\生き方見本市2018KOBEレポート/ セッション1 A【食べることはよく生きること】
大変長らくお待たせいたしました!!
昨年12/9(日)に開催された生き方見本市2018KOBEのレポートが完成いたしました!!
当日はセッション1~3に分かれ、各セッションA~Cの3テーマ、全9つのテーマがありました!
ご来場いただけなかった方や、聞けなかったテーマの内容を知りたかったという方もたくさんいらっしゃると思います。
これからテーマごとに随時更新していきますので、12月のさまざまな出会いを味わってください◎
セッション1
A【食べることはよく生きること】
■ゲスト
関奈央弥 京丹波市地域おこし協力隊 / 管理栄養士
井上健吾 梅本農場
竹本愛 Love’s Gallery代表
■コーディネーター
藤本遼 尼崎ENGAWA化計画代表 / 場を編む人
(上写真:左から藤本さん、関さん、井上さん、竹本さん)
ゲスト紹介
関奈央弥さん|食育ってどういうこと?
海の京都と呼ばれる京丹後市の地域おこし協力隊に関さんが入ったのは2018年からだという。京丹後市地域おこし協力隊と管理栄養士の二足の草鞋(わらじ)を履く関さんが管理栄養士を目指したのは高校一年生の頃。
「本当はサッカー選手になりたかったんです。でも高校に入って自分にはサッカー選手は無理だなっと思って。でもサッカーは大好きだったんでどうにかしてサッカーに関わる仕事はないかなと考え、選手の栄養面をサポートする管理栄養士になろうと決めました。」
管理栄養士の仕事をしていく中で「食育」という言葉に出会い、子供たちに栄養指導をしたいと思うように。小学校の授業で地産地消について子どもたちに話していく中で、彼らもだんだん地産地消のメリットやデメリットなどすらすらと挙げることができるようになっていった。しかし、暗記したことを話すような子どもたちを見てハッとした。
「地産地消の良いところとして、生産者の顔を見ることができるというのはわかったけれど、実際自分たちは農家さんの顔を見に行ったことがない!」
このことをきっかけに関さんは実際に農家さんに会いに行くようになり、授業のスタイルも変えていった。実際に農家さんに会いに行ったからこそわかる“野菜作りのストーリー”がある。それを子供たちに伝えたところ、苦手な野菜も進んで食べるようになったという。
「今まで、栄養士として栄養素について丁寧に伝えても伝わらなかったので、本当に驚きでした。」子どもたちへの食育から、自身が開催する丹後バルについてもお話してくださった。
井上健吾さん|ITから農業!?
梅本農場は京都府の最北端に位置する京丹後市にある。無農薬・無化学肥料で年間150種類の野菜を栽培している有機栽培が特徴の農場だ。井上さんが京丹後市に移住してきたのは2017年。社会人1年目で鬱病になったのが移住のきっかけだった。
「組織で働くことや自らの生活について改めて考えた時、多くの疑問と違和感が浮かんだんです。そしてそれが浮かんだ時にはすでに移住と転職を考えていました。」と、はにかみながら語ってくださった。
移住の下見のため京丹後市にやってきた時に、畑の側にこんもりと盛られた栄養分を溜め込んだ土を見てハッとしたという。
「時間はかかるけれど無駄なく循環していく自然に心奪われました。」
現在は、ただ農家になって野菜を作って終わりではなく、いかに多くの人に身近に野菜を感じてもらえるかを意識して活動している。ご自身が鬱病に苦しんでいた時に感じた食事の大切さ、そして農業の魅力についてお話ししてくださった。
竹本愛さん|答えは結局愛なのだ!
Love’s Gallery代表の竹本愛さん。元々は神戸で小さなフェアトレードショップを経営していた。その傍ら、通訳業でインドネシアに移住したのが全ての始まりである。カポポサン島という現地のインドネシア人も知らないほど小さな島と出会った。カポポサン島の産業は漁、とりわけダイナマイト漁が主流だった。簡単に魚を捕ることの出来るダイナマイト漁は、一方で美しいサンゴ礁を破壊してしまう。しかし、海を破壊してまで行うダイナマイト漁で捕った魚の買値はいつも不安定で島の人達の生活はひっ迫していた。
「島の人達が安定して生活費を稼ぐことができて、尚且つ島の海を破壊しないようにするためにはどうしたらいいのだろう?」
そう考えた竹本さんが注目したのが、島に自生するココナッツだった。この島のココナッツオイルをフェアトレード商品として買い取り始め、次第にダイナマイト漁は減少していき、島の人達の生活は安定していった。今ではココナッツオイルの商品が島の特産品となるほどだ。
「今までカポポサン島はインドネシア人も知らないような、地図にも載らない島だったんです。でも最近になってグーグルの地図を開いたら載ってたんです!島に訪れるたくさんの観光客の方たちが発信してくださったおかげですね。本当に嬉しいです。」と笑顔で語った。
食をどう暮らしに取り入れる?
藤本:僕はカリー寺っていう企画をやっているんです。今では東京や九州のお寺でも開催されるまでになりました。普段お寺に行かない人たちもお寺に気軽に行けるようになることを考えた時、ゆるくお寺を活用することが大切かなって思ったんですね。お寺に関わる入り口を低く、そして広くするような感じです。
関:丹後バルでは農家さんの裏話や野菜が出荷されるまでのストーリーについて話すようにしています。バルの参加者の方たちはとにかく「おいしい物を食べたい!」という目的でいらっしゃいます。
井上:農家になるまで、食材を買う所はスーパーしか考えられなかったけれど、今では自分たちが育てた野菜を食べ放題状態です。野菜を育てることは、手間のかかることだけれど、やっぱりおいしいですからね。手間はかかってもお金はかかりません。どんどん生活がシンプルになっていくような気がしています。
竹本:フェアトレードは突き詰めていくと地産地消なんですよね。自分の体にいいものにお金を使いたいなって思います。お金の循環を綺麗なものにしたいと考えたら自然と地産地消に近づいていくんじゃないですかね。
食の活動の役割と価値って?
藤本:添加物なんてくそくらえ!コンビニで買い物するなんてありえない!っていう食の過激派もいたりしますね。そういう人たちについてはどう思いますか?
竹本:どんな会社も「おいしいものをみんなに食べてほしい!」という気持ちで作られていると思います。それを痛感したのがインドネシアで食べたマクドナルドのチーズバーガー(笑)。「うまっ!」ってなりました。
関:今まで食に関して多くの人は“おなかを満たすための食”という考え方だったと思うのですが、現在のような飽食の時代で私たちは“賢い消費者”になることが必要なのかなと思います。本当に食べるべきものなのかどうか一旦立ち止まって考えることが大切なように思います。
井上:習慣的に使うものから良い物に変えていくのがいいのではないでしょうか。”早くておいしい”を実現している業者さんを否定する気はありません。
藤本:3人は消費者と生産者を繋ぐ役割を担っていますね。
井上:当たり前のことですが、私たちの身体は食べたものでできていますね。鬱病になった時に感じましたが、メンタルと食材って関係があるんじゃないかなって。
関:食に対する興味を持ってもらうのが私たちの役割です。おいしい野菜作りの裏側についてとか、例えば土作りはそのいい例ですね。
竹本:ココナッツオイル商品を購入してくださる方は、カポポサン島のストーリーに共感してくださる方が多いです。
それぞれが目指す状況
井上:これからは生野菜だけでなく、加工品にも挑戦していきたいです。ドレッシングとかスープとか。野菜を使ったケーキも考案中です。
関:こどもちゃれんじの“食育バージョン”を考えています。教科書の代わりに食材を送りたいな、なんて思ってます。農家さんの食材作りのストーリーを絵本にしたり、送られてきた食材を食べた感想を手紙にして農家さんの元に届けたりするのもいいですよね。農家さんに赤ペン先生になってもらって(笑)。
竹本:今後はココナッツオイルの量り売りをしたいと思ってます。商品の容器を何回も使えるようにしたいですね。なるべくゴミを出さない方法として、購入したココナッツオイルを使い切ったら容器を持ってきてもらってまたその容器に詰めるみたいな売買スポットを作りたいです。
3人の質問タイム
竹本:井上さんにお聞きしたいのですが、有機野菜のみで生活に必要な野菜は賄えるものなのでしょうか?
井上:可能だとは思います。江戸時代みたいな感じですよね。個々人が家で野菜を作ったりするのであれば可能な気がします。しかし有機栽培は大規模生産がなかなか難しいんです。農家の在り方が変わることよりも、消費者の中で「有機栽培の野菜のみを買う!」という風潮が出てきたら、つまり消費者の在り方が変わってきたら企業や農家の在り方も自ずと変わらざるを得ないんじゃないでしょうか。
藤本:最後の質問、次に移りかわるというハードルを乗り越えるきっかけになったのは?
竹本:3.11の東日本大震災がきっかけですね。衝動的に「これは東北に行かなあかん!」と思いました。お店の運営そっちのけで被災者支援をしに東北へ長らく通っていたのですが、だんだんお店の家賃の支払いも滞っていって仕事も滞っていったんです。そこで自己犠牲による他者貢献は自己満足でしかないと痛感しました。
関:小学校に管理栄養士として勤めて3年目の頃、仕事について悩んでいたんです。その時ウェブで調べたフリーランスの管理栄養士の方に会いに行ったことがきっかけですね。
井上:大きなきっかけというのはあまり思いつきませんね。移住に関してはフラッと行ってみたくらいの心持でした。今の生活に不満があって色々考えていたら次第に変化していった、というところでしょうか。「ITから農家はおもしろいんちゃうか?」くらいの感じです(笑)。
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このセッションを聞いて…
”食”という誰にとっても身近な話題であり、生きていくためには必要不可欠な存在と改めて向き合うことができた時間だった。やみくもに食材を消費してしまっている私が忘れていたこと、それは”食材を作ってくれている人たちの存在”だった。
個人主義社会を生きる私たちは、地域の人達との関係性が薄れ、ご近所付き合いをしなくなった。就職活動においても、組織の中でのスキルではなく個々人が持つスキルが重要視される。台風の酷い時にピザの宅配を頼み、時間通りに届かなかったことでクレームを入れるような”他人を思いやることができない”人たちがちらほら目に付く。
つまるところ、生活の様々なことがとりわけ自分という個人にのみ還元されてしまうことが多くなっている。「自分一人で生きていけるのではないか?」という慢心や「自分さえ良い思いをすれば他人のことなんてお構いなし」という人達が存在するこの社会の中でフェアトレードや地産地消が私たちに訴えかける言葉は何だろう。
それは「私たちは支えあいながら生を育んでいる」ということだ。
はるか遠い国の誰かさんが魚を捕ってくれているから、日本のどこかの都道府県の農家さんが野菜を作ってくれているから私たちは魚や野菜を食べることができる。付き合っている彼氏彼女に対しては直ぐ「あなた無しでは生きていけないの!」と言うのに、どうして農家さんには言わないのだろう。大好きなアイドルや歌手に対しては「この人たちのおかげで生きてます!」と言えるのに、どうして遠い国の誰かさんには言わないのだろう。
あなたの片手を繋ぐのは彼氏や彼女かもしれない。あなたの耳に繋がっているイヤホンから流れてくるのは憧れの歌手の歌かもしれない。
しかし、あなたと生を繋いでいるのは世界中の人達である。両手両耳では語りつくせない程大きな循環の輪の中を私たちは生きているのだ。
クリスマスの夜、遠い国の誰かさんに想いを馳せるように、食卓に並ぶ食材の一つ一つの生産者さんに想いを馳せてみてはどうだろうか。
Written by 鈴木凛 尼崎ENGAWA化計画インターン生
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Photo by 其田有輝也
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