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書籍レビュー『古代オリンピック 全裸の祭典』トニー・ペロテット(2004)今も昔も民はスポーツに熱狂する
【約1800字/4.5分で読めます】
【こんな人にオススメ】
・スポーツが好き
・古代ギリシアに興味がある
・歴史が好き
【こんな時にオススメ】
・歴史のロマンに浸りたい
・古代文明のことが知りたい
・カオスな世界に触れたい
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オリンピックって
いつからあるか知っていますか?
古代オリンピックがはじまったのは、紀元前776年のことなんだそうです。
その頃のオリンピックは、宗教的な儀式の意味合いが強く、お祭りの一環として、さまざまな競技が催されました。
驚くべきことに、この古代オリンピックは、その後、1200年もの間、続けられ、一度も中断されたことがなかったようです(古代オリンピック最後の記録は393年、その後も非公式で続いていた説もある)。
一方の近代オリンピックは、1896年にはじまり、1916年、1940年、1944年と3回も中止されたことがあります(いずれも戦争のため)。
それでは古代オリンピックの時代は、戦争がなかったのかというと、そんなことはなく、一時的に休戦したり、敵国から攻められながらも続けた年もあったようです。
古代の人々を魅了したオリンピックが、どのようなものだったのか、本書は、残された文献を頼りに、臨場感あふれる描写でまとめています。
驚くべきことに
本書のサブタイトルにもあるように、古代オリンピックでは、競技者がすべて全裸になって競技に参加したそうです(ほとんどが男性、ごく少ない女性の参加者も下着のようなものは付けていたが、乳房は片方だけ出すスタイル)。
なぜ、全裸だったのかというと、この時代のギリシャでは、「肉体美」が神聖なものとしてあがめられていたからです。
その姿は当時の陶器にあしらわれた絵(ノベルティグッズのような感じか)によって、あきらかにされています。
そこにあしらわれた選手たちは、陰部丸出しの素っ裸に描かれているのです(本書にも多数の写真が掲載)。
選手たちは身体にオリーブ油を塗って、身体を清めて競技に臨んでいました。
当時から陸上競技は人気で、特に短距離走は人気が高かったようですね。
また、ボクシング、レスリング、パンクラチオン(現在の総合格闘技の原型)などの格闘技も人気でした。
格闘技の競技は、今よりも激しいもので、時には死者がでることもありました。
特に、パンクラチオンは、目つぶし以外はなんでもありな競技だったので、死者が出ないはずがありません。
現在のオリンピックにはない競技には、戦車競走(馬車による)、騎馬競技(現在の競馬のようなもの)などもありました。
オリンピックのイメージからもっともかけ離れたものだと、詩人による詩の朗読、哲学者・歴史家による研究発表といった種目もあったそうです(この辺りの競技はメイン会場ではなく、隣接した場所で祭りの一環として実施されていた)。
戦っているのは競技者だけではなく
古代オリンピックは、観客も命がけで参加していました。
というのも、競技場には熱い日差しを遮る屋根すらもなく、そんなところへギリシャ中からたくさんの人が押し掛けるので、その熱気はすさまじいものだったそうです。
衛生管理も悪く、水や食べ物でお腹をくだして、ひどい場合には、それで命を落とす人も多かったようです。
それでも人々は競技場に押しかけました。
ちなみに、当時は入場制限もあって、既婚者の女性は入場できませんでした(宗教的な意味合いで、聖域に既婚女性が入ることを禁じた)。
この他にも、本書の中では古代オリンピックにまつわる周辺の物語も多く描かれています。
例えば、競技者はすべて全裸ですから、同性愛者の権力者が自分の性の対象の品定めに来ていたとか。
観客たちを商売相手に娼婦もたくさん集まったとか、「性」に関する話題は多かったですね。
また、現代のオリンピックでも政治的な面が批判されることがありますが、それは古代オリンピックも同じだったようです。
勝ち負けをお金で買収するなど、そういう汚いことが横行するのも普通のことだったのです。
そういう面も含めて、古代人が身近に感じられるエピソードが満載な本でした。
【作品情報】
発行年:2004年(旧題『驚異の古代オリンピック』、文庫版:2020年)
著者:トニー・ペロテット
出版社:河出書房新社
【著者について】
オーストラリア、シドニー出身。旅行・歴史ジャーナリスト。
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(2003)
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