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書籍レビュー『心理的安全性のつくりかた』石井遼介(2020)健全な議論のために大事なこと

心理的安全性とは

’99年にハーバード大学の
エイミー・C・エドモンドソン教授が
「チームの心理的安全性」
という概念を論文で発表しました。

これまでに、
8000回以上引用された論文です。
(論文はどれだけ引用されたかによって、
価値が決まる)

この論文で教授は、
チームの心理的安全性を
このように定義しています。

「チームの中で対人関係における
リスクをとっても大丈夫だ、
というチームメンバーに
共有される信念のこと」

英語では「psychologiac safety」、
日本語では「心理的安全性」と訳されました。

この言葉は、日本語だと
「ぬるま湯」のようなイメージが
強いかもしれません。

「波風が立たないように」
「空気を読んで」
「なあなあでいこう」
というような感じでしょうか。

しかし、本書でも
「心理的安全性」のワードから
連想されるイメージを否定しています。

前述したような、
「リスクをとっても大丈夫」
という環境を整備したうえで、
チームのメンバー同士が、
率直な意見を言い合い、
さらによい仕事をできるようにするのが、
心理的安全性の本来の意義なのです。

日本流アレンジでわかりやすく解説

心理的安全性については、
このコンセプトの生みの親である
エドモンドソン教授の書籍も
日本語に翻訳されています。

しかし、著者によると、
その内容には一部、
日本の現状にそぐわない内容も
含まれているそうです。

本書では、その点も考慮したうえで、
日本の実態に合わせたアレンジを加え、
わかりやすく解説しています。

本書の章立ては、全5章です。

その概要は、

第1章 チームの心理的安全性
第2章 リーダーシップとしての
     心理的柔軟性
第3章 行動分析でつくる
     心理的安全性
第4章 言葉で高める心理的安全性
第5章 心理的安全性
     導入アイデア集

第1章では、心理的安全性について、
何が重要なものか、
そもそもチームとはなんぞや、
ということが述べられています。

第2章では、
すべてのリーダーが持つべき、
心の柔軟性について。

第3章では、
「きっかけ→行動→みかえり」
といったフレームワークから、
いかにして私たちの行動を
変化させていくかについて。

第4章では、心理的安全性を保つうえで、
重要な「言葉」について説かれています。

第5章は、
1~4章までの内容をふまえ、
実際に組織で実践されている
心理的安全性導入の
実例の紹介です。

「人」として対等な人間関係を築く

わかりやすく言うと、
「心理的安全性」とは、
誰もがものを言いやすくすることです。

なぜ、それが重要なのかというと、
現代の社会は、
正解が「これ」と一つに絞れない、
予測不能な時代だからです。

昔の日本は、ものがなく、
ものやサービスを提供すれば、
確実に稼げる時代でした。

そういう時代は、
上の人が言うことや
成功例をなぞるだけでも、
生きのびることができたのです。

しかし、今の世の中はどうでしょうか。

上の人たちが、
それほど自信を持って、
考えを言っているとも思えません。

過去の成功体験が
通用しなくなったからです。

その変化は今も刻々と進んでいます。

世の中が変化し続けている時代に重要なのは、
やはり、組織の中に多様な観点があり、
引き出しがたくさんあることではないでしょうか。

異なる複数の意見があれば、
それらを伝え合うことで、
さらに新しい発想も
生まれるかもしれません。

健全なディスカッションをすることによって、
正解に近づく確率は、
確実に高まります。

しかし、現状はどうでしょうか。

「みんなと違う」ことに
潔癖症気味の日本では、多くの場合、
右にならえで、人と違う意見が言えません。

頑張って言ってみたところで、
少数派の意見は、批判されるか、
無視されるのが常です。

それが一度ならず、何度も続くと、
やがて、少数派の人たちは、
「自分が何を言っても意味がない」
と口をつぐむようになるでしょう。

これは心理的安全性とは、
真逆の現象です。

アクションを起こした見返りが、
罰に等しい場合、
人間はアクションを起こすのを
ためらうように変化します。

ミスの報告を受けて、
頭ごなしに怒鳴りつける行為も同じです。

アクションを起こすと、
嫌なことが待っているので、
報告をしないようになります。

そして、取り返しがつかないほどの
状況になってから、
上司はそのミスを知ることになるでしょう。

こんなことを繰り返していれば、
組織は発展するどころか、
現状維持も難しいですよね。

ベテラン、中堅、新人が、
対等な立場に立って、
意見を言い合えるチームづくりが、
日本社会の喫緊の課題だと思います。

そのためには、
組織をまとめるリーダーに、
多様な意見を拾い上げる力が必要です。

上とか下ではなく、
対等な人間として、
お互いに尊重しあう関係を築き、
チームみんなで成果を上げるのです。

どんな人であれ、
自分の行動が認められれば、
次も頑張ろうと思います。

内容はどうであれ、
まずは行動したことを認め、
アドバイスは、相手の自尊心が
傷つかないように、
注意して行うべきですね。

そのアドバイスを受け入れるか、
受け入れないかも、
本人の自由ですから、
リーダーには、プレゼン力も必須です。

もしかしたら、
「自分が間違っていて、
相手の方が正しいのかもしれない」
という議論の余地も残しておく方が、
相手も素直に話を
聴いてくれるのではないでしょうか。

こんなことは面倒かもしれません。

しかし、そういった
面倒なコミュニケーションを
積み重ねていって、
信頼関係を構築するのが、
普通の人間関係なのでは、
と思ったりもします。

本書をきっかけに、
多くの職場で心理的安全性が採用され、
日本の社会にも
健全なチームが増えてほしいものです。

ひいては、
それがチームのためだけでなく、
社会全体のためになるのですから。


【書籍情報】
発行年:2020年
著者:石井遼介
出版社:日本能率協会マネジメントセンター

【著者について】
兵庫県出身。研究者、データサイエンティスト、
プロジェクトマネジャー。
株式会社ZENTech取締役。
一般社団法人 日本認知科学研究所理事。
慶応義塾大学 システムデザイン・
マネジメント研究科 研究院。

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