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大切に読み返したいものたち

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夢売り人への手紙

夢売り人への手紙

 姉は映画が好きだった。「いつか立てるかも知れない」という一抹の希望とともに彼女は様々な治療を受け、その過程で徐々に失望し、やがてそれは絶望に変わった。「自力で立てる日は来ない」と誰も明言しないが自明であった。生きるほど姉の希死念慮は募り、絶望と正対せずに済む没入の時間を必要とした。

 同じ映画を幾度も繰り返し鑑賞した。映画の制作秘話、演出の裏話、俳優のゴシップも全部ひっくるめて、姉にとっては養

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