見出し画像

旅行動画の"意義"についての考察~ニコニコ動画・『日帰り旅行祭』の経験から~

【導入】「日帰り旅行祭」という投稿企画

初めての方は初めまして。いきねばと申します。

さて、あなたは旅が好きですか?私は大好きです。

そんな旅に関する企画「日帰り旅行祭」が開催されました。

日帰り旅行祭とは何ぞや?と思った、そこのあなた。
ご安心ください、まずは前提の話から始めていきます。

そもそも、ニコニコ動画における「祭り(=投稿祭)」とは何か、という説明から始めたい。祭りの一連の流れを自分なりに解釈、下記のように箇条書きしてみました。

・ユーザー(主催者)を中心に発案
・ルールの設定(テーマやレギュレーション、参加条件等)
・他の動画投稿者に動画投稿を呼びかける
・賛同投稿者が、特定期間に動画を投稿

祭りとは?(いきねば の考える定義)

これら企画を指して「祭り」と呼んでいる。祭りのように盛り上げたい、という意図を込めてそう呼ばれ始めたのかもしれない…知らんけど。いわば「動画投稿を促進するイベント」といったところでしょうか。

つまり、「日帰り旅行祭」とは、「各々の動画投稿者が日帰り旅行を行い、その動画を投稿しあうイベント」のことですね。

気になった方、詳細を知りたい方は告知動画をご覧ください。

さてさて、私はこの企画を知ったとき、「参加してみたい!」と思い、すぐさま動画を作成、そして投稿。また、一人の視聴者として、他の投稿者の動画も複数拝見。レベルの高い動画ばかりで、投稿動画を何十本と見返しておりました。

主催者(フミ氏)発表によると、日帰り動画祭の投稿数は271件もあったようで、想定以上の大盛況であったことが伺えます。

【疑問】投稿者は”なぜ”旅行動画を投稿するのか?

さて、我々はどうして旅行動画を投稿するのだろうか。「旅行を見てもらいたい!」だとか、「この界隈(音声合成ソフト、または旅行や近接ジャンルと考えられる車載やアウトドア系を想定)を盛り上げたい!」等、他にも何かしらの動機が考えられるものと思われます。

【解決】動画制作に意義があるのでは…?

で、各々の動機から、旅行動画作成に興じています。良い言葉が浮かばないくて申し訳ないけれど、本当に凄いことだと思います。

皆、貴重な時間を投じて作成しているのだから、何か意義のある行為に繋がっているといいな、とも思ったりしたわけです。

だって、祭りを開催して、それだけで終わりってのも味気ないじゃないですか!何かしら影響とか足跡とか、残った方がいいじゃないですか!

実際のところ、論ずるほどの重要な内容ではないかもしれないです。ただ、このジャンル初投稿者なりに考えた素人の目線として、その意義を書き記したい・・・という熱意、旅行動画制作者への敬意を文章に込めたい、そんな思いから筆を取るに至りました。

"旅行"の定義

まず旅行とは何かを定義したい。
旅行とは、「住んでいる土地を離れ目的地に行くこと」ではないか、と私は考えています。

旅行と似た用語として、「旅」があります。
「旅行」と「旅」の両者には、若干ニュアンスが異なる用語であります。旅行は計画性があり、旅は自由気ままに巡る等々・・・調べた限りでも、違いがあることは明白です。ただ、どちらの用語にも「住んでいる土地を離れ目的地に行くこと」という意味は、共通しているように思います。

今回は、この章で定義した意味が重要です。旅行と旅、どちらも同じ意味とみなします。

”旅行動画”の定義

で、旅行動画とは何ぞや?という話も簡単にしておきたい。

旅行動画とは、「旅行で得た映像や写真、経験、体験を基にして、動画というフォーマットに落としこんだもの」と定義させていただきます。そんな旅行動画、日帰り旅行祭という企画においても、紹介方法も多様でした。なぜ多様になったのかも含め、後ほどご説明させていただきます。

意義について

では、この章から旅行動画の意義について述べていきます。ここからがこの記事の核心部分です。私、いきねばの日帰り旅行祭を通じての経験と知識を整理して思うところに、旅行動画には、3つの意義があるのではないか、と考えています。

1.旅行地の共有とその促進

旅行動画の意義として考えられるのが、観光地の情報共有が、旅行を促す効果を生む効果でしょうか。今回参加した「日帰り旅行祭」の告知動画でも、主催者が同じ趣旨のことをアナウンスされていたはずで、企画の柱であったと思われます。

旅行動画が旅行を生む

まずは、旅行動画が旅行を促す一連の流れについて、箇条書きでまとめてみようと思います。

(1)投稿者:旅行先を選ぶ
(2)投稿者:現地で経験や体験を得る
(3)投稿者:思い思いの視点で動画を作成
(4)投稿者:動画共有サイトに投稿、またはtwitter拡散
(5)視聴者:動画を視聴
(6)視聴者:旅行先情報の取得、訪問時の参考に

旅行動画が旅行を生む構図(いきねば の想定)

上記の流れから読み取れることは、投稿者と視聴者で異なるものと考えられます。

<投稿者>
投稿者は旅行先で得た経験、体験から、動画として情報発信する役割を有している点
であります。投稿者が(3)の動画制作の過程で、自らの経験、体験を旅行地に付与することで「価値」を創出するよう、努めるものと考えられます。ユニークな表現として出力されるほど、差別化が起こり価値は増大していきます。これは「ブランド」と言い換えてもいいかもしれません。

<視聴者>
視聴者
は動画を介して、①旅行地の情報共有を図ります。
先に述べたように、動画それ自体にブランドが付与されています。視聴者の価値感や選好と一致したブランドの動画を視聴したのであれば、対象旅行地は好印象を持たれ、数ある旅行地選定の際に優位に立つことが想定されます。

また、視聴者は②その収集にかかるコストの軽減の恩恵を受けます
動画投稿者が動画を編集するにあたり、取得した素材(動画や画像)や情報は、(3)の段階で必然的に取捨選択がなされます。(5)の段階ではまとめられた状態となっています。収拾にかかるコストが軽減し、旅行する障壁を下げる効果が見込まれます。

①と②の効果から、視聴者が旅先を訪れたと仮定、価値観や選考と一致した観光地であれば、旅行先の満足度も高くなることが推定されます

私見ではありますが、視聴者が別の角度で旅行の経験を得て、新たな動画制作行為につなげていく。そして投稿者を生む好循環となれば、理想的だなぁ…と思いました。

旅行先の見える化と動画旅マップ

ところで、ニコニコ動画には、「動画旅マップ」というサービスがあります。このサービス、旅行先情報の収集コストを軽減に寄与しているものと考えられます。

動画旅マップは、GoogleMap上に、動画で紹介された旅先をマッピングしていく試みのサービスで、今回の企画でもコラボが告知されていました。

このような旅先候補地のインデックス化は、候補地の場所や距離感を視覚的に、直観的に理解することが促される効果を持ちます。土地勘のない場所であれば、動画本編や説明欄、タグだけでは、なかなか理解が進まないことも多いためです。

動画共有がもたらす効果に加え、それを支援するシステムの存在は、旅先選定のコストを下げ、旅行動画が旅行を生む原動力となることが期待されます。

2.新たな旅行動画・文化の創出

次に考えたいのが、旅行動画を通じて新たな文化が生まれてゆくのではないか、という期待であります。

無編集動画とニコニコ動画

今回は、ニコニコ動画の旅行動画と、その隣接分野(アウトドア系を想定)に焦点を当てて述べていきたい。というのも、旅行単体では成立しづらく、「旅行+○○」のような、他ジャンルとの兼合いが多いと考えています。車載動画、バイク、自転車、キャンプ、登山などでしょうか。アウトドアとは異なりますが、鉄道旅というぐらいなので、鉄道も含まれるのかな。

例を挙げるとすると、車載であれば、従来は旅行先の映像や画像を淡々と紹介する動画、たとえば、国道を起点から終点まで丁寧にトレースした車載動画・・・みたいな動画が主流だった記憶があります。テキストや音声はあっても、簡単な演出、補助的な役割でありました。

つまり、無編集映像を主とした動画。そのウェイトが大きかったように思っています。厳密にいえば、無編集ではないことは注意したい。あくまで映像がメインという意味です。このような動画も個人的には好きだけど。

ただ、この無編集映像、ニコニコ動画で視聴するユーザーはかなり限られていると考えられます。そもそも論として、映像を目的に視聴しているのであれば、視聴者は「なるべく綺麗な画質で見たい!」と考えるはずだからです。宗教上の理由で、ニコニコ動画しか観れないという方がいた場合、すみません。

で、画質は各動画共有サイトのフォーマットで決まります。
それぞれ、投稿可能なフォーマットの上限値が決まっているからです。仮にニコニコ動画とYouTubeを比較した場合、より高解像度で投稿可能なYouTubeに軍配が上がるでしょう。

つまり、ニコニコ動画で、無編集映像が主の動画を投稿するメリットは、限定的であると評価せざるを得ないです。視聴者から見た場合も、他の動画共有サイトを選択するものと考えられます。

そのため、ニコニコ動画の投稿者は、別のアプローチで動画を魅せることに迫られます。

アウトドア系動画に音声合成ソフトの流入

いつからか、旅行動画を含めたアウトドア系動画に変化がありました。「音声合成ソフト」、とりわけ「テキスト読み上げ技術」を用いた動画が増加したことでしょうか。顔出しを良しとしない文化であるからこそ、興った文化でもあります。

テキスト読み上げ系の音声合成というと、いわゆる「ゆっくり(SofTalk)」だとか、ある場所では「VOICEROID」だったり、「CeVIO」、「CoeFont」、ずんだもんで有名な「VOICEVOX」、「COEIROINK」等々があります。書ききれないほど、いっぱい…いっぱい種類があります/(^o^)\

なので、このブログではこれら全てを、仮に「音声合成ソフト」と呼称します。ちなみに今回の企画も、これらソフトの利用を条件としています。記事のサムネは琴葉茜ちゃんです。関西弁で喋ってくれます。かわいいね。

合成音声ソフトの語りが映像に価値を与える

で、旅行動画に話を戻すと、音声合成ソフトから派生したキャラクターらによって、動画が創造されていきます。キャラクターが説明、他愛のない会話、掛け合いをしながら、動画が進められていきます。
このキャラクターが”語る”ことが、映像に価値を与える行為であり、物語を生んでいると考えられます。

キャラクターが”語る”ことに、重要な意味を見出せそうです。以前、車載動画に関する記事を読んだとき、面白い例えがあったのを思い出しました。確か、自分が助手席?後部座席?に乗せてもらっている感覚、と表現している記事であった、とおぼろげながら浮かんできたんです(環境大臣リスペクト)。「助手席」という比喩が表すものは、視聴者が気兼ねなくその動画を視聴、または親しみやすさを与えていることを示唆したものと言えそうです。

要は、合成音声ソフトのキャラクターが、投稿者と視聴者の間に介し、代理人の役割を果たすことで、抵抗なく視聴することが考えられます。

まとめると、旅行での体験で得た”語り”は、それら音声合成のキャラクターを通じて、新たな価値を付与された”語り”となり、新たな物語として再構築されると考えています。

音声合成ソフトが繋ぐ、他ジャンル文化との融合

この音声合成を用いた再構築の営み。ニコニコ動画にはそういった音声合成文化が根付いています。そして、音声合成文化は他のジャンルからの流入を助け、文化的な融合を促進する効果を持っていると考えています。

実際に、日帰り旅行祭はこの動きが顕著であったように思います。私が視聴した動画の中には、旅行ジャンルは初投稿で、普段はのジャンルで活躍されている投稿者もいらっしゃいました。ジャンル違いの投稿者の流入が、「旅行動画はこういった動画だ!」といった固定概念をぶち壊し、マンネリ化を防ぐのではないだろうか。

繰り返しとなりますが、旅行単体では成立しづらい。「旅行+○○」のような、他ジャンルとの兼合いが多いことを触れました。旅行ジャンル自体にも、多ジャンルを受け入れる風土があるのではないでしょうか。

ジャンルが異なる投稿者の視点、動画の演出、意外な掛け合わせが切っ掛けで、新たな発想の動画が生まれたりしないだろうか。クレオール文化みたく、新たな文化を生む原動力となることが期待されます。

3.当時の記録資料としての価値

3つ目は、その動画が後に資料的な価値が残るのではないか、と考えています。ウィスキーに例えるなら、醸造してからすぐに生まれる新酒ではなく、長い期間寝かせるからこそ生まれる熟成酒のような、そんな価値に期待を寄せています。

想定の効果と動画の役割

ここでは、作成された旅行動画が数年後経過したときの効果として、下記を想定しています。

・時代の変化を心情的に振り返る、懐古するためのアルバムとして
・撮影地の変化など、過去と現在の比較資料として
・当時の世相や社会の雰囲気を掴む資料として

想定されうる利用例(いきねば の想定)

そもそも、動画という媒体は、情報量を多く残すことができるメディアです。動く映像は当時の雰囲気を、その場所の情報を切り取り、データとして保存することが可能です。直近の出来事であれば想像していただきたい。視聴している動画、その観光地を訪れたようだが、すれ違う人が皆マスクを着けている。この動画を視聴した未来人は、何を思い、何を考えるのだろうか。

他メディアと比べてみて

個人で情報を残すのであれば、SNSやブログといった、他のインターネットメディアを用いるのはどうだろうか。

Twitterであれば、旅行のログがリアルタイムで時系列に蓄積されていくし、容易に扱うことができる。ブログは、Twitterほどのリアルタイム性は持っていない。ただ、その短所を補う機能は持っており、文字や画像として情報を体系的に、詳細に残すことが可能です。

両者とも、文字媒体が主であるため、検索性も高い。そのため、旅行情報を残す媒体としては、SNSやブログも有効的であることは変わりない。

動画の可能性

動画にも希望があるのではないかと考えています。
動画の強みは、空間を切り取ることができることです。文字として書き記す、1つの画面を切り取る画像以上に、動画は多くの情報量を残す。そういった点で、動画の利点も大きい。

で、動画として残すことで見返したときに、当時の映像が現在を比較する指標となることに期待したい。

もっとも、数年後のことなど、予想しあうことは楽しいことではありますが、蓋を開けてみないと誰も分からないです。タイムカプセルに、当時好きだった玩具を入れて埋めたぐらいの心持ちで待つことにしたい。

まとめ

ここまで旅行動画の意義について述べてきました。

旅行動画が動画共有サイトに投稿されることで、
①旅行地の共有とその促進、②新たな旅行動画・文化の創出、③当時の記録資料としての価値という観点から、その意義が見いだされるのではないかと考えています。考慮すべき点があるとすれば、ニコニコ動画での経験を基に書いたことでしょうか。②の章などの内容は、YouTubeに代表される他動画共有サイトで活躍されている方には、それほど参考にならないかもです…

ともあれ、この記事が動画投稿者の一助になれば幸いです。

そして最後に言いたいことは
みんなも、旅行動画を作ろう!私も作ったんだからさ(呪い)

余談

今回動画、マイナーなテーマにもかかわらず、再生、コメント他をいただけたことに満足しているようで、機会があれば旅行ジャンルの動画を作成しよう、と企んでいるようです。この場を借りて、ご視聴いただいた方、ありがとうございました。↓↓↓

参考文献

  • 小西卓三・松本健太郎編『メディアとメッセージ 社会のなかのコミュニケーション』ナカニシヤ出版(2021)

  • 萬代伸哉『バックパッカー 体験の社会学』公人の友社(2020)

いいなと思ったら応援しよう!