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狭くても暗くてもできる 生きものと楽しく暮らすオフィスデザイン〜計画編〜

たった4畳の事務所。開け閉めが特殊で、霞んだガラスの小さい窓。網戸はない。ベランダやテラスもない。

こんなに狭くて日当たりが悪い難ありの部屋でも、生きものと楽しく暮らせるのか——。

「都市部でも生きものと楽しく健康に暮らす」をビジョンに掲げる当社は、この状況に挑戦するべく、2024年4月に東京・世田谷にあるシェアオフィスの小さなこの一区画を契約しました。

これから数回に渡って、このプロジェクトの様子をお届けします。

このプロジェクトを通じて、都市部でも植物に囲まれて暮らしたい人に

  • 好きな暮らしは、自分でつくることができる

  • 工夫すればどんな場所でも生きものと暮らすことができる

  • 植物は「鑑賞」以外の楽しみ方がある

の3つをお伝えできたらと思います。

また、狭小オフィスを構える方や、小さな店舗をつくろうと考えている方のお役にも立てたら嬉しいです。
(執筆:株式会社生きものと暮らす 永瀬もなみ)

入居当時の写真

まず、結論

「日光のあまり入ってこないこの狭い部屋で、本当に生きものと暮らせるのか?楽しめるのか?!」を検証していくこのプロジェクト。
約3カ月かけてDIYで改装した結果をお伝えすると、

最高の事務所になりました。

7月12日時点の様子。家具はDIYで制作。シンボルツリーはゲットウ。

毎日、事務所に行くのが楽しくて仕方ありません。

これまで植物をうまく育てられない性格だった私ですが、環境を整えるだけでうまくやれているので、環境づくりは習慣や行動を変えることに良い影響を与えるのだと体験として学びました。
ぜひたくさんの人に遊びに来ていただけると嬉しいです。

プロジェクトの全体プロセス

4月16日に入居し、3カ月かけて進めてきたプロセスの全体像は以下の通りです。
振り返ってみると、大まかに計画編と実行編に分かれていました。

Ⅰ.計画編

1.実現したいイメージをおおまかに考える
2.協力者に声をかける
3.大切にしたいことを明確にする
4.制約・条件を整理する
5.訪れる人のストーリーを考える
6.協力メンバーとの打ち合わせ・コンセプトを決定する
7.実行前の最終確認

Ⅱ.実行編

8.実行①(大型のもの)
 └床
 └家具(机・棚)
 └植物
 └インテリア
9.実行②(小さいもの)
 └家具(椅子)
 └小物・収納等
10.活動開始

ここから、「計画編」のそれぞれを詳しく説明します。
「実行編」はまた後日noteでアップします。

1.実現したいイメージをおおまかに考える

最初に行ったのは、「実現したいイメージをおおまかに考える」です。

当初、事務所を構える目的はただ一つで、宅地建物取引業(宅建業)を開始するためでした。
宅建業を開始するには、さまざまな条件をクリアする必要があります。そのうちの一つが、「個室を持つ」。コワーキングスペースで登記だけするとか、自宅もかねたワンルームアパートなどでは、宅建業は開始できません。

さまざま物件を探し、法人登記と宅建業を許可してくれる安価な場所として、現在のシェアオフィスを見つけました。

当初の目的は宅建業申請ただ一つだったので、正直、個室があればただそれで十分です。
実際、不動産業で開業する一人経営者の多くが、宅建業だけのために契約したマンションの一室に机と椅子、PCと電話を置くだけ、という話を、私は多々耳にしていました。

しかし、私はそれだけだとつまらないと感じていました。
せっかく自分の事務所を構えるのだから、何かしたい。

そこで、会社のビジョン「都市部で生きものと楽しく健康に暮らす」を体現する場をつくろうと考えました。
(大企業や飲食店・小売店であれば、ブランディングを意識したオフィス・店舗づくりはあたりまえのことかもしれませんが、不動産業界の一人経営者の会社では、ほとんと聞いたことがなかったので、試みることにしました)

本当はペット可の物件で契約したかったのですが、予算とスケジュールの兼ね合いで断念。
そのため、この事務所では「植物と暮らす」を楽しむ空間にしようとイメージしはじめました。

2.協力者に声をかける

次に、協力者を集めました。当社は、「生きもの」を共通項にもつ人と人、まちをつなげるハブ的役割を担いたいという思いがあります。
そこで、今回のプロジェクトから、誰かを巻き込もうと決めていました。
そこでお声がけした方が2名います。

一人目は金子 結花 さん。

金子 結花(かねこ ゆか)野原デザイナー 1986年 東京生まれ。慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科修了。 造園設計やランドスケープ設計の職を経て、株式会社フォルクにてシモキタ園藝部の立ち上げとシモキタのはら広場の植栽設計に携わる。その後、シモキタ園藝部へ転職し、ワイルドティーと天然蜂蜜の店「シモキタ園藝部 ちゃや herbs & honey」の企画とマネージャーを担当しつつ野原の管理を続けながら、2024年野びる舎設立。

金子さんは、グリーンのプロ。初めて彼女の職場に訪問したとき、畑で摘んだばかりのヨモギの葉でお茶を入れてくれたことに感激。当社もお客さまに、そんなおもてなしをしたいと一目惚れしました。

二人目は、永瀬智基さん。

永瀬智基(ながせ ともき) 永瀬智基建築設計事務所代表 SUEP.の建築家で2022年に独立。戸建住宅や集合住宅などの住居系プロジェクトを中心に設計活動を行う。

永瀬さんは、建築士。風力や太陽光などの自然エネルギーをうまく利用した建築を得意としています。本来は住宅や公共建築の設計がメインですが、今回は特別にボランティアで手伝ってくれました。

協力者はこの2名です。
全体の企画は生きものと暮らす自身が行います。植物には植物のプロに、内装のことは建築のプロに知見をいただきながら進めていきます。

3.大切にしたいことを明確にする

3人でプロジェクトを進めていくにあたって、ゴール設定を明確にしておく必要があると考えました。目的地を共有しておかないと、それぞれが違う方向に向かい、ゴールにたどり着けないからです。

そこで、3人で行う初回ミーティングまでに、私自身がこの事務所プロジェクトで叶えたいことを明確にし、言語化しておきました。その一部をご紹介します。

・事務所の一室を通して、立地や広さ、賃貸や持ち家などの条件に関係なく生きものと暮らせると発信する

・生きものとの暮らしが楽しいものだと発信する

・特別な場所でなくても、工夫次第で生きものと生活できると伝える。(その為にはまず、私がここで楽しむ必要があると思っている)

・本件に関わるメンバーの方自身も、せっかくなら、この場この機会を通してやりたいことを実験してほしい …etc

4.制約・条件を整理する

次に、制約や条件を整理しておきました。シェアオフィスの利用規約や立地・広さ、必ず用意しなければならないもの、優先したいことなどを一覧にまとめました。また、このタイミングで予算感も決めておきました。一部をご紹介します。

・賃貸である、退去時に原状回復が必要である

・共有部に物は置けないなどのビルのルールがある

・部屋は7.56㎡、一旦は一人で入居(今後スタッフ増えるかも)

・窓は防火用の内倒し窓、霞ガラス、開閉が難儀(一発で閉まらない)

・宅建業申請のために必須なものがある(応接用の机と椅子、固定電話、ドアサインなど)。それらを用意でき次第、すぐに免許申請したいので家具を最優先で用意する

・窓の開閉が特殊かつ内開きのため、窓の前に荷物は置けない

・予算は人件費も合わせて20万〜40万以内に抑えたい …etc

5.訪れる人のストーリーを考える★ポイント★

プロジェクトメンバーでの打ち合わせ前に行ったことの中で一番のポイントと言えば、この「訪れる人のストーリーを考える」です。

ここでは、当社事務所に訪れる人に体験してほしい具体的なことや、感じてほしい理想のシナリオを表にまとめました。

マーケティング用語の「カスタマージャーニーマップ」や「ストーリーマッピング」が近いかもしれません。

まず、事務所の来訪者の属性を書き出します。

・当社不動産仲介を利用のお客さま(犬猫などのペット飼育者)

・当社に興味を持ってくれる不動産屋やペット関連企業やグリーンショップ

・空き家所有者や地主、大家などの物件オーナー

・不動産仲介以外のサービスや、イベント開催時のお客さま

・地域の人、友人・知人

次に、この方々に対して当社が伝えたいことを書き出します。

当社は、「都市部で生きものと楽しく健康に暮らす」を叶える取り組みをするので、言葉以外でこのことをわかりやすく直感的に伝えたいと考えました。

また、この事務所づくりのプロセスや工夫点を知ったり体験してもらうことで、当社のミッション「責任を持つすべての人が望む場所で望む暮らしを叶える環境と仕組みをつくる」についても感じてもらいたい、という願いもありました。

この後、ようやくシナリオ作成です。
お客さまに体験してほしい気持ちや行動を書き出し、それを実現するにはどんな事務所で何を置くとよいか、予想できうる構成要素を書き出してみました。

シナリオワークシート(モザイクをかけています)

ここでは、「こうなったらいやだなあ」というバッドシナリオや「下手するとこうなってしまうかも」のような懸念点もいくつか上げておきました。
これを携え、協力メンバーとの打ち合わせに臨みます。

6.協力メンバーとの打ち合わせ

打ち合わせは、全部で3回行いました。

第1回はブレスト。
実現可能かどうかは脇に置き、どんどんアイデアを出していきました。協力者の2人には空っぽの事務所を実際に見てもらい、ここがどんな場になると、当社の伝えたいことが伝わるのか、やりたいことが実現できるのか、イメージを膨らませていきます。

楽しい雰囲気の打ち合わせ

第2回はディスカッション。
改めて目的の再確認と、第1回の打ち合わせ内容で出たアイデアから優先順位をつけた上で考えてきた企画書をもとに話し合いました。
この打ち合わせを経て、コンセプトが決まりました。後述します。

金子さんの職場に訪問して打ち合わせもしました

第3回の打ち合わせでは、永瀬さんがコンセプトに沿って作ってくれた設計図のCGをもとにデザインの最終調整。

ボランティアとは思えない高品質CG(モザイクかけています)

CG、かっこよすぎてしびれました。
植物を置く場所は窓からの日光が一番よく当たる場所にしたいので、植物の生育環境を配慮した家具デザインについて、金子さんから意見をもらいながら確定していきます。

金子さんも、予算感に合わせた植栽の種類や数の提案、植木鉢のデザインや花瓶の選定をしてくれました。
植物選びは、鑑賞だけでなく、五感で楽しめるものを選びます。
後日別のnoteで、植木屋での買い出しの様子を紹介します。

コンセプト決定

第2回の打ち合わせの後、コンセプトが決まりました。
ここでは、そのコンセプトの概要とその決め方について紹介します。

事務所タイトル:生きものと暮らすオープンラボ

メインコンセプト:生きものとの暮らしを実験し発信する場。鑑賞するだけではない植物の楽しみ方を知る場。

サブコンセプト:賃貸・省スペースで楽しむモデルルーム

事務所にタイトルをつけた理由は、呼びやすくするため・記憶に残りやすくするため・訴求内容を明確にするためです。

このコンセプトにしようと意思決定した際、意識したことが3つあります。

1つは、この狭い部屋でも生きものとの共生ができ楽しめることを、シンプルに体現しよう、ということです。
どのアイデアも素敵だったので、やる・やらないの決断をするのはとても心苦しい思いでした。
しかし、あれもこれもになってしまうと、結局なにも伝わらないものになってしまいます。
足し算ではなく引き算。一つ一つの植物を置く理由が、スッと伝わりやすいように、そぎ落として考えることにしました。

2つ目は、この会社は生きものとの身近な暮らしに関する、さまざま仮説検証を繰り返していく会社になりそうだ、ということ。
生きものとの共生環境・仕組みづくりを、地域をまきこんでやっていくという、挑戦をしていくことになります。
さまざま調査や仮説検証をしていくことになりますので、その雰囲気を伝えられる、このラボ的方向性にしたいと考えました。

そして3つ目は、賃貸住宅でできることをしよう、ということです。
オフィスは賃貸といえども、施工会社を入れて改装することはよくあります。
私も、最初はフロアカーペットを剥いたり、壁に穴を開けようと考えました。
しかし「賃貸住宅」だと仮定して施工したほうが、今後当社の展開予定である賃貸仲介サービスのお客さまへの話題も増えるだろうと思い、施工は工事業者を入れず、すべて自分たちですることを決めました。

7.実行前の最終確認

さあ、計画編の最後です。
実際に家具を用意する・植物を置いていく前の、最終確認です。

「4.制約・条件を整理する」で書いたように、今回のプロジェクトでは家具を優先的に進めます。

家具は、DIYでつくります。
EMARFというサービスを利用しました。家具の設計データをこのサイトに入稿すれば、その通りに木材を切って配送してくれるサービスです。つまり、自分たちでするのは家具の設計と組み立てのみ。

DIYで家具をつくる理由は、この場づくりを全力で楽しみ、「自分で叶えたい暮らしは自分でつくる」を体現したかったからです。

事務所にぴったりあうサイズで家具を設計するので、部屋の採寸をし直したり、椅子と机の高さを何センチにするか計測したり、立ち上がったときに頭がぶつからない棚の幅を計測したりして、家具の設計に反映させました。

立ったり座ったりして、頭が当たる位置を確認。シュールな図です。

計画編のまとめ〜“オープンラボ”に込めた思い〜

どんな場所でも生きものと楽しく暮らせる環境と仕組みを検証するこの事務所プロジェクト。計画を終えて、次は実行に移っていきます。

本記事のまとめとして、今回設定した事務所のタイトル「生きものと暮らすオープンラボ」に込めた思いを綴って、筆を置きたいと思います。

「オープンラボ」とは通常、大学の研究室の個室と個室の壁を、物理的にも心理的にも取り払い、研究者同士が交流し、新しいイノベーションを起こすことを目指した施策です。

当社も、このスタイルを取り入れたいと考えました。
この事務所を、地域やインターネット上に開く。そして、さまざまな人がこの場を通じてまじわることで、新たな学びや発見が相互に得られる仲間が見つかる。
そんな場にできたらと思いました。

また、事務所を「ラボ」、つまり研究所と称したのも、その名の通り実験や検証をしていきたいと考えているからです。
狭くても、日当たりが悪くても、風通しが悪くても、育つ植物は何か、あるいはどう楽しめるのか実験する。
この場を使って、狭い住まいでも一人暮らしでも高齢者でも、植物と楽しめる仕組みを模索する。
そんなことが、ここから発信できたらと思います。

本を読めば、日陰でも育つ植物や外でしか育たない植物も、すぐわかる時代です。
ですが、それをあえて体験してみる。目で見て、この場でやってみる。実験ですから、失敗も多くあるでしょう。でも、失敗からは多くのことを学べます。そんな挑戦の様子を、この場から届けられたらと思います。

注:なお、当社は「植物を育てよう」「ペットを飼おう」と、安易に推奨する会社ではありません。生きものと暮らすことは、責任が伴います。適正に飼育・育成されない生きものは、その生きもの自身はもちろん、飼い主も、わらにはその周辺住民をも不幸にします。
当社は、生きものと暮らす幸福だけではなく、責任や苦労を知った上で生きものとの暮らしを選択する方の、背中を押す存在でありたいと思います。

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