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書籍レビュー

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#読書

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

【約2300字/6分で読めます】

自分が住んでいる部屋の前の住人を
想像してしまうことはないですか?私は配信サービスなどを利用して、昔の映画やドラマを観たり、昔の音楽を楽しむことが多いのですが、そんな時に想像してしまうことがあるんですよね。

「もしかして、私よりも前の住人がこの部屋で同じものを観ていたかもしれない(あるいは聴いていたかもしれない)」

私が住んでいるのは、築30年程度の借家なの

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書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】

ジョージ・ソーンダーズは今、
アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。

本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。

そんなことを知らずに読みはじめたがとにか

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書籍レビュー『漫画のカリスマ』長山靖生(2024)知る人ぞ知るカリスマ漫画家たち

書籍レビュー『漫画のカリスマ』長山靖生(2024)知る人ぞ知るカリスマ漫画家たち

【約1300字/3.5分で読めます】

本屋で見かけてすぐさま飛びついた9月に発行されたばかりの新刊です。

著者は歯科医の傍ら、評論家として執筆活動を続けている方で、この本で取り上げられているのは、白土三平、つげ義春、吾妻ひでお、諸星大二郎の4人のマンガ家です。

タイトルの通り、「漫画のカリスマ」の4人ですが、恐ろしいくらい世間では認知されていない方々とも思います。

私自身も、実際に読んだこ

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書籍レビュー『三四郎』夏目漱石(1908)明治末期ならではの恋模様

書籍レビュー『三四郎』夏目漱石(1908)明治末期ならではの恋模様

【約1400字/3.5分で読めます】

愛されようとして愛を得ない
複雑な愛の心理を描く私が読んだ角川文庫版の裏表紙にある解説には、このような文句が並んでいました。

ここだけ読むと、恋愛小説のような印象を抱かれるかもしれません。

しかし、本作は恋愛小説というほど、恋愛を中心に描かれた作品ではなく(もちろん大きな柱ではあるが)、地方から上京した青年がさまざまな人たちと出会い、成長していく青春小説

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書籍レビュー『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』岩田徹(2021)本をこよなく愛す店主が選ぶあなただけの本

書籍レビュー『一万円選書 北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』岩田徹(2021)本をこよなく愛す店主が選ぶあなただけの本

【約900字/2.5分で読めます】

著者は北海道の「いわた書店」の店主店主の岩田徹氏は、'90年に親からお店を引き継ぎ、出版界の不況の荒波を乗り越えました。

こう書くと、簡単に聞こえますが、本書でも書かれているように、その経営は苦しいもので、何度、店を畳もうと思ったかわからないほどだったそうです。

そんな中、学生時代の先輩から舞い込んだ「この1万円で適当に本を見繕ってくれ」という依頼がヒント

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書籍レビュー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』山田ズーニー(2003)伝える力が鍵となる

書籍レビュー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』山田ズーニー(2003)伝える力が鍵となる

【約1400字/3.5分で読めます】

自分の意見がうまく伝わらない思っていることをいくら言葉で表現しても、相手に伝わらないことがありますよね。

私もそうです。私の場合は、大体、周りの人たちと違うことを考えていることが多いので、伝わりづらいことも多いんですよね。

聴いてもらえるのなら、まだいい方で、それを完全に理解してもらうのは、相当ハードルが高いことに感じます。

なぜ意見を聴いてもらえない

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書籍レビュー『「簡潔さ」は最強の戦略である』ジム・バンデハイほか(2024)文字や言葉で伝える時に重要なこと

書籍レビュー『「簡潔さ」は最強の戦略である』ジム・バンデハイほか(2024)文字や言葉で伝える時に重要なこと


大量の文字に翻弄される時代私は常日頃から
「簡潔さが重要」と思っています。

ある時、同じようなことを
考えている人はいないのか、
ネット上で検索をかけてみたのです。

すると本書が出てきました。

本書が発売される1週間前のことです。

そこにはこのような文が
掲載されていました。

私たちはこれまでの人類が
経験したことのないほど、
大量の文字に囲まれて
生活しています。

そんな中で、大量

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書籍レビュー『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』町山智浩(2009)アメリカで活躍するアスリートは2400人程度

書籍レビュー『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』町山智浩(2009)アメリカで活躍するアスリートは2400人程度


在米日本人の
コラムニストが書いた著者の町山智浩氏は、
映画評論家、コラムニストの
在米韓国系日本人です。
(父が在日韓国人1世だった)

そのキャリアは'80年代に
マンガやアニメを扱った出版物を
制作していた
スタジオ・ハードにはじまり、

宝島社の編集者を経て、
洋泉社への出向、
『映画秘宝』の創刊に至ります。

『映画秘宝』に町山氏が
連載していたコラムが、
『〈映画の見方〉がわかる本』

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書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争

書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争


地を制した人類は
天へとその触手を伸ばした本作を知ったのは、
海外文学を多く紹介した
『やりなおし世界文学』
という本を読んだ時でした。

この本の中で、
「大陸を制した人々が
 今度は上を目指した」

というような紹介が
されていたんですね。

私は建築にも興味があって、
特にそびえたつ高層建築には
憧れすらあります。

本作はそんな高層マンションを
舞台にした物語です。

ロンドンの中心部に

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書籍レビュー『統合失調症がやってきた』松本ハウス(2013)「汚れなき壊れ屋」はどのように復活したのか

書籍レビュー『統合失調症がやってきた』松本ハウス(2013)「汚れなき壊れ屋」はどのように復活したのか

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

『ボキャブラ天国』で
ブレイクした松本ハウス松本ハウスといえば、
私の中学時代、人気絶頂だった
『ボキャブラ天国』(※)で
大人気のコンビでした。

爆笑問題やネプチューンなど、
そうそうたるメンバーが
出演する中で、

松本ハウスの個性は
光っていました。

坊主頭に白いブラウス、
下はピタッとスリムな

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書籍レビュー『家日和』奥田英朗(2004~2006)大きな事件はなくてもおもしろい日常

書籍レビュー『家日和』奥田英朗(2004~2006)大きな事件はなくてもおもしろい日常


「平成の家族小説」シリーズ1作目本作を手掛けた奥田英朗は、
20代の頃から好きな作家でした。

以前、「エッセイの研究」
というシリーズで、
彼のエッセイを
取り上げたことがありましたが、

意外にも note にやってきてから、
奥田英朗の作品をメインで
取り上げるのははじめてです。

本書は短編集で、
各話につながりはありませんが、
「平成の家族小説」シリーズの
1作目という扱いのようです。

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書籍レビュー『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(1966)時の流れによって変化する自分

書籍レビュー『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(1966)時の流れによって変化する自分

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

幼児並みの知能だった
チャーリイが生まれ変わる以前から気になっていて、
ずっと読みたいと思っていました。

映像化もされていますが、
そちらの方は
一度も観たことがありません。

そんな状態で
手に取った作品でしたが、

ストーリーもさることながら、
その表現手法にも
感心させられる作品でした。

主人公のチ

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書籍レビュー『腸と森の「土」を育てる』桐村里紗(2021)人間も自然の一部なので、自然に負荷をかけないサイクルが肝要

書籍レビュー『腸と森の「土」を育てる』桐村里紗(2021)人間も自然の一部なので、自然に負荷をかけないサイクルが肝要


細菌が大事、
特に重要な腸内細菌人体の90%は微生物でできている
という事実は、
以前、『あなたの体は9割が細菌』を
読んで知りました。

人間の身体の中でも、
もっとも多様な細菌がいるのが、
腸内であるため、

人間は腸の細菌に
さまざまな影響を受けます。

腸内ではセロトニン(※)、
ドーパミン(※)といった
物質が作られているので、

腸内環境が乱れていると、
精神にも大きく作用するんです

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書籍レビュー『ECMの真実』稲岡邦彌(2001)アーティストとレーベルの意向がバッチリハマる時

書籍レビュー『ECMの真実』稲岡邦彌(2001)アーティストとレーベルの意向がバッチリハマる時


日本唯一の
ECM 解説本かもしれないこのところ音楽レビューの
洋楽紹介では ECM の音源を
連続して取り上げています。

最近、静かな音楽に
惹かれるんですよね。

昔は賑やかな音楽が
好きだったので、
ECM はまったく聴いたことが
ありませんでした。

今の自分の感性に
ものすごくフィットする音楽
という感じがするんです。

若い頃に聴いても、
この魅力は
わからなかったかもしれません

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