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書籍レビュー『長いお別れ』レイモンド・チャンドラー(1953)ほろ苦い文体を堪能

あらゆるエンタメの源流に
チャンドラーあり

レイモンド・チャンドラーの名前は、
あらゆるエンタメ作品の源流をたどると、
よく出てきます。

私がはじめてチャンドラーの名前を目にしたのは、
20代の頃にハマった映画監督、
コーエン兄弟のインタビュー記事でした。

彼らの『ビッグ・リボウスキ』(’98)
という作品のモチーフの一つとして、
チャンドラーの作品群が挙げられていたのです。

かの有名な村上春樹も影響を受けた
作家の一人として、
チャンドラーを挙げており、
いくつもの翻訳を手掛けています。

松田優作の代表作『探偵物語』(’79~’80)も
チャンドラーの作品がなくては、
決して生まれなかったことでしょう。

ちなみに、私の大好きな映画
『ブレードランナー』の主人公の人物像は、
’40~’50年代のハリウッドで流行った
フィルム・ノワール(犯罪映画)の
影響を強く受けています。

このフィルム・ノワールの源流を辿ると、
レイモンド・チャンドラーらが確立した
ハードボイルド小説に突き当たるのです。

このようにチャンドラーの作品群は、
あらゆるエンタメ作品に
根を張っています。

ハードなのに読みやすい

ここまで、いかにも詳しげに書いてきましたが、
私自身がチャンドラーの作品を
読むのは今回がはじめてでした。
(映像化作品は観たことがある)

これまで映像作品などで、
ハードボイルド作品に触れてきましたが、
そもそも、この手の小説はあまり読んでおらず、
不安もあったのが正直なところです。
(これまでに読んだハードボイルド系は、
大沢在昌の『新宿鮫』(’90)のみ)

ところが読みはじめて、
すぐに感じたのは、
その読みやすさでした。

中には、けっこう難しい表現も出てきます。

ですが、流れに違和感がなく、
スラスラ読めてしまうのです。

一般的に、「読みやすさ」というのは、
平易な言葉を使うことだとされていますが、
本作を読むと、その常識が覆されるでしょう。

難しい言葉を使っていても、
スラスラと読めるのは、
言葉そのものに求心力があるからだと思います。

ちなみに、私自身は難しい本が苦手です。

特に、海外の文学には、苦手意識があって、
多くの人に読まれている有名な作品でも、
さっぱり内容が頭に入ってこないものも
少なくありません。

本作はそんな私でも読めたので、
特にオススメしたい作品なのです。

マーロウとレノックスの友情

本作は、レイモンド・チャンドラーの人気シリーズ、
私立探偵のフィリップ・マーロウを主人公にした
6作目の長編小説にあたります。

本国のアメリカでもそれなりに人気のある作品ですが、
特に、日本で高い人気を誇る作品のようです。

マーロウが、テリー・レノックスという
片頬に傷のある男と出会うところから、
物語ははじまります。

レノックスは酔っぱらっており、
最初の印象は最悪でした。

ところが、どこか品のある感じのする
レノックスに徐々に惹かれていき、
マーロウとレノックスは友人になるのです。

その後、マーロウは、
レノックスからある依頼を受けます。

「メキシコに連れて行ってほしい」
という依頼でした。

マーロウは理由も聞かずに、
この依頼を受けるのですが、
ここからある事件に
巻き込まれていくことになります。

レノックスをメキシコに連れていき、
マーロウが自宅に戻ると、
そこには警官が待っていたのです。

警官が言うには、
レノックスには妻殺しの容疑が
かかっているとのことでした。

重要参考人として、
警察に連れていかれたマーロウは、
友人のために黙秘を続けました。

警官たちは容赦なく、
マーロウをいたぶり続けますが、
最後まで口を割らない
義理堅きマーロウです。
(この辺りの描写が、まさにハードボイルド!)

数日後、マーロウは釈放されますが、
そこで衝撃的なニュースを受けます。

「レノックスがメキシコのホテルで自殺した」
というニュースです。

失意のマーロウが自宅に戻ると、
レノックスから手紙がきていました。

「ギムレットを飲んだら、
僕のことはすべて忘れてくれ」
(ギムレットは、レノックスが大好きなお酒だった)

こうして、マーロウは、
レノックスの事件の真相を追うことになります。

文体や描写から感じられる
大人なムードが魅力的な本作ですが、
このストーリー展開も
非常に興味をそそられます。

事件の真相が最後の最後まで読めず、
ラストに辿り着いた時には、
「そうきたか!」と衝撃を受けました。

ちなみに、巻末の解説によると、
チャンドラーの作品の中では、
本作が一番長い作品らしく、
本編が480ページほどのボリュームです。

このボリューム感といい、
秋の夜長にゆっくりと楽しむには、
最適な作品だと思います。

この秋は、ぜひ、チャンドラーの
ほろ苦い文体をご堪能あれ。


【書籍情報】
発行年:1953年
著者:レイモンド・チャンドラー
出版社:早川書房

【著者について】
1888~1959。アメリカ、シカゴ生まれ。
1933年、作家デビュー。
ハードボイルド小説のパイオニアの一人。

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