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いばらき被害者支援センターに寄附―支援活動における市民性をどう持続させるのか

いばらき被害者支援センターに寄附をしました

 一貫堂記念財団では、2024年3月14日、いばらき被害者支援センターに現金30万円を寄附させていただきました。当財団として初めての寄附活動となります。

 日本では各都道府県に民間の被害者支援の団体が設置されています。それらをつなぐ全国被害者支援ネットワークのWEBサイトによれば、被害者支援に着目した活動が広がり始めたのは1990年代初頭で、その後同ネットワークが1998年に8団体から組織され、2009年には全国47都道府県での開設に至ったそうです。いばらき被害者支援センターは1995年にできた水戸被害者援助センターをルーツとし、2001年の法人化とともに現在の名称になりました。
 
 当財団のメンバー間では、日本では更生保護のような加害者への支援活動への理解が低く、私たちがサポートすべきはまずはそちらではないかという議論もありました。一方で今回いばらき被害者支援センターのみなさんのお話を伺って感じたことは、被害者支援も公的な仕組みとしてはかなり脆弱な状況にあるということでした。資料によると、同センターの2022年度の支出額は2000万円弱。これは実働支援活動員16名の人件費も含むものです。同年度の年間の支援件数は1,047件で、このうちの半分以上は「性暴力被害者サポートネットワーク茨城」としての支援です。性被害に関する相談は、芸能界における性犯罪の問題がニュースになって以降、急増しているといいます。

支援活動における「素人性」「市民性」

  相談対応の内容は多岐にわたります。性被害の場合、何年も前の被害をずっと口に出せずにいたものの、ようやくそれを誰かに聞いてもらえたということも少なくありません。その場合はまずは傾聴が重要になります。また、経済面の支援やメンタルのケアなど、被害者やその家族が生活を継続するための支援には、それぞれの個別の事情を勘案しながら、警察はもちろんのこと、弁護士や医師といった外部の専門家とも連携して当たっていきます。
 これらの支援に当たる支援活動員については、同センターでトレーニングプログラムを設け、それらを修了した人たちを非常勤で雇用しています。支援活動員はセンターに出勤し、電話や面接で相談者に応対しながらケアを進めます。
 相談者が直面している悩みが何かということを、当事者に寄り添いつつも俯瞰的・構造的に理解し、どういう専門家につなぐべきかなど適切な支援の手立てを見通すことが、支援活動員には求められます。これは私たちから見ると、それ自体が専門的な知識・技能を必要とするものであり、本来であればボランタリーな意識・行動に頼るのではなく、弁護士や医師といった専門職と同等の待遇がなされるべき仕事のように思われます。センターの方にそう話すと「そのとおりだと思います」とお答えになりつつ、他方で「専門家ではない、ということも実は大事なことなんです」ともおっしゃっていました。
 
 これはケアの仕事をめぐってよく言われる「市民性」「素人性」の重視ということだと思います。加害者の方の支援にあたる「保護司」が民間のボランティアに委ねられているのも同じことかもしれません。一方で、「市民性」「素人性」ということに立脚してボランティアに依存してきた仕組みは、「保護司」や「民生委員」のなり手不足が言われるように、持続が困難になってきている現実があります。それを「専門」化することで何が得られ、逆に何が失われてしまうのか。そうしたことについて社会的な議論が必要な段階に来ているということでしょう。当財団としてもそうした議論の場を創出するとともに、活動に関わる団体や個人の支援を続けていければと思います。

「伝える」ことが約束されるという繊細な支援

 さて、もうひとつ今回センターのみなさんのお話から興味をもったのが、被害者の心情などを加害者に伝達する仕組みの確立です。これまで被害者やその家族は、刑の執行段階にある加害者に対して面会を求めたり手紙を出したりしても、加害者側からそれらの対応や受け取りを拒否されるということがありました。それが近年の法改正により、被害者やその家族からのメッセージが加害者へ届くことが保証されるようになったのです。被害者やその家族が、自らの悲しみを加害者に知ってもらうこと、それが約束されることによって少しでも気持ちを前に進められるということは、とても大切なことだと思います。量刑の重みが強調されがちな中にあって、心情を相手に伝えることが約束されるという繊細な支援に光が当てられているということに深い感慨を覚えました。

 犯罪をめぐっては、加害者への責任を強く問うような言説や、監視の強化や厳罰によるゼロリスクを求める声が多く聞かれています。私たちの生活の上で、基本的な安全、安心の確保は言うまでもなく大切なことです。他方で、犯罪の背景に思いを馳せ、人生が大きく変わってしまった被害者あるいは加害者が次の一歩を踏み出すための支援について考えることも、「自分もいつどうなるかわからない」という状況の中において、私たちが安心して生きる上での基盤となるのではないでしょうか。
 
 今後もこうした視点をもって寄附活動などに取り組んでいきたいと思います。
 
(執筆:財団法人一貫堂記念財団 理事 山崎)


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