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書籍レビュー

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#2010年代

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

【約2300字/6分で読めます】

自分が住んでいる部屋の前の住人を
想像してしまうことはないですか?私は配信サービスなどを利用して、昔の映画やドラマを観たり、昔の音楽を楽しむことが多いのですが、そんな時に想像してしまうことがあるんですよね。

「もしかして、私よりも前の住人がこの部屋で同じものを観ていたかもしれない(あるいは聴いていたかもしれない)」

私が住んでいるのは、築30年程度の借家なの

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書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】

ジョージ・ソーンダーズは今、
アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。

本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。

そんなことを知らずに読みはじめたがとにか

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書籍レビュー『統合失調症がやってきた』松本ハウス(2013)「汚れなき壊れ屋」はどのように復活したのか

書籍レビュー『統合失調症がやってきた』松本ハウス(2013)「汚れなき壊れ屋」はどのように復活したのか

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

『ボキャブラ天国』で
ブレイクした松本ハウス松本ハウスといえば、
私の中学時代、人気絶頂だった
『ボキャブラ天国』(※)で
大人気のコンビでした。

爆笑問題やネプチューンなど、
そうそうたるメンバーが
出演する中で、

松本ハウスの個性は
光っていました。

坊主頭に白いブラウス、
下はピタッとスリムな

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書籍レビュー『樽とタタン』中島京子(2018)古い記憶は脚色されるリアリティー

書籍レビュー『樽とタタン』中島京子(2018)古い記憶は脚色されるリアリティー


たまたま手にした本を読んでみた年末年始にブックオフで
「本おみくじ」
というものがあり、
買ってみました。

箱に1冊の本が入っていて、
中身はわかりません。

私が買った箱の中から
出てきたのがこの一冊でした。

まったく知らない作家さんですし、
たぶん、こんな機会でもなければ、
手に取ることもなかった本です。

しかし、これがおもしろかったので、
紹介させてください。

本作の主人公は
小学

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書籍レビュー『ユニクロ潜入一年』横田増生(2017)天下のユニクロで働いてみた

書籍レビュー『ユニクロ潜入一年』横田増生(2017)天下のユニクロで働いてみた


止まらぬユニクロの快進撃、
その影には……ユニクロの快進撃が止まりません。

3年連続で過去最高益を更新し、
2024年は初の3兆円を超える
売り上げを見込んでいる
とのことです。

こういった輝かしい
業績を上げる一方で、
ユニクロには「労働問題」に関する
問題点も指摘されています。

本書は、こういった問題点と
向き合うために、
ユニクロの実態を探るべく、

著者自身がいくつかの店舗で
アル

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書籍レビュー『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人(2013)鳥類学者が書いた恐竜エッセイ

書籍レビュー『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』川上和人(2013)鳥類学者が書いた恐竜エッセイ

鳥類学者が書いた恐竜エッセイ「恐竜は鳥の祖先である」

こんな話を聴いたことは
ないでしょうか。

本書の巻末にある解説を読むと、
「恐竜はワニの祖先である」
という説もあるそうです。

(巻末の解説は、
 恐竜学者・小林快次氏によるもの)

タイトルのとおり、
本書は鳥類学の視点から
恐竜が語られた本です。

タイトルには
「無謀にも」とありますね。

その名の通り、
著者は恐竜学の分野に
属す

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書籍レビュー『脳はなにげに不公平』池谷裕二(2016)どれも3ページなので、気軽に読める

書籍レビュー『脳はなにげに不公平』池谷裕二(2016)どれも3ページなので、気軽に読める


専門家が書いた一般向けの良書池谷裕二氏の著書は、
これまでにも何冊も読んでいて、
いずれもおもしろい本ばかりです。

脳には興味があって、
池谷氏以外の著者の本も
読んだことがありますが、

一番読みやすくておもしろいのが、
池谷氏の著書なんですよね。

池谷氏と他の専門家の方の本で、
何が違うのかといえば、
それは「わかりやすさ」です。

どうしても専門家が
書いた本というのは、
マニアックな

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書籍レビュー『怪物はささやく』パトリック・ネス(2011)3つの物語と1つの真実

書籍レビュー『怪物はささやく』パトリック・ネス(2011)3つの物語と1つの真実

早世の作家が手掛けた原案本作の原案者、
シヴォーン・ダウドは、
'06年に作家デビューを果たし、
2つの作品を出版しましたが、

'07年に乳がんのため、
47歳の若さで
お亡くなりになりました。

死後、'08年に発表された
『ボグ・チャイルド』で、
イギリスの児童文学賞・
カーネギー賞を受賞しています。

本作は、そんな彼女が
生前に残した5作目の
メモを元に書かれた作品です。

このメモを作

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書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

シリアルキラーの息子子どもにとって
「親」という存在は
絶大なものです。

時には、
自分を支えてくれる
バックボーンの一つであり、

時には、
乗り越えなければならない
脅威としても存在します。

本作の主人公の父は、
圧倒的に後者の存在でした。

なぜならば、彼の父は、
21年間で3桁におよぶ
殺人を犯し、

「21世紀最悪の連続殺人鬼」
と呼ばれる男だったからです。

主人公の頭の中には、

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書籍レビュー『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音をつくってきた』鈴木惣一朗(2015)音響を知ると、より音楽がおもしろい

書籍レビュー『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音をつくってきた』鈴木惣一朗(2015)音響を知ると、より音楽がおもしろい

細野晴臣とは細野晴臣は、’69年にデビューした
ミュージシャンです。

エイプリル・フールの
ベーシストを経て、

’69年、大滝詠一らとともに、
はっぴいえんどを結成し、
日本語のロックの
礎を築きます。

’73年、はっぴいえんど解散後、
キャラメル・ママを結成、
(後のティン・パン・アレー)

このバンドでは、
荒井由実などの
バックバンドとして、
プロデュースも務めました。

バンドでの活

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書籍レビュー『解錠師』スティーヴ・ハミルトン(2009)運命を狂わせる類まれなる才能

書籍レビュー『解錠師』スティーヴ・ハミルトン(2009)運命を狂わせる類まれなる才能

かわいらしい表紙に惹かれて本書の表紙を見た時に、
ビビッとくるものを感じました。

これまでに
表紙やタイトルに惹きつけられて
思わず手に取った本が

ものすごく自分に合う本だった
というのは、何度かありましたが、

これもまたそんな一冊でした。

『解錠師』とは、
なんとも渋いタイトルですが、
表紙のかわいらしさが
それを中和している印象ですね。

原題は『The Lock Artist』、

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