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書籍レビュー

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#読書

書籍レビュー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆(2024)労働と読書の関係を歴史からひもとく

書籍レビュー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆(2024)労働と読書の関係を歴史からひもとく

【約1500字/4分で読めます】

おもしろくて
いっきに読んでしまった!著者は子どもの頃から「本が大好き」で、はじめて就職が決まった時には「好きな本がたくさん買える」と喜んだそうです。

しかし、実際に働いてみると、全然、本が読めなくなってしまいました。

一番の理由は「時間がない」ことです。

残業もそれなりにあり、たまに定時で終われる日があるかと思えば、同僚との付き合いなどもあって、自分の時

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書籍レビュー『オーケストラの職人たち』岩城宏之(1998~2001)裏方の仕事を知ると、人生がもっと楽しくなる

書籍レビュー『オーケストラの職人たち』岩城宏之(1998~2001)裏方の仕事を知ると、人生がもっと楽しくなる

【約1900字/5分で読めます】

著者の岩城宏之は
「日本を代表する指揮者」と紹介されるのが苦手だったそうです(笑)

指揮者としてのデビュー(東京藝術大学在学中に NHK交響楽団の副指揮者となった)が'56年です。

その後、世界中を飛び回って、主要なオーケストラで指揮をしたとのことですから、実際には、やはり「日本を代表する指揮者」の一人であるのは間違いありません。

ただ、本人はクラシック音

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書籍レビュー『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』J・ナヴァロ、M・カーリング(2010)大脳辺縁系はウソをつけない

書籍レビュー『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』J・ナヴァロ、M・カーリング(2010)大脳辺縁系はウソをつけない

【約2100字/5.5分で読めます】

「スパイキャッチャー」
「人間ウソ発見器」の
異名を持つ著者本書は FBI 捜査官の経験を持つ著者が書いた「しぐさ」からわかる心理学の本です。

もちろん、一つのしぐさからわかることは限られており、前後関係がとても大事だと書かれています。

また、プロである著者の感覚から言っても、人のウソを見抜くのは、並大抵のことではないとのことです。

一つのしぐさから、

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書籍レビュー『蟬しぐれ』藤沢周平(1986~1987)人間ドラマあり、自然描写あり、剣術アクションありの贅沢な作品

書籍レビュー『蟬しぐれ』藤沢周平(1986~1987)人間ドラマあり、自然描写あり、剣術アクションありの贅沢な作品

【約1800字/4.5分で読めます】

'80年代に藤沢周平が新聞で連載大変人気のある作品で、'90年代には宝塚歌劇団が舞台化、'00年代にはテレビドラマや映画にもなっています。

しかし、作者は新聞で連載していた当時、「なかなかおもしろくならない」と悩んでいたようです。

今いち手応えを感じられなかった作者が、本作に自信を持ったのは、単行本として本作が一つにまとまった時のことでした。

確かに、

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書籍レビュー『われはロボット』アイザック・アシモフ(1950)ロボットに心はあるのか

書籍レビュー『われはロボット』アイザック・アシモフ(1950)ロボットに心はあるのか

【約1600字/4分で読めます】

SF のビッグ3の一人、
アイザック・アシモフの初期短編集なんですが、短編集といっても、それぞれのストーリーは、同じ世界の出来事であり、連作短編の趣きもあります。

この作品がのちの長編『鋼鉄都市』('64)に繋がっていたり、続編の短編集『ロボットの時代』('64)もあり、アシモフの入門編としても最適な短編集とも言えるでしょう。

すべての物語はロボ心理学者、ス

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書籍レビュー『古代オリンピック 全裸の祭典』トニー・ペロテット(2004)今も昔も民はスポーツに熱狂する

書籍レビュー『古代オリンピック 全裸の祭典』トニー・ペロテット(2004)今も昔も民はスポーツに熱狂する

【約1800字/4.5分で読めます】

オリンピックって
いつからあるか知っていますか?古代オリンピックがはじまったのは、紀元前776年のことなんだそうです。

その頃のオリンピックは、宗教的な儀式の意味合いが強く、お祭りの一環として、さまざまな競技が催されました。

驚くべきことに、この古代オリンピックは、その後、1200年もの間、続けられ、一度も中断されたことがなかったようです(古代オリンピッ

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書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

【約2300字/6分で読めます】

自分が住んでいる部屋の前の住人を
想像してしまうことはないですか?私は配信サービスなどを利用して、昔の映画やドラマを観たり、昔の音楽を楽しむことが多いのですが、そんな時に想像してしまうことがあるんですよね。

「もしかして、私よりも前の住人がこの部屋で同じものを観ていたかもしれない(あるいは聴いていたかもしれない)」

私が住んでいるのは、築30年程度の借家なの

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書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】

ジョージ・ソーンダーズは今、
アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。

本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。

そんなことを知らずに読みはじめたがとにか

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書籍レビュー『漫画のカリスマ』長山靖生(2024)知る人ぞ知るカリスマ漫画家たち

書籍レビュー『漫画のカリスマ』長山靖生(2024)知る人ぞ知るカリスマ漫画家たち

【約1300字/3.5分で読めます】

本屋で見かけてすぐさま飛びついた9月に発行されたばかりの新刊です。

著者は歯科医の傍ら、評論家として執筆活動を続けている方で、この本で取り上げられているのは、白土三平、つげ義春、吾妻ひでお、諸星大二郎の4人のマンガ家です。

タイトルの通り、「漫画のカリスマ」の4人ですが、恐ろしいくらい世間では認知されていない方々とも思います。

私自身も、実際に読んだこ

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書籍レビュー『三四郎』夏目漱石(1908)明治末期ならではの恋模様

書籍レビュー『三四郎』夏目漱石(1908)明治末期ならではの恋模様

【約1400字/3.5分で読めます】

愛されようとして愛を得ない
複雑な愛の心理を描く私が読んだ角川文庫版の裏表紙にある解説には、このような文句が並んでいました。

ここだけ読むと、恋愛小説のような印象を抱かれるかもしれません。

しかし、本作は恋愛小説というほど、恋愛を中心に描かれた作品ではなく(もちろん大きな柱ではあるが)、地方から上京した青年がさまざまな人たちと出会い、成長していく青春小説

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書籍レビュー『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』岩田徹(2021)本をこよなく愛す店主が選ぶあなただけの本

書籍レビュー『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』岩田徹(2021)本をこよなく愛す店主が選ぶあなただけの本

【約900字/2.5分で読めます】

著者は北海道の「いわた書店」の店主店主の岩田徹氏は、'90年に親からお店を引き継ぎ、出版界の不況の荒波を乗り越えました。

こう書くと、簡単に聞こえますが、本書でも書かれているように、その経営は苦しいもので、何度、店を畳もうと思ったかわからないほどだったそうです。

そんな中、学生時代の先輩から舞い込んだ「この1万円で適当に本を見繕ってくれ」という依頼がヒント

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書籍レビュー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』山田ズーニー(2003)伝える力が鍵となる

書籍レビュー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』山田ズーニー(2003)伝える力が鍵となる

【約1400字/3.5分で読めます】

自分の意見がうまく伝わらない思っていることをいくら言葉で表現しても、相手に伝わらないことがありますよね。

私もそうです。私の場合は、大体、周りの人たちと違うことを考えていることが多いので、伝わりづらいことも多いんですよね。

聴いてもらえるのなら、まだいい方で、それを完全に理解してもらうのは、相当ハードルが高いことに感じます。

なぜ意見を聴いてもらえない

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書籍レビュー『「簡潔さ」は最強の戦略である』ジム・バンデハイほか(2024)文字や言葉で伝える時に重要なこと

書籍レビュー『「簡潔さ」は最強の戦略である』ジム・バンデハイほか(2024)文字や言葉で伝える時に重要なこと


大量の文字に翻弄される時代私は常日頃から
「簡潔さが重要」と思っています。

ある時、同じようなことを
考えている人はいないのか、
ネット上で検索をかけてみたのです。

すると本書が出てきました。

本書が発売される1週間前のことです。

そこにはこのような文が
掲載されていました。

私たちはこれまでの人類が
経験したことのないほど、
大量の文字に囲まれて
生活しています。

そんな中で、大量

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書籍レビュー『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』町山智浩(2009)アメリカで活躍するアスリートは2400人程度

書籍レビュー『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』町山智浩(2009)アメリカで活躍するアスリートは2400人程度


在米日本人の
コラムニストが書いた著者の町山智浩氏は、
映画評論家、コラムニストの
在米韓国系日本人です。
(父が在日韓国人1世だった)

そのキャリアは'80年代に
マンガやアニメを扱った出版物を
制作していた
スタジオ・ハードにはじまり、

宝島社の編集者を経て、
洋泉社への出向、
『映画秘宝』の創刊に至ります。

『映画秘宝』に町山氏が
連載していたコラムが、
『〈映画の見方〉がわかる本』

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