「家族の介護、ひとりで悩まないで」豊中市老人介護者(家族)の会・西野玲子さん
「いきてゆくウィーク」は、大阪府豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、さまざまな方が参加したり、学んだりできるようなイベントになっています。
このnoteでは、運営メンバーの想いや背景を発信しています。今回インタビューしたのは、「豊中市老人介護者(家族)の会」副会長の西野玲子(にしの・れいこ)さん。
家族を介護した経験から、長年家族の声を聴く活動を続けられています。「いきいき長寿フェア」でも介護相談をされてきた西野さんに、これまでの経緯や「いきてゆくウィーク」に込めた想いを伺いました。
子育てをしながら、ひとりで介護をしてきた
── はじめに、豊中市老人介護者(家族)の会の活動について教えていただけますか。
30代から子育て中に、義母・義祖母の介護をしていました。その経験が原点となって、設立当初から豊中市老人介護者(家族)の会(以下:家族の会)に関わり、活動を続けています。2019年で設立30年を迎えました。
家族の会の主な活動に「介護者の集い」があります。その一つに家族交流会や、介護について学ぶ介護教室があり、市や社会福祉協議会(以下:社協)などと共催で行っています。
家族が日頃の介護から離れてリフレッシュできるよう、年に一度、旅館に1泊する「豊中市家族介護者交流会」も社協に協力して続けています。認知症の方や家族が立ち寄れる居場所「オレンジカフェ」でも活動中です。
その他にも、介護者通信などで最新の福祉情報や介護体験談などの発信、電話やメールによる介護相談も行っています。また、「いきいき長寿フェア」などの介護に関わるイベントにも参加し、啓発活動にも取り組んでいます。
── 活動のきっかけとなったご家族の介護について伺いたいです。当時、どのようなことを感じられていましたか。
私が介護をしていた頃は、介護保険制度が施行されるずっと前で、現在利用できるような介護サービスがありませんでした。
認知症に関する情報が身近にない時代だったんですね。当時は、「義母や義祖母にどういうふうに接したらよいのだろう」と悩んでいました。
代わってくれる人がいない中、24時間ひとりで介護をしていたので、肉体的にも精神的にもかなり追い詰められました。
心身ともにストレスが溜まって、共倒れの危機を感じたこともあります。子育て中に介護をしていたので、なかなか子どもの話を聞く時間がつくれず、もどかしさも感じていました。
家族の会の活動で、困っている介護者の道標になれたら
── どのような経緯で、豊中市老人介護者(家族)の会に関わられることになったのでしょうか。
(校区福祉活動に取り組む西野さん)
夜も眠れずどんどん必要な介護も増えてきて、つらい思いをしていた中、社協から家族の会の呼びかけがあったんですね。それで、藁にもすがる思いでその場に飛び込み、それからずっと活動に関わっています。
義母や義祖母を看取ったときに、これから介護を経験される方はたくさんいると思いました。私自身介護をしているときは、真っ暗なトンネルの中で、灯りを求めてうろうろしている感覚だったんですね。
だからこそ、「私たちがその灯りになりたい。介護に関わっている方の道標になれたら」という思いで、資格も取って現在も活動を続けています。
── 西野さんは「いきいき長寿フェア」でも、介護相談をなさっていたそうですね。
そうなんです。介護相談ブースに立ち寄ってくださった地域のみなさんから、家族の会の役員が相談を受けていました。少し離れたところから私たちのことを見ている方もいて、私たちから直接お声がけすることもありました。
介護の話以外にも、「一人でこれからどう生きていけばよいか」「地域で何かつながりがあったら教えてほしい」といった声を高齢者の方から聞くこともあって。いろんな立場の方から話をお聞きしていました。
相談の後は、介護に関する情報をお伝えしたり、「地域包括支援センター」などをご紹介したり。(※地域包括支援センターとは、市町村に設置された総合相談窓口で、介護保険制度に関する相談をしたり、情報提供を受けたりすることができる。)
憩いの場として、地域のみなさんが集まってきてくれました。中には、差し入れを持ってきてくれた介護者の方もいらっしゃったんですよ。
「いきいき長寿フェア」では、介護相談の他にもう一つしていたことがあります。毎年、認知症尊厳ソング「安心と希望のうた」を歌わせてもらっていました。
この歌は認知症の方の気持ちを家族が代弁したものです。歌を聴かれた後、「こんなふうに本人は感じているんですね」と涙ぐまれた介護者の方にもこれまで出会いました。
“お願い 私を 責めないでください
つらいとおもうのは わたしも同じ
たとえ 戸惑い さまよっても
人の心は なくしていない”
「安心と希望のうた」1番より
「浜辺のうた」の替え歌になっている
── 介護相談の中で、大切にされていることはありますか。
私たちも介護を経験したということをお伝えすることは、すごく大切かなと思うんですね。家族の会は、介護という同じ悩みを持つ者同士が、手をつないで支え合っていく団体です。介護相談では、同じ目線で話すことを大切にしています。
オンライン介護相談・介護についての動画配信を企画
──「いきてゆくウィーク」では、どんなコンテンツを企画されていますか。
「介護の第一歩は相談から」をテーマに、オンラインで介護相談を行います。お仕事などで、日中相談しづらいという方にも参加いただけるよう、19時30分まで相談を行う予定です。介護の仕事をしているメンバーや介護経験者が、1時間相談をお聞きします。
また、相談後にご覧いただく「介護に関する動画」も準備しています。相談の先にある制度や情報を抜粋した動画です。
情報を知らないという理由で、苦労される方が減ってほしいという思いがあるんですね。情報を知らないために、サービスの利用までに時間がかかってしまう状況を、少しでも減らしたいです。
一緒に企画を進めているメンバーには、介護関係者やヤングケアラーのメンバーがいます。それぞれの経験から、協力して動画をつくっています。いろんな介護の情報を少しでも知る機会になってほしいです。
家族の会のことも、動画の中で紹介しています。動画で家族の会の存在を知ってもらって、少しでも気持ちが安らぐきっかけになればと思っています。
介護相談の他に、「おばあBAR」という企画にも関わっています。人生経験豊富な「おばあ」たちが、参加者の方の悩みにお答えするというコンテンツです。おばあ一人と参加者のみなさんでおしゃべりをするのですが、私も一おばあとして参加します。
私は「最も落ち込んだのはいつ?どうやって乗り越えた?」というテーマでお話しする予定です。仕事・子育て・介護を両立するために使える介護サービスなど、介護経験者としての経験もお伝えできればと思っています。
介護の第一歩は相談から。ひとりで悩まないで
── 長年、介護相談をされてきた西野さんにとって、福祉・介護業界の魅力は何ですか。
「どこに相談したらよいかわからない」「どう介護をしたらよいかわからない」と悩んでいる方が身近にたくさんいることを、活動の中で感じています。日々の忙しさから、「相談に行っている暇もない」と思われている方も多いです。
また、介護者の3人に1人と言われる男性介護者は孤立しがちです。介護を自分ひとりで抱え込む人も多く、共倒れしがちな傾向があります。
そういう意味で、介護で大変な思いをされている方とつながれたときは、すごく嬉しいですね。介護のつらさを経験したひとりとして、家族の方とつながることができたときは「本当によかった」という気持ちになります。
──「いきてゆくウィーク」開催が近づいていますが、西野さんにとって「いきてゆく」とは何ですか。
家族のことなどで、私自身がこれまでいろんな悩みを抱えてきたんですね。人生は山あり谷ありだと思います。つらいこともたくさん経験しましたが、家族の会の活動に打ち込むことで、私が元気をもらうこともありました。
仲間に恵まれて、周りに支えられながら、これまで生きてきたと思います。これからもやってみたいことがたくさんあるので、「まだまだやれる」という気持ちで生きていきたいです。
── 最後に、今ご家族の介護をされているみなさんへメッセージをお願いします。
第三者と違って、日々様子が変わっていく家族の姿を見ると、すごくつらいと思います。介護をしている人は本当に優しくて、「自分が介護をしなければいけない」と思っている方も多いです。
介護が思うように進まないとき、「こんなに介護をしているのに!」とストレスが溜まって、思わず怒ってしまった。もしかしたらそんな経験もあるかもしれません。
「大切な家族に対して、なんてひどいことをしてしまったのだろう。後で、自己嫌悪に陥り、涙が出ます」とお話しされた方もいます。私も怒ってしまった後、自分のことがひどく思えて、泣いてしまったことがあります。
どうかひとりで悩まないでください。自分の時間を少しでも持つようにしてくださいね。そのために、いろんなサービスを使うことも役立つ方法の一つだと思います。でも、それは決して介護を放棄したのではありません。周りのみなさんの健康と幸せがあってこその介護です。
「介護の第一歩は相談から」。もし介護のことでお悩みのことがあれば、まず相談してください。つながることができれば、とても嬉しく思います。
最後になりましたが、コロナ禍のもと、日々感染リスクに向き合いながら、業務にかかわっておられる医療・介護・保育などの現場のみなさまに深く感謝申し上げます。
── 西野さん、ありがとうございました。
介護保険制度
社会全体で介護が必要となった人を支える仕組み。介護が必要となったときも、住みなれた地域で安心して暮らしていけるよう支援する。40歳以上の方が納めている介護保険料と税金が財源になっているため、介護を必要としている方は、原則1割の自己負担でさまざまな介護サービスを受けられる。(※前年度の所得により、自己負担は2割または3割になる)
介護サービスにはさまざまな種類があり、自宅で利用できるサービス(訪問介護、デイサービスなど)や、施設に入所するサービス(介護老人福祉施設など)、生活環境を整えるサービス(住宅改修や福祉用具レンタル・購入)などがある。
市町村の地域包括支援センターで、介護保険制度に関する相談や情報提供を行っている。
いきてゆくウィークって?
「いきてゆくウィーク」は、豊中市で約20年にわたって開催されてきた「いきいき長寿フェア」をリニューアルしたイベントです。
高齢者の社会参加、介護/福祉をベースにしながら、
さまざまな方が参加したり、学んだりできたりするようなイベントになっています。
今回は、新型コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みて、オンライン(一部、展示会については現地開催)で行います。
これまでとは少し違った新企画がぞくぞく。
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