話が多く、
とてもためになる本でした。


【書籍情報】
発行年:2022年
著者:齋藤勝裕
出版社:ベレ出版

【著者について】
1945年、新潟県生まれ。
名古屋工業大学名誉教授。
理学博士。

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