見出し画像

書籍レビュー『痛快! 心理学 入門編』和田秀樹(2000)誰にとっても身近な心理学

誰にとっても身近な心理学

「心理学」と聞いて、
みなさんはどんなイメージを
思い浮かべるでしょうか。

「他人を思うように操る技術」
「人の内面をさぐる技術」
「なんとなく近づき難い」

こんなネガティブな印象を
持たれる方も多いかもしれませんね。

しかし、本書を読むと、
そのイメージは一変するでしょう。

なんせ、この本では、
心理学の歴史を振り返りながら、
その本質を知ることができます。

そして、その本質を知ると、
誰にとっても
身近な学問であることが
よくわかるでしょう。

例えば、あなたの身近にも
心身の不調が
見受けられる人はいませんか。

もしくは、あなた自身も
そういう時がないでしょうか。

そんな時に、
本書に書いてあるような
知識があれば、

その事実を避けて、
腫れ物のように扱う必要は
ないことがわかります。

誰にでも精神的に
落ち込むことはありますし、
生まれ育った環境によって、

人とはものの感じ方が、
大きく異なる人もいるのは、
普通のことですし、

大袈裟に捉える
必要はないんですね。

もちろん、知識を得たからといって、
自分の手で何かを直接的に
解決することが
できるわけではありませんが、

自分や身近な人に、
そういったメンタル的な疾患が
出る場合があるかもしれない

という事実を知るだけでも、
実際にそういった場面に
遭遇した時の心持ちが違う
と思うんですよね。

何より「心理学」は、
「人」を知るための学問です。

「人」に興味がある自分にとって、
これほど興味深い
テーマはありません。

脳はハードウェア、心はソフトウェア

「入門編」というだけあって、
本書でも「心理学」の
定義については、
丁寧に解説されています。

本書によれば、
一口に「心理学」といっても、
そのジャンル分けは膨大で、

それだけで一冊の本が
書けてしまうほど、
奥が深い学問なんだそうです。

そこを踏まえたうえで、
著者がわかりやすく
解説されているのですが、

コンピューターでいえば、
「脳」が「ハードウェア」
「心」が「ソフトウェア」
にあたるんですね。

つまり、「心」というものが、
今でもはっきりと
わかっているわけではないにしても、

そういった概念が出てくるまで、
精神的な疾患は、脳の病気
と見られていたようです。

しかし、そういった患者さんの
脳を調べてみても、
なんの異常もない場合が多いんですね。

そこで「心」という概念が
出てきました。

前述したように、
本書ではその辺の歴史から、
話がはじめられるので、
非常に説得力を感じました。

著者の持論が中心ではなく、
歴史的に見て、
どういう分析がされてきて、

それがどういう結果に
つながったのか、

詳しく見ていくと、
時代や国ごとの社会的な背景も
結び付いているので、

それはそのまま人間の歴史に
当てはめることができるのです。

アメリカの男はつらいよ

本書の中では
「心理学」の歴史について、
興味深いところが多く、

その辺の話も書きたいのですが、
それをはじめると
長くなってしまいますし、

レビューの本質から
逸れてしまうので、
その話はまたの機会にします。

本書を読んで、
もっとも興味深かったのが、
アメリカは、日本よりも
心理学がポピュラーです。

そういった医療機関にかかるのも
割と一般的なことで、
なぜ、そうなのかという話が、
本書に書かれていました。

例えば、日本では
「本音」と「建て前」
みたいな文化が一般的ですよね。

「本音」はあるにしても、
それをなんでも
おおっぴらにしてしまうのを
良しとはしません。

一方のアメリカでは、
あまりそういうことが言われず、
自由に自分の意見が言えます。

というか、言いたいこと、
言うべきことを言えないのがダメ
という気質が強いんですね。

こうして、日本とアメリカを
比べた場合に、
日本の方がストレスの多い社会に
感じられるかもしれません。

しかし、実際には、
精神科などのメンタル系の
医療機関にかかる割合は、
アメリカの方が多いのです。

これは一体、
どういうことなのかというと、

実際には、アメリカ人だって、
なんでも本音をさらけ出して、
生きているわけではない
ということなんですね。

特に、アメリカ人の男性は、
会社(社会)からも
家庭内でも

常に強くて頼りになる
大人であることを
強く求められます。

こうなると、家でも職場でも
心が休まる場所がないんです。

実際にはアメリカ人の男性だって、
弱音を吐きたい時もあるし、
愚痴を言いたい時もあるでしょう。

しかし、そこをグッと堪えて
強い自分を演じ続けることが
求められるのです。

そこで彼らは、
精神科などに通って、
他では言えない悩みを
聴いてもらうのだそうです。

アメリカでは、
特に富裕層の経営者などが、

こういったものに、
かなりの額を払って
診療を受けるのが
一般的とも言われていました。

それに翻って、
わが国・日本のサラリーマンには
「飲み会」という文化があります。

そこでは「無礼講」
というものあって、
時には普段では言えない
愚痴を言い合ったりしながら、

なんとか日々の生活も
それなりに成り立っている
という構図があるんですね。

海外では「無礼講」なんていう
発想自体が考えられないんだそうです。

酔った勢いで、
上司に噛み付きでもすれば、
それはそのまま会社の人事に響き、

社会人としての生命にも
関わるわけなんですね。

アメリカにはパーティー
という文化もありますが、
あれもビジネスの一環で、

そういった場でも、
一家の主(あるじ)には、
やはり、強くて頼りになる
パーソナリティーが求められます。

そう考えると、
日本のサラリーマンで
良かったなぁ
なんて思ってしまう自分もいます(笑)

ここに挙げた話は、
本書のごく一部の話に過ぎませんが、
このように歴史の話から、
身近な話題まで、

いずれも「心理学」に絡めた
解説がされており、
とてもおもしろかったです。

続編の「実践編」も
ぜひ読んでみたいと思いました。


【書籍情報】
発行年:2000年(文庫版2007年)
著者:和田秀樹
出版社:集英社

【著者について】
’60年、大阪府生まれ。
受験アドバイザー、
評論家、精神科医、
臨床心理士。

【続編】

【同じ著者の作品】


いいなと思ったら応援しよう!

いっき82
サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。

この記事が参加している募集