1年前のこと。

あの日は、確か本当に寒い日だった。その日の朝、はっきりと覚えている。総武線快速、東京駅に到着する寸前。メッセージを受信した。

「今日の夜、飲みながら話そう。」確かそんな内容だった。見た瞬間にあっと察した自分にはそれくらいの記憶しかない。この時にもう大方内容はわかっていた。この感覚は、付き合っていた彼女に別れを告げられるような、そんな似た感覚をその時覚えたからである。入社して3年、ここまで一生懸命駆け抜けてきたつもりだった。そのほとんどのモチベーションは全てここにあった。確かに入社してから違和感は少なからずあった。でも全員が全員そういうわけではない。その先を見据えて、だけれども現状に食らいつき、抗う。そんな人が隣の部屋にいた。本人はどう思っているかわからないが、僕にはそう見えた。僕が今の会社に入った理由は、その人と「出会う」事だったと今は思う。

「いつか一緒に仕事をしよう。」そんな火種から、時には激しく語り合った日もあった。安居酒屋の貴族が集まる場所で。半ば強引に話を進めたような気もしたが、話は日を追うごとに進みもう少しで現実になる。そんな矢先だった。

「じゃあ、いつもの場所で。」そう返信した瞬間にもう最後が見えて少し目が潤んだ。まだ早いと思って噛み殺した感情を右足に託して、長いエスカレーターを駆け上がった。そんな感情を持ち合わせても日中は仕事に追われ、夕方の商談を経ていつもの場所に向かった。やっぱりあの日は寒かった。

「よっ。お疲れ」

先に店に入っていた彼が一言。もう目を合わせる事すらその時は苦手になっていた。本当に面白いもので別れ際のカップルと同じ話の展開。最近どう?とか、苦し紛れの前説が続いた。そんな前説も15分もすれば苦しくなり、突然

「ごめん。」

あー、きた。やっぱそうか。そして、

「一緒に仕事出来ない。期待持たせるような事言って悪かった。」

何も言えなかった。ビールからシフトし、注がれたばっかりの焼酎を飲み干した。飲み干すしかなかった。

「だよね、そんな気がしたんよ。朝連絡来た時からもうそんな気がしてたんだよ。あはははは。」苦しかった、と同時にもう右目は涙が順番待ちだった。

その後、つらつらと理由を聞いて。終わり際のカップルの台詞のような、もったいないよ。とか、もっと違うとこでやれるよ。とかそんな言葉を受け止めた。正確に言うと受け流した。もうその時には感情は溢れ出していて、お店関係なく止めどなく泣いてしまっていた。その時はただ一つ、一緒に仕事したかった。だけ。帰り道も直立する意思を無視して、わんわんと泣いた。とにかく泣いた。部屋に帰ってもとにかく泣いた。次の日会社で目が腫れすぎていて眼科に行ってこいと言われるほどに。

あの日からもうすぐ1年が経とうとする。今年は昨年ほど寒くないなぁ。あの後半年はやり場もなく過ごして、その後半年は変わろうと抗ってみた。けど、結局今変われてない。悔しいけど、これが自分だし、これしか自分だとも思ってる。あの日以来、なんだか凄く気まずくなってしまって少し疎遠になってしまった。いつか後悔させてやる、なんて反抗心も少しある。けど、1年経っても自分が何をしたいのか、どこに向かって生きていきたいのかもわかってない。この感情のループを止められない。止めたいのに。

あの日以来、あのお店には行けなくなった。コの字カウンターの安居酒屋。いつかまた2人で行きたいなぁ、お互いが胸張って笑い合える日が来るとしたら。


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