ほらぐちともこ杉並区議のコロナ感染症対策補正予算案への反対意見

「週刊文春」で2度にわたって東京・杉並区の田中区長の取り組みについて記事が出されました。

東京の「医療崩壊」の現実を突破する杉並独自の政策をと大々的に打ち出されています。テレビでも杉並区内4病院での「発熱外来」設置などが鳴り物入りで取り上げられました。
しかし!、この補正予算を審議・議決した4月20日の杉並区議会第1回臨時会で、ほらぐちともこ区議は真っ向から反対意見を述べました。
その意見表明は、ただ田中区政の施策の不十分性を指摘するものではなく、4病院に行って話を聞いた医療従事者の思いを共にし、どうやったら本当に「医療崩壊」をさせず命と生活を守るにはどうしたらいいのかを真っ向から訴えるものでした。これはそのまま5・1生きさせろ!メーデーの厚生労働省前行動の中身です。
ぜひ読んでみてほしいと思います。

https://horaguchitomoko.jp/2020/04/21/2221/ 

4月20日の杉並区議会第1回臨時会での反対意見
ほらぐちともこ通信 2020.04.21 
 4月20日の杉並区議会第1回臨時会で、新型コロナウイルス感染症に関する議案と補正予算が審議されました。田中区長は、河北総合・荻窪・佼成・東京衛生の4病院に発熱外来センターを設置し、23億円の区費を投入して病院経営の損失を補填する方針をぶち上げました。これは、①新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止にはならない、②区民の命を守れない、③医療崩壊を防げないと判断しました。(下記は臨時会で述べた反対意見です)

【1】新型コロナウイルス感染症拡大はなぜ起きたのか
 はじめに、新型コロナウイルス感染症対策を考えるにあたって、「現在の状況がどうして生まれたのか」を見る必要があります。「2020年東京オリンピック開催への固執」と「補償なき自粛要請」こそが、感染拡大の最大の原因です。
 今年1月15日に国内最初の感染者が確認されて以降の3ヶ月間を振り返ると、安倍政権と小池都知事は「3月24日のオリンピック延期決定」までコロナ対策を意識的に放棄してきました。労働者民衆には「自粛要請」をする一方、安倍首相は「オリンピックは完全な形で」を連呼。オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長は「マスクをしないで最後まで頑張る」などと発言し、小池都知事に至っては延期決定後も「やっぱりマラソンは東京でやりたい」とコメントする始末でした。
 オリンピック強行開催のために、コロナウイルス検出のためのPCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応検査)を徹底的に抑え込み、ウィルスの影響を矮小化してろくな対策をとってきませんでした。そして医療現場に矛盾を丸投げしたことが、全社会的な感染拡大の現状を生み出したのです。これは「避けられなかった自然現象」では断じてありません。明らかに政治の失策=「人災」です。
 さらに、「休業補償・賃金補償なき自粛要請」は当然にも感染拡大防止策にはなりえず、多くの人々が感染の恐怖におびえながらも、生きるために働きに出なければならない、店を開けざるをえない状況を生み出しています。4月7日に安倍政権は「緊急事態宣言」を発令しましたが、具体的かつ十分な補償がなければ人々の動きは止まりません。当たり前のことです。現在も感染は拡大し続け、医療現場はますます切迫しています。
 「オフィス街、出勤7割減ならず」「50代以下の感染急増」などのニュース見出しはいったい何を示しているでしょうか? 小池都知事がいくら「3密」と言おうが、多くの労働者は今日も満員電車を使って通勤せざるをえません。補償がないからです。生きるためです。杉並区民の感染者の増加原因も、その多くが通勤と労働の過程で起きていると見るべきです。この現実に触れない「感染防止策」「人との接触8割減」など空論です。
「お家にいてください」――できることならみんなそうしたいです。言うべき相手が違うのです。政府と小池都知事に対し、「命と生活を守るために生きられる補償をただちに行え!」と強く何度も突きつけるべきです。オリンピック延期ではなく即時完全中止を要求し、カネ・モノ・人――すべての力を医療支援に集中させ、生きられるだけの休業補償・賃金補償を国や都に求めるべきです。
 加えて、若者、女性、個人事業者などの方々への休業補償、賃金補償、雇用助成金の手続き簡素化など、区としても緊急予算措置を行い、ただちに取り組むべきです。

【2】区内4病院に23億円の区費を投入
 第二に、入院病床拡充と「発熱外来センター」設置についてです。発熱外来センターは必要です。
 しかし、これらは「体制強化補助事業」とされていますが、病院の減収補填にしか見えません。検査、隔離、治療、療養について、区としての責任を病院に丸投げしているとしか見えません。減収補填ではなく、感染症病床の防疫、医療従事者の安全、人員体制の確保に必要な費用をきちんと保障することではないでしょうか。
 4月13日の記者会見での田中区長の、「コロナと闘えば闘うほど病院経営が傾いていく」「だから損失を補填する」という発言からも分かる通り、23億円で病院経営者を救済する策であって、感染拡大防止策でもなければ、地域医療崩壊を食い止めることにつながる政策でもありません。
 河北総合、荻窪、佼成、東京衛生の4病院やコロナ対応に関わる各種現場の声をお聞きしました。A病院関係者からは「“区がカネを出すからそれだけ働け”ということか…と受け止めてしまう」「医療はカネではない」という声を聞きました。B病院関係者は「アメリカのCDC(疾病予防管理センター)がつくったマニュアルに基づいて対応している」とおっしゃいましたが、そのアメリカで医療崩壊が起きていることも直視しなければなりません。“立派なマニュアル”があっても、それを活かせる体制がなければ現場は混乱するだけです。カネを投入すれば医療が拡充されるわけではありません。「平時」にはギリギリの人員体制で回させておいて、「緊急時」にカネを増やせば何とかなる、などということではないのです。現に医療現場では、貧弱な検査体制の中、マスクや防護服などの防疫体制の援助もないまま、必死に患者と向き合う日々が続いています。
 A病院関係者は、「コロナ患者を担当する看護師は家には帰れない。病院が準備したアパートで寝泊まりし、そこと病院との往復だけ。とにかく他の区から『診察してほしい』という電話もあるが、杉並保健所からの要請しか受けないことにしている。私たちの思いは『杉並が医療崩壊になることを防ぐこと』なんです。『医療崩壊』というのは、一つはコロナ患者がさらに増え、これに医療が対応できなくなること。もう一つはそれによって一般の患者さんが締め出されて十分な医療が受けられなくなることだ」と語っています。
 区内の民間救急搬送事業者の声も聞きました。「もう大変だ。いつ崩壊してもおかしくない。政治家は現場のことをまるで分かっていない。私も感染者を搬送している。装備もドライバーも一般的な移送・搬送ではできない。万単位で移送・搬送のプロがいないと対応できなくなる」とのことです。
 このような現状があり、さらに感染拡大が予想される中、4病院だけに負担を押しつけるのでは医療崩壊は必至です。根本的な打開策を立案し、国と都に要求するべきです。
 その上で、4病院で働く労働者、感染病床や発熱外来センターのみならずすべての関連労働者・事業者には、危険手当や宿泊費などの必要経費および賃金が補償されるのは当然のことです。病院の減収を補填して済むことではありません。

【3】発熱外来センターは必要だが杉並区単独で行うことにはリスクがある
 第三に、「発熱外来センター」を杉並区が独自に設置する方針についてです。繰り返しますが、発熱外来センターは必要です。しかし賛成できないのは、医師会任せ・病院任せでは、相当な負担を現場に強いることになり、医療崩壊を生む恐れがあるからです。最大の問題は「杉並区単独で行うことに伴うリスク」です。
 4月13日の田中区長の記者会見がマスコミに取り上げられ、河北総合病院の「発熱外来センター」(=白いテント)の写真が『朝日新聞』に出ていました。現在ある全国の「発熱外来センター」は、多くは一般の方が直接診察を求めてこないシステムになっています。患者さんが殺到し、感染がさらに拡大することを恐れているからだと思います。そのシステムが「なかなか検査・治療を受けられない」という深刻な問題を生み、社会的不安が広がっています。それを打開するためには、検査・隔離が一体となった規模、および感染防止体制を確立した「発熱外来センター」が必要です。
 しかし、4病院にテントを設置し、開業医を派遣することで十分な診察・検査・隔離の体制ができるのでしょうか?4病院に直接行けば診察してもらえると思った方々が区内・都内から殺到したらどうなりますか? 医師、看護師、職員の方々への防疫などのマニュアルや訓練などは誰が責任をとるのでしょうか? 区独自で動くことによるデメリットが大きすぎます。院内感染の危険が高まるのではないでしょうか。“現場が対応できないことをやろうとしている”という印象をぬぐえません。感染が急拡大している現状を鑑みれば、もっと本格的かつ独立して診察・隔離ができるセンターを区の責任で建設すべきです。オリンピックを完全に中止し、オリンピック施設をただちに本格的な新型コロナ肺炎治療のための病院として活用するように国・都と闘うべきです。

【4】「万全の検査体制」と「感染者の療養体制」の構築を
 第四に、PCR検査体制の強化など、区の責任で第一にやるべきことがあるはずです。補正予算案には「電話相談センター拡充」はありますが、「検査の拡充」はありません。他の区では検査体制拡充が大きなテーマになっていますが、杉並区にはまったくないことは異様です。
 現在の危機は、「社会保障費削減」の名の下、公的な医療・福祉・衛生体制がことごとく破壊されてきた中で起きています。「検査」は新型コロナウイルスに限らず、すべての医療・防疫の基礎ですが、こうした基礎の基礎ですら今の日本では体制をつくれていません。いま最も必要なことは、「万全の検査体制」と「感染者の療養体制」の構築です。未知のウィルスとの闘いを通し、これまでの政治が破壊してきた公的医療体制を再確立することです。
 まず、すでにパンクしている保健所の体制を拡充することです。極限まで人員を減らされた保健所は、検査の受け入れを一手に引き受け、完全にパンク状態です。1994年に地域保健法が制定され、1992年時点で全国に852か所あった保健所は2019年には472か所まで減らされました。それまで専任の医師が所長となり、行政権も有していた保健所制度が一気に破壊され、職員の大幅削減が進みました。現在の保健所は保健師一人当たり1万人以上もの住民対応をしなければならない状況であり、このままの体制では検査を拡大することもできません。これらを解決するために、保健所をただちに拡充し、検査にあたる職員全員を正規雇用し、充分な手当を出すべきです。新型コロナウイルス感染者受入先等において区職員が勤務する際の特殊勤務手当で360万円が計上されていますが、1人一日最大4000円ではあまりに低すぎます。
 患者から検体を採取する体制もきわめて重要です。医療従事者を守る防疫装備はまったく足りていません。こうした中でも、海外では自家用車内での検体採取(いわゆるドライブスルー方式)やアクリル板越しの検体採取など、様々な創意工夫をこらした方策が効果を上げています。日本でもこうした検体採取体制を早急に構築すべきです。そして、PCR検査だけでなく、抗体検査を拡大することも大切です。
 感染者の療養体制をつくることは、一体で進めていくべき課題です。補正予算では、「自宅待機者の健康観察用バイタルナビ購入」として、「パルスオキシメーター」100機の購入が予算化されています。軽症の患者は自宅にいて自分で血中酸素濃度を測り、値が悪くなったら連絡しなさいとでも言うのでしょうか。それは絶対に認めることはできません。

【5】 医療従事者の声を聞くべき
 最後に、“形だけの取り組み”ではなく、命がけで新型コロナ肺炎と闘っている現場の医療従事者の意見を聞き、本当にいま必要なことに予算措置を行うべきです。
 服やマスク、手袋、フェイスガードなど防疫装備の社会的確保が必須です。医療崩壊を防ぐために、医療装備の配備と開発・生産は一刻も早く実現するべきです。
 学校や保育所の閉鎖が続けば、医療従事者は早晩職場を離れなければなりません。医療従事者の労働条件は日に日に苛酷になっており、人的確保はますます困難になります。危険手当の拡充や、医療従事者の家族を支える体制など、医療従事者の保護に全力をあげるべきです。
 新型コロナウイルスは病態すら未知の存在です。ウィルスが心臓の筋肉にも感染し心不全を起こした症例や、嗅覚・味覚の異常を訴える症例が次々と発見されています。本当に大変な闘いであり、長期戦です。現場の医療従事者が安心して安全に働ける職場をつくる、職場・地域で安心して生きられるつながりと団結をよみがえらせていく、そして行政と保健所がかつてのような社会的役割を担っていくことで絶対に克服できる課題です。
 そのような時に、公的医療の破壊を強行する行政方針は、絶対に認めるわけにはいきません。今年3月27日には、病床削減に国庫から84億円を補助する予算が成立し、3月31日には東京都が「都立・公社病院の独立行政法人化」を決定しました。医療現場が命がけで感染症と闘っている時に、これが政治のやることでしょうか? 昨年9月に公表された厚生労働省の公的病院25%もの再編計画も大問題です。
 ある都立病院の看護師は、「コロナに関わる医療体制は専門的で、誰でもできるわけではない。重症者には1人に対し何人もの感染者・ICU経験者の看護師を他の病棟から集めて配置。したがって他の病棟を閉めざるをえなくなる。看護師も労働者で、自分の生活のために働いているのに、死の危険にさらされながらマスクや消毒液がないなど、自分たちは『捨て駒』かと考えてしまう」と告発しています。
 4月15日、コロナウイルスと闘うアメリカの医療労働者が一日行動を組織しました。行動のハッシュタグは『#THE SYSTEM IS BROKEN”=「(アメリカの医療)システムは機能していない」』です。「私たちはヒーローでもないし、政府の無策や資本の強欲さのせいで職場で殺されるために働いているのでもない」、「薬品や医療機器の製造から病院や診療所の運営に至るまでのすべてが、億万長者や企業の利益のためにではなく地域のために、公的に行われなければならない」、「利益ではなく患者を優先し、すべての人々がきちんとした医療を受けられるように政府は動かなければならない」と訴えています。
 「看護師は使い捨てのマスクのようなもの。しかし自分の仕事を誇りに思い、愛しているので、患者の看護を続ける」というイタリアの看護師の叫びは、新自由主義がもたらした悲惨な現実に対し、カネより命のために献身的努力を続ける労働者の姿を示しています。
 田中区長は個々の病院経営者を心配するレベルではなく、命と生活を守るために何が必要なのか、もっと大きな視点で社会を見るべきです。
 まとめます。
 一つに、ウィルス感染を拡大させた国と都の責任を問う。
 二つに、「減収補填」ではなく、すべての医療従事者などへの万全の補償を求める。
 三つに、医師会任せ・病院任せの「発熱外来センター」では院内感染や区内の感染拡大を招くなどのリスクが高すぎる。
 四つに、区は真っ先にPCR検査体制と保健所体制を拡充すべきである。
 五つに、公的医療破壊に抗議し、医療従事者などの最前線での闘いと連帯する。
 以上の理由から、議案第48号と補正予算第1号に反対します。

〈ほらぐちともこ事務所〉
〒166-0015 杉並区成田東5-39-11 ビジネスハイツ阿佐ヶ谷603号室
tel.fax.03-3329-8813


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