マスクとシロクマ

この休みに「令和元年の人生ゲーム」を読んだ。主人公の沼田の学生時代から、就職、そしてその後までを描くゆるめの人生ドラマ。

沼田はいつも斜に構えていて、やる気なさそうに描かれてはいるが、最終章では銭湯の4代目の右腕として、豊洲の2号店出店プロジェクトで辣腕を振るい、4代目の絶大な信頼を得る。

沼田は自分が本気で取り組むべき骨のあるテーマがあれば尽力するが、そうではないレベルの仕事ならば、たいして力を入れなくて良い、という割り切った考え方だ。

また、銭湯の4代目とは波長が合ったようだが、それまでは、大学のビジコンサークルのリーダーや、就職先の会社の社長など、上の立場の人の、上っ面だけの聞こえがいい言動の裏にある軽薄さをしっかり見抜いていて、極めてテキトーに付き合っていた。

他の書評を見ると、「沼田のようなZ世代はなぜ働かないのか。」という文脈で書かれているが、たいして面白くない仕事に本気で取り組むのもおかしいと思うので、沼田の行動は自分には正しく見える。

一方、沼田の周囲は「一見本気」「一見真面目」に見えて、人から与えられた「正しいこと」を盲信し、傍目に見ると不毛なことをしていく。

たとえば、ビジコンサークルのリーダーが、”高校生を相手にした起業塾”を起業するとか(それビジネスじゃないだろ。)、シェアハウスの学生たちが「地球温暖化で北極のシロクマが危機に瀕している。シロクマを守ろう!」と言い出し、「我々もシロクマたちの感じている暑さを体験して、シロクマの気持ちを理解しないといけない!」と、自分たちでシロクマの着ぐるみを縫って、おおまじめに着て歩くあたり。

筆者の痛烈な皮肉だろう。

社会的に見て「まじめ」で「正しい」ことは、皮肉りたいくらいバカな行いだ、と筆者は表現している気がする。まじめに「感染対策」でマスクをしている姿は、「我々もシロクマたちの感じている暑さを体験して、シロクマの気持ちを理解しないといけない!」と、シロクマの着ぐるみを大真面目に着ている学生たちの姿となんら違いがない。



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