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映画レビュー『浜の朝日の嘘つきどもと』(2021)深い映画愛を感じる

地元の映画館を救いたい

福島中央テレビ
開局50周年記念作品として、
ドラマ版と並行して制作されました。

映画版はドラマ版の前日譚となっており、
ドラマを観ていなくても
問題なく楽しめる内容になっています。

物語の舞台は、
福島県南相馬市の映画館、
「朝日座」です。
(物語の内容はフィクションですが、
過去に朝日座は実在した映画館)

南相馬市は10年前の東日本大震災で、
大きな被害のあったところでもあり、
なんとかその影響にも耐えてきました。

ところが、
この度の感染症拡大のあおりを受け、
支配人(柳家喬太郎)は、
朝日座の閉館を決意します。

戦後まもなく開館した当時に
公開された映画のフィルムを
映写機にかけ、
映写室からスクリーンを
ひとり見つめる支配人の表情は
どこか悲し気です。

映画が終幕を迎え、
支配人はフィルムを
燃やしはじめました。

映画館を取り壊す日取りも決まり、
跡地にスーパー銭湯が
建てられることも決まっていたのです。

ところがフィルムを燃やす
支配人を慌てて止める
一人の女性がやってきました。

浜野あさひ(高畑充希)です。

支配人が訝しみながら、
彼女の話を聴くと、
どうやら彼女は
誰かに映画館の再建を頼まれて、
ここへやってきたようでした。

主人公と恩師の絆

東京からやってきた主人公は、
もとは福島県に住んでいました。

ところが、高校時代に地元が
東日本大震災の被害に遭い、
わけあって地元を離れたのです。

震災の被害にあった地元では、
多くの産業がダメージを被りました。

そんな中、あさひの親がやっていた
タクシー会社だけは、
物資の運搬なども請け負い、
業績を上げていたのです。

地元では、
そこに妬みを持つ住民が多く、
あさひの一家は、
つまはじきにされてしまいました。

このような理由があって、
父は地元に残り、
あさひは、母、弟ともに
東京に引っ越すことになったのです。

学校でも仲間外れになっていた
あさひを一人の先生が
支えてくれました。

茉莉子先生(大久保佳代子)です。

茉莉子先生は、
放課後の学校でこっそり、
あさひに映画のDVDを観せてくれました。

この時に茉莉子先生に
映画のおもしろさを
教えてもらったあさひは、
やがて、映画の配給会社に
就職することになったのです。

いつもそこに映画があった

あさひが朝日座の再建にやってきたのは、
この恩師との思い出が深く関わっています。

劇中では、現在と過去が交互に描かれ、
それが一つの物語として、
つながっていく構成です。

現在のパートでは、
おもに朝日座の再建に関して、
さまざまな人の想いが描かれます。

「映画館を壊して、
 スーパー銭湯を立てれば、
 地元に雇用がうまれる」

朝日座の跡地に施設を建てたい
経営者の言い分も
もっともなところでした。

地元に働き口が増えれば、
故郷を離れた家族が
戻ってくるかもしれない、
地元の人たちは
そこに淡い期待を寄せます。

一方で、映画館を潰したくない
という気持ちもあります。

今の時代、テレビや配信サービスもあって、
どこでも映画が楽しめるようになりました。

そんな時代にあって、
映画館で映画を観る意義は、
どこにあるのだろうかと、
主人公たちも葛藤します。

過去のパートでは、
おもにあさひと恩師の思い出が
描かれていくのですが、
その傍らには、
いつも映画がありました。

みんなで同じものを観て、
同じところで笑ったり、泣いたり、
そんな一体感があるのも
劇場の素晴らしいところですね。

「寂れた映画館を再建する物語」
本作をひとことで表現すると、
単純な物語に感じます。

しかし、実際にはそれだけでは
伝えきれないさまざまな想いが
込められた作品でした。

多くのエンタメ産業が
逆境に立たされている中、
「映画館」をテーマにした
本作が公開されたことは、
非常に意義深いです。

「これが正解」
と言い切るわけでもなく、
それぞれの立場の人の想いを
余すところなく取り入れた
奥深いメッセージを感じました。

一人でも多くの
「映画を愛する人」に
届いてほしい作品です。


【作品情報】
2021年9月10日公開
監督・脚本:タナダユキ
出演:高畑充希
   柳家喬太郎
   大久保佳代子
配給:ポニーキャニオン
上映時間:114分

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