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ベルギーの醸造所で、わからなくて興奮した話

"That is not our taste"
(僕たちの好みじゃないかな)

ドイツへ向かう列車の中で、ベルギーのとある醸造所で耳にした言葉を反芻する。


「ヨーロッパでの研修が終わるころには、この言葉の解像度が上がっていますように」

自分の頑張りに対するハードルを上げながら、これから2ヶ月過ごすドイツのミュンスターへやってきました。


こんにちは。高知県日高村の地域おこし協力隊をしています、髙羽 開(たかば かい)といいます。

この「いきつけいなか」では、欧州でのビール研修の様子を週に1回のペースで綴っていきます。

今回で3週目。これまでの記事では、この研修の事前情報として「地域おこし協力隊という制度」「ヨーロッパで取り組むこと」「ヨーロッパへ行くわけ」について書いてきました。

その後無事、最初の国であるベルギー/ブリュッセルに到着。

研修で学ぶ「野生酵母でつくるビール」の伝統が根づく、世界有数の美食とビールの街です。

ベルギーでは、3日間ブリュッセル内/周辺の醸造所を見学させてもらったり、ボトルショップ(お酒の小売店)やビアカフェでお話を伺ったりして過ごしました。

そして4日目、もっとも長い期間研修を行う醸造所がある、ドイツのミュンスターへ到着しました。


何気ないひと言に隠れた、伝統と意志?

夢にまで見た街並みと、憧れの醸造所。会いたかった方と飲みたかったビールの数々。ブリュッセルでの3日間は、興奮しっぱなし、喜びと発見の連続でした。

そんな滞在中に経験した「意味がわからなくて興奮した」という体験について、今週は書いてみたいと思います。

滞在3日目に訪れた『Den Herberg(デン・ヘルベルグ)』。2007年にカフェ(※)として創業し、翌年からビールづくりをスタートした家族経営の醸造所です。ブリュッセルからバスと徒歩で30分くらいの、小さな村に位置しています。

(※)ベルギーには、ビールを楽しむ飲食店の形態として「ビアカフェ」と呼ばれるものがあります。

僕の目当てである「ランビック」だけでなく、ベルギーに根ざしたさまざまなビアスタイル(ビールの種類)を醸造しています。

醸造所でお話を伺ったあとは、カフェスペースでいろんなビールを試飲させてもらいました。

ビールを飲みながらそれぞれの味わいの特徴についてメモを取っていると、カウンターでタイから来た旅行客のご夫婦がスタッフの方とおしゃべりを始めました。

"IPA is still quite popular in Thailand"
(タイではIPAがまだまだ人気ですよ)

タイでのクラフトビールシーンについて話しているみたい。

「IPA」はビアスタイルのひとつです。「インディア・ペールエール」の略で、原料のひとつであるホップをたくさん使っていることから、ホップ由来のしっかりした苦味と華やかな香りが特徴。
イギリスで生まれアメリカで再解釈され流行して以降、世界中のクラフトビールシーンの先頭をひた走っている、とても人気の高いビアスタイルです。

「タイも日本と同じ感じなんだなぁ」と聞き耳を立てていると、カウンター越しに立つスタッフの方が笑顔で一言。

"That is not our taste"
(IPAは僕たちの好みじゃないかな)

「ベルギービールの造り手はやっぱり(アメリカで育ったスタイルでもある)IPAが好きじゃないんだなぁ」

この言葉を聞いたときはそのくらいにしか思っていませんでしたが、『Den Herberg』からブリュッセルへの帰り道、なぜかこの言葉が頭の中をぐるぐると巡っていました。

──

世界中で人気のIPA。独自のビール文化が根付くベルギーも例外ではなく、マーケットの需要に応えるようにIPAをつくる醸造所も増えている。

一方で『Den Herberg』のように、ベルギーに根ざしたスタイルのビールをつくり続けている醸造所もたくさんある。

「どのビアスタイルをつくるか?」という選択の背景には、歴史や伝統、国・地域の気候や食文化、マーケットの需要、造り手の嗜好や価値観など、さまざまな因子が存在する。

──

そんなことを考えていると、昨年読んだ本に書かれていたとある一節がふと想起されました。


どの飲み物も、その国の人々や地域の社会的・経済的背景を背負っていて、人間について、乾杯したいという抑えきれない欲望について、何らかの形で物語っている。


もしかすると、"That is not our taste"という言葉がポロッと出た背景には、ベルギーをはじめヨーロッパのビール文化を形づくる歴史や価値観、これからの文化をつくっていく造り手としての意志が隠されているのかもしれない。

それがどのようなものなのか、まだわからないけど…



ベルギーの醸造家の何気ない一言から、これからの研修で学ぶ欧州のビール文化の深淵を少しだけ垣間見たような気がしました。

そして、その文化に対する自分の無知の知を実感して、これからの研修がもっと楽しみになりました。


週刊「欧州ビール通信」

最後に、今週出会ったヨーロッパのビール文化をひとつご紹介して終わりにしたいと思います。

この写真に写っているのは、ビールを注ぐ容器。

ブリュッセルのクラシックなビアカフェでは、このような陶器のピッチャーにビールが入って提供され、それを自分でグラスに注いで飲みます。

画像引用元:Wikipedia

中世の画家『ピーテル・ブリューゲル』が描いた「農民の踊り」にも登場する陶器のピッチャー。

およそ500年前から変わらず使われるこの容器から、ベルギービールの伝統の一端を体感することができました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

髙羽個人のインスタグラムでも日々ヨーロッパでの様子を投稿してますので、よかったらフォローしてください。

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このヨーロッパ研修記では、海外で研修をおこなう地域おこし協力隊の取り組みや学び、現地の暮らしや文化、そしておいしいビールについて記していきます。

また来週もぜひ、ご覧ください。
Cheers!(乾杯!)



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