入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』を読む(偽)日誌 #1
2025/01/24-25
東京都中野区中野ブロードウェイ4階の、まんだらけ古本コーナーで入沢康夫『わが出雲・わが鎮魂』(思潮社、1969年普及復刻版)をみつけた。その辺りの古本屋では何倍もの(とくに中央線沿いにある数多の古本屋!)値段がつけられている本が、ここだと安く手に入ることがある。かつて私は、松浦寿輝『吃水都市』(思潮社、2008年)を800円で手に入れた。これは、いまアマゾンで買おうとすると、最安で4,440円にプラスで配送料262円がかかる(2025年1月24日23:40分現在)。この本は、萩原朔太郎賞も受賞し、現代詩文庫にも未収録なのだから、それに装丁がすばらしいので、復刊しないか、と思っているのだが、そういえばつい最近(といってもかなり前だが)『全詩集』が出て、そこに入ったとのこと。
それで、私が買った『わが出雲・わが鎮魂』は〈普及復刻版〉の、段ボールに包まれた本である。奥付を見ると〈一九六八年四月一日初版限定発行 一九六九年二月十五日普及復刻版発行〉とあり、その後、2004年に思潮ライブラリーより〈復刻新版〉が出ている(大学の図書館にはこれがあった)。帯に〈この本は/まさしく事件である〉と寺田透が書いていて、そうなのか、と思う。ちなみに私は1,100円で手に入れたのだが、元値は800円、2004年版は2,400円プラス税。また、思潮社の在庫を見ると、まだ在庫はあるようだった(2025年1月24日23:58現在)。なお、『詩の構造についての覚え書』には赤文字で〈品切〉。
段ボールに──いわゆる函入り本なのだが、タテが空いたカバーの役割をする段ボールと、本を覆うコの字型の段ボールが対になっていて、背が見えるようになっている。カバー側の段ボールには帯が巻いてあり、右側から読むと〈第20回 読売文学賞受賞/普及復刻版/(スラッシュ)八〇〇円/わが出雲/わが鎮魂/入沢康夫 絵=梶山俊夫〉。裏面には、〈本書に寄せられた高い評価と絶賛〉の文字につづいて、寺田透、粟津則雄、篠田一士の評が書いてあるのだが、古本ということもあり、文字が擦れていて部分的に読めなくなっている。
絵を担当している梶山俊夫という人は、絵本作家として知られている、と少し調べてわかったのだが、小学校の図書館などにこの人の描いた絵本があったような気がする(読んだかどうかは、忘れた)。それから、私の通っている大学の出身だということも、知る。『かりのそらね』も梶山氏が絵を描いている。そのうち読む(手に入れたら)。
本の大きさを、定規を当ててはかると、タテ25.8cm×ヨコ17.4cmの大きな本で(多少の誤差はあるかもしれない)、持ち運ぶのは少々大変かもしれない。現代詩文庫に収録もされたが(部分)、梶山俊夫の絵が削られてしまっている。
いよいよ本に入っていく。「わが出雲」と「わが鎮魂(自註)」に分かれている(?)。私は註について考えていた、考えていたので『わが出雲・わが鎮魂』を読むことに決めた。
こうやって註があるのはありがたい。元ネタを探すのは大変な作業で(楽しいのだが)、たとえば大森靖子「IDOL SONG」の歌詞は、アイドルのキャッチコピーで構成されるのだが、私はアイドルに明るい、というかそれほどたくさんのアイドルを「推し」ているわけではないから、わからない部分が多い。〈えくぼは恋の落とし穴〉、〈うさちゃんピース〉、〈3時のおやつはマカロンが良き ふわふわガール目指しちゅう〉、〈こんにちネギネギ〉、〈がんばっていきまっしょい〉などなど、この辺りはパッとわかるのだが(百田夏菜子、道重さゆみ、西井万理那、Negicco、モーニング娘。)。「わかる人だけわかればいい」を「好きな人だけ読めばいい」と言い換えたらおかしいだろうか。現代詩のことじゃないか(?)。
それから現代詩では山田亮太『オバマ・グーグル』(思潮社、2016年)が、引用された言葉で書かれた(最近の)詩であるし、「みんなの宮下公園」の終わりには〈*2010年4月22日時点に宮下公園内に存在した文字により構成した。〉とある。どのルートを歩いたかは書かれないから、書く人(宮下公園を歩く人)によって順番や、とられる言葉は変化するだろう。「みんなの「みんなの宮下公園」」という企画を思いついたりする。
そしてはじまりに〈装画・装幀〉についての文章。〈一九六七年の梶山俊夫の一作品から、画家自身によって取捨構成された。元となった作品は、この本の成立とともに破棄され、この本全体の装画・構成を以て、梶山俊夫一九六八年作品の一とする。〉と書いてある。出雲の物語と分解され破棄された絵、それから註が、一冊にまとまっているということ、〈この本は/まさしく事件である〉(寺田透)。(続く)